[杉浦大介コラム第75回]新人タイラー・キャバナーが語るNBA1年目の生活と後輩・渡邊雄太のポテンシャル

杉浦大介 Daisuke Sugiura

[杉浦大介コラム第75回]新人タイラー・キャバナーが語るNBA1年目の生活と後輩・渡邊雄太のポテンシャル image

日本バスケットボール界の期待の星、渡邊雄太の元チームメイトがNBAで確かな実績を残し始めている。

昨季まで渡邊とともにジョージ・ワシントン大学(以下GW)でプレイしたタイラー・キャバナーは、今季開幕直後の11月5日にアトランタ・ホークスと2ウェイ契約(ツーウェイ契約 ※注)を結んだ。当初は出場機会が少なかったが、12月に入って最初の4戦はすべて20分以上をプレイ。12月6日のオーランド・マジック戦では13得点、6リバウンド、9日の同じくマジック戦でも14得点、8リバウンドをあげるなど、徐々に力を発揮できるようになってきた。これまでの働きを見て、ホークスはキャバナーと正式契約を結ぶ方向にあると報道されている。

ニューヨークで行なわれた12月2日のブルックリン・ネッツ戦、12月10日のニューヨーク・ニックス戦のゲーム前、キャバナーに話を聞いた。

プロ選手となった今も、GW時代から顔なじみの筆者に対する礼儀正しさは変わらない。聡明さを感じさせる落ち着いた口調で、NBAへの適応、母校への思い、渡邊の可能性などについてじっくりと語り残してくれた。

※注: 今季から採用された新制度。基本はNBAチーム傘下のGリーグチームでプレイするが、1シーズンに45日間だけNBAでロスター登録が許される。各チーム2人まで2ウェイ契約を結ぶことできる。これによってNBAチームがロスターに登録できる選手数は15人から17人になった。

“プレッシャー”ではなく、むしろ“チャンス”

――NBAでの1年目はどうですか?

良い感じで来ていますよ。これまではクレイジーな日々でした。ホークスのトレーニングキャンプに参加し、一度は解雇され、Gリーグに行くことになり、その後についにNBAに昇格。素晴らしい経験だし、ここにいられる自分は幸運だと思います。

――ホークスでは比較的すぐにプレイ時間を得るようになり、スムーズに適応しているようにも見えます。

トレーニングキャンプに参加していたので、選手のプレイスタイル、コーチが望むことなどがわかっていたのは大きかったと思います。自分のプレイをし、必要以上にやろうとし過ぎないことを心がけています。

オープンの際はシュートを打ち、ディフェンスに奔走し、常にハードに動き、リバウンドを掴む。大切なのはこのチームのプレイメーカーたちを生かそうとすることですね。ホークスにはデニス・シュルーダーという優れたポイントガードがいるし、ほかにも得点できる選手は揃っています。そんなチームの中で、とにかく自分の役割を確実にこなすことを頭に置いてます。

Tyler Cavanaugh

――2ウェイ契約ではNBAに帯同できる時間が限られています。そんな中で、「すぐに結果を出さなければいけない」といったプレッシャーはありましたか?

どの試合が最後になるかわからない、明日にはGリーグに戻るかもしれないとは考えていました。ただ、それが“プレッシャー”だったとは思いません。むしろ“チャンス”であり、自分がどんな選手かを示したかった。特別なことをやろうとするのではなく、これまで積み重ねてきたことをそのまま出そうと考えてきました。

ダーク・ノビツキーとケビン・ラブのファン

――12月6日のマジック戦では13得点、6リバウンド、9日の同じくマジック戦でも14得点、8リバウンドとリズムを掴んできました。

これまでより多くの時間をプレイするようになり、自信も増してきているのは事実です。今季のホークスはケガ人が多いので、どんな形でも貢献しようと考えています。そのチャンスを生かせていることは嬉しく思います。

――GW時代からミドル、ロングレンジのシューティングには定評がありましたが、シュート力はNBAでも通用すると感じていますか?

そう思います。シュートを高確率で決めれば、僕はこのレベルでもプレイし続けられる。もちろん他の部分も向上させなければいけませんが、シュート力は自分にとっての鍵になると考えています。

Tyler Cavanaugh

――NBAで生き残っていくために、ほかに課題として考えている部分は?

