名門フランチャイズがようやく復活気配———。昨季まで4年連続でプレイオフ進出を逃したニューヨーク・ニックスが、今季はクリスマスゲームを終えた時点で17勝16敗とまずまずの成績を残していた(現在は20勝24敗のイースト10位)。
評判の悪かったフィル・ジャクソン前球団社長がオフにチームを去り、今季はスティーブ・ミルズ球団社長、スコット・ペリーGMによる新体制がスタート。昨季まで6年半にわたってチームを支えたカーメロ・アンソニーがオクラホマシティ・サンダーにトレードされ、エースの座は3年目のクリスタプス・ポルジンギスに引き継がれた。こうして新たに生まれ変わったチームは、このまま上昇気流に乗っていけるのか。
今回は『ESPN.com』の人気企画“5-on-5 ディベイト”をモデルに、3人のエキスパートに3つの質問をぶつけてみた。彼らの言葉から、ニックスの“現在と未来”の実情が浮かび上がってくる。
▼パネリスト
イアン・ベイグリー: ESPN.comのニックス番記者。Twitter: @IanBegley
マイケル・スコット: 『Basketball Insiders』のシニアライター。ニューヨークを拠点とする。Twitter: @MikeAScotto
ブライアン・マホーニー: 『Associated Press』のニックス&ネッツ担当。Twitter: @briancmahoney
1. カーメロ・アンソニー放出は正しかったのか
ベイグリー: 去年はフィル・ジャクソン球団社長とカーメロが公に対立し、カーメロの未来が不明確になったおかげで、ニックスの周囲には常に暗い雲が立ち込めているようだった。そんな後で、両サイドにとって先に進むには適切な時期だったと思うし、カーメロ本人もそう言うだろう。トレードのおかげで、ニックスは若きスーパースター候補のポルジンギスを中心としたチーム作りができるようになった。カーメロの交換要員として獲得したエネス・カンター、ダグ・マクダーモットも今季序盤戦では大きな助けになっている。
スコット: ニックスは再建体制に入っており、まだ優勝経験のないカーメロにとって、上位進出が狙えるコンテンダー(=サンダー)にいくことのほうが魅力的な選択肢だった。トレードの引き金を引くことによって、ニックスは再建のスピードを早めることもできる。目論見通り、今季はポルジンギスがフランチャイズの顔になっている。カーメロ、ニックスの両方が環境の変化を必要としており、どちらにとってもトレードは有益だった。あと少し早く、例えば1年前に行なっていても良かったという声もあるかもしれないが、個人的には適切なタイミングで実行されたと思う。
マホーニー: 依然としてカーメロこそがニックスのベストプレイヤーだと思っていたから、当初は私はトレードには反対だった。しかし、振り返ってみれば正解だったのだろう。なぜなら、あれほどニューヨークへの愛着を語っていたカーメロが、最終的にはついに移籍を望んでいるように見えたからだ。あのまま残っていても状況は悪化するだけ。あれほど関係がこじれてしまえば、トレードこそが最善の手段だった。
2. ポルジンギスは真のスーパースターになれるか
ベイグリー: まずは健康を保つことが絶対条件だ。それさえ叶えば、練習熱心さと、自分に何が必要かを認識する聡明さを備えたポルジンギスは、NBAのトッププレイヤーになれるだろう。身長7フィート3インチというサイズを持ち、NBA入り3年目にして自身のショットをクリエイトできるようにもなり、ポストゲームでディフェンダーの頭上からシュートを決められるようにもなった。ディフェンス面でもゴール周辺でブロック力を発揮している。まだペリメーターでシュートまで持っていくことに苦しむシーンは見受けられるが、弱点を矯正しようという謙虚さを持っている彼ならそれも克服できる。少しずつ足りない部分を減らし、いずれ特別なプレイヤーになるはずだ。
スコット: 順調に伸び、1年を通じて安定してプレイができるようになれば、いつかリーグ最高のプレイヤーになる可能性があると考える。あれほどのサイズで、3ポイントショットを打ち、ブロックを決め、フロアを走る機動力も持っている。彼のスキルセットは本当に稀有で、“ユニコーン”などと呼ばれるのも理解できる。今後の課題はリバウンドで、あとはケガを減らすというのがやはり条件になる。それさえ果たせれば、オールスターの常連になれるはずだ。そして、様々なことが良い方向に進めば、3〜5年後のピーク時にはリーグのベストプレイヤーになっているかもしれない。そこまでは到達できなかったとしても、リーグのトップ10に入る選手にはなるだろう。
マホーニー: ポルジンギスは毎年確実に向上している。昨季は素晴らしいプレイをしたとは言えず、1〜2年目の成長度自体は期待されたほどではなかった。それゆえに今季は少なからず未知数の部分が残っていたが、ここまでの活躍は本当に素晴らしい。8~10フィートからのターンラウンドジャンパーはほとんどアンストッパブルな武器になった。将来的には間違いなくスーパースターになると思う。ただ、故障の多さは懸念材料ではある。あれだけのサイズの選手は足に負担がかかるもので、まずは1シーズンを通じて働けることを証明せねばならない。若手スター候補はえてして故障に悩まされるもの。彼が近い将来に82試合にわたって活躍できるようになることを願っている。
3. 今季のニックスはプレイオフに進出できるか
ベイグリー: 主力選手が健康を保ち続ければ、3月下旬までプレイオフに手が届く位置に残れるだろう。シーズン終盤にどんなプレイができるかにもよるが、第7~8シードを最後まで争うことは可能だ。それを成し遂げれば、今季開幕時点での期待度を遥かに上回る成果と言える。来季以降を考えても、迷い込んだ暗いトンネルの行く手に明かりが見えてきているのかもしれない。ポルジンギスというフランチャイズプレイヤー候補が生まれ、将来のドラフト1巡目指名権もまだ保持している。ティム・ハーダウェイJr.、フランク・ニリキナも近未来のコアになっていけそうだ。彼らが揃って成長すれば、フリーエージェントのスター選手を惹きつけることだってできる。過去15~20年と違い、今のニックスは正しい方向に進んでいるように見える。
スコット: イースタン・カンファレンスは混戦模様だし、ニックスの主力が健康であり続ければ、チャンスは十分だ。コートニー・リーは良いプレイをしているし、マクダーモット、カンターもポルジンギスとうまく噛み合っている。ニリキナは徐々にプロの水に馴染み、第4クォーターに強さを発揮していることはシーズン終盤に大きく響いてくるだろう。現時点では、私はニックスはプレイオフに出ると考えている。
マホーニー: 今季は結局はプレイオフを逃すと予想している。そのレベルに達するにはまだあと1枚武器が足りない。これまではホームゲームが多く、後半戦ではロードで多くの試合をこなさなければいけないのも厳しい。イースタンにはニックスより優れたチームが8つ以上存在すると考える。ただ、もともと今季はプレイオフに進出できるとは予想されておらず、逃したからといって悲観すべきではない。まったく方針が見えなかったジャクソン球団社長を諦め、新しいリーダーシップに引き継がれ、ニックスは間違いなく正しい方向に進んでいる。楽しみな若手選手も何人か擁している。低迷時期が長かったから、勝てるようになるまで少し時間はかかるだろうが、チームの周囲の空気がポジティブになっているのはすでに感じられる。
文:杉浦大介 Twitter: @daisukesugiura