フィラデルフィア・76ersはジョエル・エンビード、ベン・シモンズという若きスーパースター候補たちに注目が集まっている。だが、“第3の男”の存在も忘れるべきではない。クロアチア出身の23歳、ダリオ・シャリッチは、NBAレベルでも上質なオールラウンダーとして、“2年目のジンクス”を吹き飛ばすような活躍を続けている。
今季の1試合平均得点(15.1)は、リーグ規定のプレイ機会に達している全パワーフォワードの中で8位、3ポイントショット成功率(40.1%)は同5位、アシスト(2.6)は同7位、フリースロー成功率(86.8%)は同1位、オフェンシブリバウンド(2.0)でも6位の好成績だ。
昨季は新人王投票で2位に入った身長208cmのプレイメーカーは、その多才さを存分に披露している。エンビード、シモンズと比べると地味だが、プレイオフで上位進出を目指すチームのキープレイヤーとして、シャリッチの名を挙げる関係者も多い。
3月15日、ニューヨークでのニックス戦後にシャリッチに話を聞いた。英語が母国語ではないながら、もともと雄弁なことで知られる。取材途中に他の選手たちは帰り支度を終え、ロッカールームは空っぽになっていたが、それでも「時間は気にしないで大丈夫」。
淀みなく溢れ出る言葉からは、NBAでプレイできる喜びと、間近に迫った初のポストシーズンへの期待感が伝わってきた。
自分にはまだまだ伸びしろがある
――NBAで2年目を迎え、今季はより快適にプレイしているように見える。
それは間違いないね。新しい場所では攻守両面で適応せねばならず、1年目は多少の時間が必要なもの。ただ、僕は去年の後半も良いプレイができていたと思う。2年目を迎え、NBAのゲームがどんな風に動き、チームメイトたちがどう考えているかがわかるようになった。それによって、自分自身の仕事を理解し、他の選手たちのためにどうスペースを作るべきかもわかってきたんだ。
――確かに、昨季中も2月6日~3月24日まで22試合連続で二桁得点をマークし、新人王候補に急浮上した。去年の今の時期に話を聞いたときには、エルサン・イリャソワがいろいろ助けてくれると話していたね。
彼はとても親切で、僕の師匠のような存在なんだ。プレイヤーとしてのタイプが似ていたこともあり、昨季中は本当に様々な面でサポートしてくれた。
このリーグで生き残っていくのは簡単なことではなく、犠牲を払い、常にハードにプレイする必要があると助言をくれた。そんな彼が(2月下旬に)再び76ersに戻ってきたことを心から嬉しく思っているよ。
――ロングジャンパーとパスセンスを兼備したプレイメーカーとしてすっかり立場を確立したが、まだ向上させる必要があると思う部分は?
様々な面でまだまだ上達しなければいけないと感じている。昨オフに重点的に取り組んだ3ポイントショットの成功率は向上した。あとはディフェンス時のフットワーク、ボールハンドリングといった部分をもっと鍛えなければいけない。自分にはまだまだ大きな伸びしろがあると思っている。今季終了後にさらに多くのトレーニングを積むのが今から楽しみだよ。
心のフェイバリットプレイヤーはペトロビッチ
――2014年にドラフト指名を受けたあと、2年間をトルコリーグでプレイした。ここまでのキャリアを振り返って、NBA入りまで2年待ち、欧州でキャリアを積んだ自身の選択は正しかったと思う?
うーん、正直に言って、あと1年早くアメリカに来ていても良かったかなと思うね。ドラフト指名された後、トルコリーグで2年間を過ごしたのは長すぎたかもしれない。
最終的には自分で決めたことだから、自身の選択には誇りを持っているし、ユーロリーグで多くのことを学んだのは事実だ。ただ、もう少し早く来て、アメリカで経験を積み重ねても良かったかな、という気持ちもある。
――1年前には、トルコリーグ時代に欧州の伝説的コーチだったドゥサン・イブコビッチの指導を受けたのは大きかったと話していた。
コーチから得たものは本当に大きかった。2年間を通じて、いつかNBAでプレイする日のために僕を準備させてくれた。僕にとって父親のような存在だ。トルコでは多くの素敵な人たちに出会ったけれど、コーチのことは忘れられない。
――イブコビッチから学んだもので最も重要なことは?
