[杉浦大介コラム第78回]3x3ディベート: ネッツの現在地と未来を3人の識者が分析

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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2012年にブルックリンに移転して華々しく再スタートを切ったネッツだったが、ここ数年は泥沼の不振に喘いでいる。移転当初に多くのベテランを狙う短絡的な補強を繰り返した代償として、昨季は20勝62敗、一昨季は21勝61敗と惨敗。現在は極端なタレント不足に悩まされている。

ここ2年強の間にショーン・マークスGM、ケニー・アトキンソンHCというフレッシュな人材を登用したネッツは今後どこに向かうべきなのか。

今回は『ESPN.com』の人気企画“5-on-5 ディベイト”をモデルに、3人のネッツ・エキスパートに3つの質問をぶつけてみた。彼らの言葉から、長い再建の道を歩むネッツの近未来が見えてくる。

▼パネリスト

ブライアン・ルイス: 『ニューヨーク・ポスト』のネッツ番記者。Twitter: @NYPost_Lewis

マイケル・スコット: 2018年2月より『The Athletic』のネッツ番記者を務める。Twitter: @MikeAScotto

アンソニー・プチオ: 『SB Nation』と『Netsdaily』のネッツ番記者。Twitter: @APOOCH

1. ネッツは正しい方向に向かっているのか?

ルイス: 聡明なマークスGMという新たなリーダーに率いられ、向上を示しているとは思う。今季は強豪チームを相手に好ゲームを演じる回数も増えた。ただ、前体制の間に落ちた穴は相当に深いために、プレイオフに進出できるようになるにはまだかなり長い長い時間がかかるだろう。

スコット: 去年はシーズンを通じて20勝だったのに、今年は2月初めの時点でもう19勝をあげた。チームの位置は結局は勝ち負けで判断されるべきで、ネッツは確実に前に進んでいる。ディアンジェロ・ラッセルというタレントが加わり、チーム全体のシュート力も向上した。スペンサー・ディンウィディーを先頭に、去年からこのチームに属していた選手にも成長が見られる。個人的には新人のジャレット・アレンを気に入っていて、彼は将来チームのコアの一人になれると考えている。

プチオ: アトキンソン、マークスがネッツを引き継いだ際には、チーム内には武器と言えるものはほとんどなかった。ビリー・キングGM時代から残っているのはロンデイ・ホリス・ジェファーソン1人だけ。今ではそのジェファーソンに加え、ラッセル、キャリス・ルバート、ディンウィディー、ジャリル・オカフォー、ジャレット・アレンといった24歳以下の好素材が手に入った。約2年前と比べれば良い方向に進んでいるのは明白だ。ドラフト指名権を持たなくとも、(ラッセル、オカフォーといった)ドラフト1巡目指名の選手たちを獲得することに成功し、新たな基盤ができつつある。

2. 評価の分かれるディアンジェロ・ラッセルはスターになれるのか?

ルイス: ネッツの再建にはまだ時間がかかるが、そのスピードを早められるとすれば、ラッセルがオールスターレベルでプレイし、オカフォーがNBA1年目のような力を出せたときだろう。叶うかどうかはわからない。もちろん、ラッセルが例えばステフィン・カリー、ケビン・デュラントのようなレベルの“フランチャイズプレイヤー”になることを期待すべきではない。ただ、現在21歳という若さを考えれば、ややレベルの落ちるイースタン・カンファレンス内で、2年後にオールスター当落線上のプレイヤーになることは不可能ではないかもしれない。

そのためにはディフェンスを向上させる必要がある。好ディフェンダーになるだけのフィジカルの素材、身体能力を持っているのにもかかわらず、今のラッセルはマッチアップする相手に簡単に27~28得点を許してしまう。次の段階に進むために、リーダーシップ、ディフェンスの改善は必須だ。

D'Angelo Russell Nets
昨年6月のトレードでレイカーズからネッツに移籍したラッセル

スコット: 今季序盤に故障を経験する前まで、ラッセルは平均25得点、5アシスト、5リバウンド近くの成績を残していた。これはオールスターレベルのスタッツであり、ドラフト全体2位でNBA入りした当初の期待通りの数字と言える。ただ、彼がシーズンを通じてそれだけの活躍ができることは証明されていない。“フランチャイズの顔”になれるか? 現時点で言えるのは、彼にはオールスターに選ばれるだけのポテンシャルがあるということだけだ。

プチオ: ラッセルのポテンシャルは底知れないものがある。まだ21歳で、オフェンス面の能力はすでに素晴らしい。ただ、マークスGM下のネッツで、彼は自身が15人のロスターの中の1人であることを理解する必要がある。スターだろうが、スーパースターだろうが、大きなパズルの中の1ピース。リーダーシップも学ばなければいけない。バスケットボールはチームゲームだということに気づかなければいけないんだ。

3. 勝てるチームになるまでにまだ時間がかかりそうな中で、今後にどんな手を打つべきか?

ルイス: 基本的に来季も似たような陣容でプレイし、オカフォー、ラッセル、アレン、ルバートといった主力選手たちの向上を願うことになる。2019年夏までにラッセル、オカフォーが成長した上で、フリーエージェントに多くの資金を費やせる状況になっていれば面白くなる。その夏こそがこのチームにとって極めて重要な季節になるはずだ。

問題はそれまでに何をすべきか。一昨年の夏にネッツはFAでケビン・デュラント獲得を望んだが、デュラント側に興味はなく、交渉の席に漕ぎ付けることすらできなかった。そんな惨めな結果から、現状では大物の獲得は不可能と気付いたはずだ。同じ失敗を繰り返さないように、基盤のしっかりしたチームになれることを証明しておかなければいけない。だからこそ、今のうちからしっかりとしたプレイをしておく必要がある。

Spencer Dinwiddie Bets
大半の試合でスターターを務めているディンウィディーは今季自己最多の得点アベレージ(13.7点)を記録している

スコット: 今後はラッセル、ディンウィディー、アレン、ジェファーソンが軸としてスターターを任され、さらにアラン・クラブも主力に含まれるだろう。彼らを支えるべく、まずはインサイドの層を厚くしておくべきだ。ドラフトでの補強に向けてスカウティングを強化し、FAでも現実的にどれだけの選手を獲ることが可能なのかを見極める。今年は30勝前後、来季はおそらく35勝前後まで勝ち星を増やし、プレイオフ進出が狙えるのは2019-20シーズンではないか。

プチオ: 今季のテーマは“向上”、“成長”で、前半戦では確実な成果が見られた。かといって、すぐに勝ちにいけるわけではない。今のネッツがやるべきことは、近い将来にFAになるスタープレイヤー、そのエージェントに“ブルックリンは悪い場所ではない”と示すこと。その点で、今季ここまででカルチャーが変わり始めていることはアピールできているのではないか。

まだ時間がかかるが、2019-20シーズン頃までには悪くないチームになり、FAマーケット内でも注目される存在に戻れるかもしれない。種はすでに撒かれ、今は花を咲かせる前の段階にいる。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。