良い形で幕を閉じたオールスター
「ラストプレイでは良いディフェンスができた。好ゲームだったし、接戦だった。これまで自分が関わった中でベストのオールスターゲームだったろう」。
2018年のオールスター終了後、ケビン・デュラント(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)が残したそんな言葉に多くのファンは同意するのではないか。
今季の“夢の球宴”は近年稀に見る好ゲームになった。両軍スターたちが持ち味を発揮し、最終クォーターの最後の4分半は常に5点差以内の大接戦。148-145とチーム・レブロンがリードして迎えたラストプレイでは、デュラント、レブロン・ジェームズ(クリーブランド・キャバリアーズ)がステフィン・カリー(ウォリアーズ)をダブルチームで封じるというオールスターならではの見せ場も生まれた。
ゲームを通じて激しくやりあったわけではないが、最終クォーターが引き締まったことの意味は大きい。おかげでロサンゼルスで開催されたオールスターウィークエンドは、例年以上に良い形で幕を閉じたのだった。
「僕たちのコミッショナーが素晴らしいのは、改革を受け入れてくれること。フォーマットを変えたことは機能した。おかげで素晴らしい週末になった」。
通算3度目のオールスターゲームMVPを獲得したレブロンがそう述べた通り、内容が向上した原因をフォーマット変更に見いだす選手、関係者は多かった。
新フォーマットは“きっかけ”
近年のオールスターの内容悪化に業を煮やしたNBAは、今季からイースタン・カンファレンス対ウェスタン・カンファレンスという従来の方式を撤廃した。東西のファン投票1位になった2人がキャプテンになり、カンファレンスを考慮せずに選手を指名してチームを作るという“ドラフト制”が採用された。おかげでレブロンとデュラント、カリーとヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)といった夢のデュオが生まれ、球宴に新たな興味を生み出すことになったのだ。
もっとも、個人的には、フォーマット変更が好試合を演出する直接の原因になったとは思わない。それよりも、「新フォーマットは我々にとってのリセットボタンになってくれた」というカリーの言葉通り、いわば“きっかけ”だったのだろう。
新システムを持ち込むことで選手たちに刺激を与え、球宴の舞台でも上質なゲームを見せることの重要さを改めて思い出させた。そう言った意味で、レブロンの言葉通り、常に抜本的な改革を恐れないNBAの姿勢は評価されていい。そして、この週末からはさらなる変化の余地も見えてきている。幾つかの変更を加えれば、NBAオールスターはより興味深いものになるように思えるのだ。
例年のような“ダンク合戦”のようなユルさはなく、試合を通じて真剣勝負が繰り広げられた
ドラフトは公開すべき
来季以降も今回採用したフォーマットを保つなら、2人のキャプテンによるドラフトは公開されるべきだ。キャプテンであるレブロンとカリーがどんな順番、理由でそれぞれの選手を指名したかわかれば、より興味深いものになっていたはずだ。
今回のドラフトがテレビ中継されなかったのは、“最後に指名される選手に恥ずかしい思いをさせないため”、“キャプテンに自身の所属チームの選手を選ばなければいけないという重圧を与えないため”だと伝えられている。
特に1つ目の理由は理解できないことはない。ただ、現代のスポーツ界ではメディアへの情報のリークは避けられず、今オールスターでも結局はドラフトで最後まで残ったのがラマーカス・オルドリッジ(サンアントニオ・スパーズ)とアル・ホーフォード(ボストン・セルティックス)だったと報道されてしまった。
“最後の1人”になることは不名誉にも思えるが、当のオルドリッジは「最初の指名だろうが、最後だろうが、ここにいられて嬉しいよ」とさっぱりしたもの。実際に1カンファレンスわずか12人ずつのオールスターに選ばれるだけでも大変な名誉なのだから、ほとんどの選手たちは指名順が後ろになってもそれほど気にしないのではないか。
「選手たちからは“オールスターであることに変わりないんだから、僕たちは構わないよ。公開ドラフトにしよう”と言われている。来年はドラフトがテレビ中継されるかもしれない」。
2月18日(日本時間19日)のオールスターゲーム後、アダム・シルバーNBAコミッショナーもそう話していたと伝えられている。仮にそんな方向に進むのなら、公開ドラフトはオールスターウィークエンドの金曜日に組み込んではどうだろう。やや盛り上がりに欠けがちなライジングスターズの前後に、オールスター本戦のチーム編成会議を開催すれば、お祭り感が煽られることは間違いあるまい。
今後の改善点は?
そのほかにも、修正、テコ入れが必要だと感じるものは少なくない。本戦のメンバー構成を東西12人ずつに保つのは良いが、辞退者が出た後の代替選手はカンファレンス関係なしに選ぶべきではないか。今回はゴラン・ドラギッチ(マイアミ・ヒート)よりも、ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)のほうがオールスターに相応しかった。
また、土曜日の華であるダンクコンテストには“元王者”枠を作り、過去のチャンピオンを1人参加させても面白い。出場メンバーが中途半端なセレブリティゲームを続けるより、引退した元スターが出場するオールドタイマーズ・ゲームを実施してはどうか。NBAにはお洒落なスーパースターが多いだけに、“選手のファッションショーを行なっては”という意見が奇抜すぎるとは思わない。
今年度のオールスターは全米総世帯数の4.3%にあたる約510万世帯が視聴し、2013年以来の高数値だった(ニールセンの調べ)。近年のNBAオールスターゲームは必ずしも評判が良いとは言えなかったが、この視聴率はそれでもスポーツファンの関心が依然として高いことを証明している。
そんなビッグイベントをさらに華やかにするために、コミッショナー以下、NBAの尽力に期待したい。2018年に良い方向に進んだのは間違いないが、NBAのもともとのエンターテインメント性の高さを考えれば、“夢の球宴”がさらに楽しいものになっても不思議はないはずなのだ。
文:杉浦大介 Twitter: @daisukesugiura