毎試合に集中することの大切さを教えてもらった。彼は選手たちを発奮させるのが本当にうまいんだ。
あるゲームで、39~40歳の大ベテランとマッチアップした際、試合前に「私には、この40歳の選手と21~22歳の君に違いがあるように見えない。ゲームではハードに動き、良いプレイをすることだな」と言われたんだ。その選手は全盛期には良いプレイヤーだったかもしれないけど、もうキャリアの終盤に差し掛かっているベテランだった。40歳の選手と比べられてたまるか、とあのときはやる気にさせられたものだよ。
そういったメンタリティを叩き込まれたのは僕にとって大きかったし、彼は最高級のコーチだったと今でも思う。
――子供の頃に好きだった選手は?
僕の父親もバスケットボールの選手で、父からはマジック・ジョンソン、ラリー・バードといったスーパースターの話をいつも聞かされて、映像もたくさん見た。もちろん、同じホームタウン(シベニク)出身のドラゼン・ペトロビッチの名前も忘れられない。
ペトロビッチにとってはバスケットボールがすべてで、ゲーム、練習時は常に100%の準備を整えて臨む選手だった。残念ながら亡くなってしまったけれど、彼は僕にとって“心のフェイバリットプレイヤー”なんだ(※ペトロビッチは1989~1993年にNBAで活躍した旧ユーゴスラビア/現クロアチア出身の選手。欧州出身選手の先駆け的な存在)。
あとはマヌ・ジノビリ、ダーク・ノビツキーといった外国人プレイヤーは好きだったし、それからレブロン・ジェームズ、コービー・ブライアント、アレン・アイバーソンにも憧れた。僕にとって特別と言える選手はたくさんいるんだ。
優勝リングを持っていることがMVP経験よりも重要
――76ersでは、エンビード、シモンズという2人に注目度と話題性が集中している。“第3の男”としてプレイすることに難しさはある?
いや、難しくはないね。ジョエルとベンこそがこのチームのベストプレイヤーであり、彼らが特別な才能を備えていることには明白だからね。76ersだけでなく、リーグ全体を見渡してもユニークなタレントだ。そんな選手たちと一緒にプレイするのは楽しいもので、問題などあるはずがない。
それに、76ersは彼らにばかり負担が集中しているわけではなく、今夜(ニックス戦)だって合計6選手が二桁得点をあげている。ジョエルやベンのような万能プレイヤーがいるとすべてが容易になるもので、チーム内にはケミストリーも生まれ易くなるものさ。
――確かに、今の76ersは無限大の可能性を秘めたチームに見える。今後、さらに上に行くための課題は?
まだゲームごとに波があるので、より安定したプレイをすることだろうね。リーグのベストチームが相手でも、ワーストチームとの対戦でも、同じように準備していくことが、将来を考える上での課題だ。いつでも同じようにハードに動くことができるようになれば、僕たちはもっと良いチームになれる。
このロッカールームを見渡せば、若く才能のある選手ばかりだ。もちろんケガなどは起こり得るけれど、今後が楽しみなことは間違いないよ。
――NBAでプレイしていく上で、何を成し遂げたい?
バスケットボールをプレイする者は、誰もが例外なくNBAを目指す。そして、NBAに辿り着いたら、みんなが優勝を目指すんだ。選手、コーチ、フロントオフィス、スタッフ……このリーグに関わるすべての人間は、同じものに向かって努力する。
僕の目標ももちろん同じだ。平均15~20点をあげるよりも、いつかこの指にチャンピオンリングを嵌めたい。
――なかには個人成績に目が行きがちな選手もいるけれど、とにかくファイナル制覇が大目標ということだね。
自身の数字により集中しがちなプレイヤーがいるのは事実だ。でも、結局のところ、NBAのチャンピオンリングを持っていることがMVP経験よりも重要なんだ。少なくとも僕はそう思っている。
文:杉浦大介 Twitter: @daisukesugiura