[杉浦大介コラム第74回]3x3ディベート: 76ersの現在地と未来を3人の識者が分析

杉浦大介 Daisuke Sugiura

[杉浦大介コラム第74回]3x3ディベート: 76ersの現在地と未来を3人の識者が分析 image

「フィラデルフィアが熱気に包まれている」———。今季序盤戦の間、多くのメディア関係者から聞かされてきたそんな話は本当だった。

フィラデルフィア・76ersがクリーブランド・キャバリアーズを迎え撃った11月27日(日本時間28日)、ウェルズ・ファーゴ・センターに2万527人(ソールドアウト)の大観衆が集まった。長く続いた再建の時間はようやく終焉。最初の18戦中11勝をあげた76ersが3年連続イースタン王者のキャブズに挑んだテストマッチは、素晴らしい雰囲気の中で行なわれたのだった。

この日はキャブズに91-113で敗れて貫禄を見せつけられたものの、76ersへの期待度は変わらない。ジョエル・エンビード(平均22.8得点、11.2リバウンド)、ベン・シモンズ(平均18.1得点、9.1リバウンド、7.4アシスト)という2人の俊才は早くもスーパースター候補と目されるようになった。昨季新人王候補になったダリオ・シャリッチ、今年度のドラフト全体1位指名選手のマーケル・フルツも名を連ねる若きパワーハウスは、今後にどこまで駆け上がるのか。

今回は『ESPN.com』の人気企画『5-on-5 ディベート』をモデルに、3人のエキスパートに3つの質問をぶつけてみた。その言葉から、チームの周囲にいるメディアですらも76ersの近未来にエキサイトしていることが伝わってくる。

▼パネリスト

マーカス・ヘイズ: 『フィラデルフィア・インクワイヤラー&デイリーニューズ』のコラムニスト。76ers戦を中継する『NBCスポーツ・フィラデルフィア』のスタジオ・コメンテーターも務める。Twitter: @inkstainedretch

ジェシカ・キャメラート: 『NBCスポーツ・フィラデルフィア』のリポーター&シクサーズ・インサイダー。過去にボストン・セルティックスのリポーターも経験した。Twitter: @JCameratoNBCS

ニック・メタリノス:『Starting5online.com』の編集者&リポーター。ギリシャ系オーストラリア人で、ドラフト指名時からシモンズを追いかけてきた。『ESPN.com』に76ersのリポートを寄稿する。Twitter: @NickMetallinos


1. 今季序盤戦の76ersのプレイは予想以上か?

ヘイズ: 76ersが今季中に躍進することは予想されていたことではあった。シモンズは守備面では相手PGとのマッチアップに苦しむと思われていたが、攻守両面で急速に適応し、特に問題になっていない。エンビードはこれまでより健康で、昨季より洗練されたプレイを見せている。それに加え、ロバート・コビントンが掘り出しものになっているのが大きい。1年2300万ドルで獲得したJJ・レディックも、巨額契約が正当だったと思えるようなプレイをしている。コビントン、レディックの2人が3ポイントシュートを高確率で決めている限り、76ersは今後もどんなチームが相手でも渡り合えるだろう。

キャメラート: 将来有望なチームだと考えてはいたが、これほど迅速に噛み合うとは思わなかったというのが正直なところ。エンビードは故障明けで、シモンズはまだNBAでのプレイ経験がなかった選手。レディックのようなベテランも加え、新たに作り始めたばかりのチームだった。誰もが長期視野での展望を考えていたはず。そんな若いチームに、短期間にまとまりが生まれたことには驚かされた。

メタリノス: 事前の予想を超えるプレイをしている。いずれ良いチームになるとは思っていたが、ここまで早く勝ち始めるとは思わなかった。好調の主要因は、エンビードが健康を保ち、シモンズがスーパースターレベルでプレイしていること。もちろん今後にアップ&ダウンはあるだろうし、今のペースを保てるかはわからない。シモンズはルーキーで、チーム全体がまだ若い。ただ、優れたコーチ(ブレット・ブラウンHC)に率いられ、ハードにプレイしているのは事実だ。少なくともプレイオフ争いに絡んでくるはずで、それは開幕前の私には予想できなかったことだった。

76ers Joel Embiid
本格派ビッグマンとしての潜在能力を開花させつつあるエンビード

2. 2人のスーパースター候補、シモンズ、エンビードのうちのどちらにより大きな伸びしろを感じるか?