ディフェンス面での適応です。NBAの選手たちは大きく、強い上に身体能力があるアスリートたち。僕は身体能力に恵まれたタイプではないので、対抗するためには賢明にプレイしなければいけない。その術を学びながら、オフェンスでも貢献し続けるのが目標です。

――ミッドレンジのプレイが得意という意味で、シュルーダーはあなたとザック・ランドルフに共通点があると話していました。ランドルフは少しイメージが違う気もしますが、ほかに誰か参考にしたNBAプレイヤーはいますか?

ダーク・ノビツキーとケビン・ラブのファンでした。彼らのプレイスタイルが好きで、同じように多才で、フィジカルの強さ、アグレッシブな姿勢を持った選手になりたいと願ってきました。

――カレッジ、NBAの最も大きな違いはどこにあると感じていますか?

NBAは全体のレベルが格段に高いですね。カレッジでスター、エリートだった選手が集まってくるリーグですから。スペースをより大きく使い、3ポイントラインも長くなるという意味で、ゲームにはかなり大きな違いがあります。アジャストメントは容易ではないですが、やりがいがあるし、楽しいですよ。

渡邊雄太の多才さに各チームが注目するはず

――母校のGWについても話して下さい。今季のチームのプレイも見ていますか?

もちろんです。多くの新入団選手が加わったために、今年は事前の評価は高くありませんでした。しかし、モーリス・ジョセフHCは就任2年目のフルシーズンを迎え、コーチとともにチーム全体が向上していけるはず。人々が考えているよりも良いシーズンを過ごせると予想しています。

――渡邊選手の働きはやはりポイントになりますか?

僕は在籍中にユウタと親しくなり、コート上で彼に何ができるかもよく分かっているつもりです。ユウタは今ではアトランティック10・カンファレンスでもトップ5に入るプレイヤー。もちろん重要な存在だし、攻守両面での彼の活躍はGWにとって必須事項です。ユウタならやってくれるはずで、間違いなく素晴らしいシーズンを過ごすでしょう。

――昨季、マジックの一員として5戦に出場したパトリシオ・ガリーノ、将来のプロ入りが期待される渡邊など、GWからは毎年のように優れたプレイヤーが出てきます。ミッドメジャー(中堅)のカレッジからこれだけ好選手が育つ理由はどこにあるのでしょう?

マイク・ロネガン前HCが過去3年の主力になった選手たちをリクルートし、当時のスタッフが一丸となって強化に取り組んできました。コーチ陣は特に選手の育成に秀でていると思います。パトリシオが年々向上したのはご存知の通りです。

僕は転校生でしたが、規定で出場できなかった2014-15シーズンにコーチの指導の下で身体を鍛え直したのが大きかった。ユウタも同じように1年の時から身体作りを続けていて、次は彼の番だと思っています。

――しっかりした育成体制が整っているということですね。

GWはチームプレイを重視していることも大きいと思います。ボールをシェアし、全員でやり遂げるバスケットボール。学年を重ねるごとにそれぞれの選手のチーム内での比重が増していきます。そんなチームでプレイすることで、能力と成長度を周囲の人たちにも示せるのでしょう。

Tyler Cavanaugh Yuta Watanabe 渡邊雄太

――NBA昇格後の11月11日には(GWのある)ワシントンDCでウィザーズ戦がありました。GWのスタッフも見に来たんですか?

コーチが来てくれたし、ユウタも他の選手たちと一緒に来てくれましたよ。みんなに会えて本当に嬉しかったです。

――渡邊選手は今でもキャバナー選手とテキストメッセージで連絡を取り合っていると話していました。 

だいたい1週間に1度くらいのペースでメッセージを送りあってきました。ただ、ユウタはチーム内の重責を背負った大変な立場にいるので、今後は週2~3回は激励のメッセージを送ろうと思っています。

――両方を経験した先輩として、渡邊選手がNBAに辿り着くためには何が必要だと思いますか?

ディフェンス力は間違いなく彼の売り物になります。身長6フィート9インチ(206cm)というサイズを持った選手が、ガード、ウィングといった複数のポジションを守ることができる。しかも、今季はハイペースでブロックを量産しています。その多才さは現代のNBAで特に必要とされている要素であり、各チームが注目するはずです。

今後にやらなければいけないのは、3ポイントシュートを高確率で決めること。それさえ果たせば、彼は3-D(3ポイントシュートに秀でてたディフェンダー)のウィングプレイヤーとして確立できる。今やっていることに磨きをかけ、能力を証明し続けて欲しいですね。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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杉浦大介 Daisuke Sugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。