[杉浦大介コラム第82回]渡邊雄太のNBA挑戦がいよいよスタート――再建途上のネッツで7月6日からサマーリーグに出場

杉浦大介 Daisuke Sugiura

[杉浦大介コラム第82回]渡邊雄太のNBA挑戦がいよいよスタート――再建途上のネッツで7月6日からサマーリーグに出場 image

「ワークアウトではとても印象的なプレイをしてくれた。多くのことができる多才な選手だ。常にハードにプレイするし、数多くの武器を持っている」。

ドラフト翌日の6月21日、ブルックリン・ネッツの一員としてサマーリーグに参加することが決まった渡邊雄太について聞くと、ネッツのショーン・マークスGMは笑顔でそう語った。5月21日に催されたワークアウト後には、渡邊自身も「良い動きができた」と手応えを語っていた。一部で期待されたドラフト2巡目での指名こそ叶わなかったものの、ネッツがオールラウンドな日本人選手の能力に注目していたのは事実のようである。

もちろん、まだサマーリーグのメンバーに入ったというだけで、これから実力を証明していかなければいけない。サマーリーグでネッツのメンバーとしてプレイしたからといって、トレーニングキャンプに臨む場合の所属先がネッツに限られるわけでもない。ただ、関係者の話を聞く限り、このままネッツ傘下で進んでいく可能性は高そうだ。そして、再建途上にいる今のネッツは、渡邊にとっても適したチームに思えてくる。

暗黒時代に終わりを告げたネッツ


2012年にブルックリンに移転して華々しく再スタートを切ったネッツだったが、過去3年連続で勝ち星は20勝台と惨敗続き。しかも5年前にケビン・ガーネット、ポール・ピアースらを獲得するトレードで2014、2016、2018年のドラフト1巡指名権(+2017年の1巡指名権を交換する権利)を譲渡したがために、ドラフトでも好選手が得られないという袋小路に陥ってきた。

しかし、そんな暗黒の時間も今年度のドラフトでようやく終了した。加えて21日にはドワイト・ハワード(アトランタ・ホークス/トレード後にバイアウトされ、ワシントン・ウィザーズとの契約に合意)との交換で向こう2年3270万ドルの契約を残したティモフェイ・モズゴフを放出したことで、来季のキャップスペース(サラリーキャップの余裕)には大きな空きができる。結果として、2019年オフにはドラフト1巡指名権を持っているだけでなく、6000~7000万ドルのキャップスペースを作ることが可能になる。

つまり人材難に悩んできたフランチャイズが、来夏には2人のマックス契約選手(最高限度額で契約する選手=スーパースター級の大物選手)、ドラフト1巡指名選手を獲得できるのだ。この1年後のオフこそが、ネッツにとって“第2のスタート”と呼び得る重要なときになることは間違いない。ショーン・マークスGM、ケニー・アトキンソンHCという有能なリーダーシップを確立したネッツの行方に、ようやく光が見え始めた。

ネッツにとって最後の我慢のシーズン


こうして収穫の時間を目前に控え、2018-19シーズンはもう1年だけ厳しい戦いを余儀なくされることになりそうではある。ディアンジェロ・ラッセル、ロンデイ・ホリス・ジェファーソン、アレン・クラブ、さらにポテンシャルの大きいジャレット・アレンといった選手が中心となるであろうロスターは、全体の層は薄く、上位進出が狙える戦力ではない。言ってみれば、来季は“最後の我慢のシーズン”だ。

ドラフトロッタリーのシステムでは、下位に低迷したほうがドラフトで好選手を指名できる可能性が高まるという事情もある。“タンキング”(ドラフト上位指名権獲得のためあえて負けること)と揶揄されるほど盛大に負けることはなくとも、ネッツフロントは来季中の積極的な補強は避けるだろう。今年度のドラフトで指名したボスニア・ヘルツェゴビナ出身のジャナン・ムサ、ラトビア出身のロディオンス・クルッツもどちらもポテンシャルこそ高く評価されるが、即戦力としてみなされているわけではない。こんな指名からも、ネッツの向かう方向性が伺い知れる。

渡邊雄太の挑戦がいよいよ始まる


来季は当面の勝ち星を狙うより、有望株に経験を積ませ、長期的な視野をもって使える選手を選別するシーズンになるのではないか。若手を継続的に登用する可能性が高いとすれば、渡邊のような立場の選手にもチャンスが出てくる。アトキンソンHCはこれまでスペンサー・ディンウィディー、ジョー・ハリスといったドラフト2巡指名の選手をうまく使いこなしてきただけに、ドラフト外からNBA入りを目指す23歳の日本人選手にも希望はあるはずだ。

まずは7月6日(日本時間7日)からラスベガスで始まるサマーリーグが渡邊にとって最初のアピールの舞台となる。アレン、キャリス・ルバートといった昨季もネッツに属した選手たちも出場予定だが、それ以外は極めて国際色豊かなメンバーとなる模様だ。Ding Yanyuhang(中国)、ショーン・ドーソン(イスラエル)、Juan Pablo Vaulet(アルゼンチン)らの多国籍軍が揃うフレッシュなロスターは、渡邊にとってもやりにくい環境ではないはずだ。

「(渡邊が)サマーリーグのロスターに加わったのはエキサイティングなことだし、じっくりとそのプレイが見れるのを楽しみにしている。彼に限った話ではないが、サマーリーグは大きなチャンスになる」。

マークスGMがそう述べる通り、ラスベガスで良いプレイができれば期待感は膨らむ。ディフェンス、ロングジャンパー、献身的なプレイといった長所を発揮すれば、さらに先にも繋がっていく。

サマーリーグで存在感を示し、トレーニングキャンプを経て、NBA開幕ロスター入りという渡邊の目標を叶えるのは容易ではないだろう。たとえそうだとしても、まずはGリーグでプロの水に慣れるのも悪くはない。再建中のネッツのGリーグチーム(ロングアイランド・ネッツ)に属し、実績を積み重ねていけば、長いシーズン中にネッツ、あるいは他のチームから声がかかることもあり得るのではないか。

日本人史上2人目のNBAプレイヤーを目指す渡邊の行方には、まだまだ長い道のりが広がっている。それでも視界が徐々に開けてきたように感じられるのも事実だ。長く追いかけてきたNBAは、もう遥か彼方の夢ではなく、現実的な目標になったといっても決して間違いではないはずである。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。