ヘイズ: まだ不確定要素が多いため、答えるのは難しい。シモンズがアウトサイドからのシュートを効果的に決められるようになったら、“レブロン・ジェームズの別バージョン”と言えるような選手になるかもしれない。一方、エンビードがポストプレイに磨きをかけ、健康を保ったら、“ウィルト・チェンバレンの別バージョン”と呼び得る存在になれるかもしれない。レブロン、チェンバレンはそれぞれの時代でNo.1だった選手だ。その1人、あるいは彼らに似た選手を比較するなんて、想像するのも難しいことだ。どうしても選べと言うなら、エンビードのほうがより大きな形でインパクトを生み出すと思う。エンビードはディフェンス面での存在感が大きく、ブロックを決め、相手のシュートを難しくさせることができるし、リバウンド力も優れている。ここではエンビードを上位に選びたいが、2人の順位は1位、2位ではなく、1位、1位A(=ほぼ同等)にしたいくらいだね。

キャメラート: シモンズは非常にダイナミックで、コート上で多くのことをハイレベルでこなすユニークな選手。比較対象としてすでにレブロン、ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)といった名前が出てきているくらいで、本当に似ているプレイヤーを探したらリーグの歴史を紐解かなければならない。その多才さゆえに、シモンズは様々な意味で支配的な選手になっていくだろう。エンビードももちろん素晴らしく、ほとんど“モンスター”と形容できるくらい。ただ、多くのケガを経験してきたエンビードにはいまだに出場時間の制限があり、シモンズのほうがより長い時間をプレイできるのも大きい。

メタリノス: エンビードに関しては、今後もコンディションを保てるかどうかが疑問点であり続ける。健康でさえあれば、オールスターの常連となるだろう。ただ、シモンズは一世代に1人の才能だ。すでに2度のトリプルダブルを達成し、叩き出している数字はルーキー離れしている。このまま順調に伸びれば、歴史的なプレイヤーになるかもしれない。

76ers Ben Simmons
その多才さから“次代のレブロン”とも称されるルーキーのシモンズ

3. 今季、そして近未来の76ersはどこまでいけるか?

ヘイズ: 今季は44、45勝から50勝くらいの勝ち星をあげるだろう。互いについて迅速に学び、シモンズ、エンビードを中心にすでに良いプレイをしている。昨季新人王候補になったシャリッチも完成された選手で、彼をうまく組み込めるようになれば、もっと優れたチームになるかもしれない。イースタンの第5、6シードを得ることも可能。開幕前はプレイオフに進出できるかどうかは五分五分だと思われていたのが、今では出場できなかったら多くのファンが落胆するくらいに期待感は膨らんでいる。将来を考えると、シモンズとエンビードが健康を保ち、順調に向上すれば、長くリーグを騒がせる脅威的なチームになると思う。彼らに対する答えを見つけるのは、どのチームにとっても難しいはず。例えば主力選手がピークにいる7年間の間にファイナルに5度進み、3度の優勝を飾るようなチームになっても驚かない。

キャメラート: 今季はもともとイースタンの第7シードを獲得できると私は予想していて、その位置に辿り着けるだろう。将来の展望も極めて明るい。その理由は2つ。まず1つ目は、76ersはすでに多くのタレントを抱えていること。2つ目は、ペイロールに柔軟性を残していること。おかげでその気になれば、来オフにも大物フリーエージェントと契約することができる。ファンは「レブロンの獲得を目指すべき」と言っているが、キャップスペース的にはそれも不可能ではない。将来性豊かな若手選手を抱えているだけに、76ersは勝ちにいきたいFA選手にとっても魅力的な目的地となる。もちろんイースタンではレブロンがチームに残る限りは常にキャブズが本命。セルティックスも継続的に良いチームを作ってきている。ただ、76ersは近い将来にワシントン・ウィザーズ、トロント・ラプターズ、ミルウォーキー・バックスといった強豪を一気に乗り越えてしまう可能性を秘めている。

メタリノス: イースタンで優勝争いをするようになるまでには、まだ幾つかの戦力補強と数年間の経験が不足している。ただ、レブロンの時代も永遠に続くわけではない。向こう10年間の中で、バックスと76ersがイースタンの覇権を争わないと考える理由はどこにもない。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

杉浦大介コラム バックナンバー

杉浦大介 Daisuke Sugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。