[杉浦大介コラム第70回]ドラフトロッタリーの勝者と敗者

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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5月18日(日本時間19日)、ニューヨーク――。マンハッタンのホテルに今年も各チームの重役、主力選手、代表者たちが集まった。ボストン・セルティックス、ロサンゼルス・レイカーズ、ニューヨーク・ニックスといった大都市チームが上位指名権を得る可能性があったこともあり、今年のドラフトロッタリーはかなりの熱気を帯びた。

その中で真の意味で“当たりくじ”を引いたのはどのチームだったのか。重要な1日から「勝者」「敗者」を選び、6月22日(同23日)にブルックリンのバークレイズ・センターで開催されるドラフト当日の行方も占ってみたい。

勝者1
ボストン・セルティックス(2016-17シーズン:53勝29敗)

5月17日にイースタン・カンファレンス準決勝第7戦でワシントン・ウィザーズを下してカンファレンス・ファイナル進出を決定、その翌日にはドラフト1位指名権獲得と、17、18日はセルティックスにとって最高の2日間となった。

「俺が出て行くときにセルティックスに何を残したか。全体1位指名権だ    」。

セルティックスのドラフト全体1位指名権確保が発表された直後、ポール・ピアースが絵文字付きで発信したツイートがすべてを物語っている。今回の1巡目指名権は、2013年にピアース、ケビン・ガーネットを放出するブルックリン・ネッツとのトレードで手に入れた3つの1巡目指名権のうちのひとつ。後世に語り継がれる大トレードのおかげで、今季はイースタンの第1シードを勝ち取りながら、ドラフトでもトップ選手を手に入れるという“両手に華”が可能になったのだった。

地区優勝を飾ったチームが全体1位指名権を得たのは1982年のレイカーズ以来35年ぶり。セルティックスがドラフトでトップ指名するのは1950年以来67年ぶりで、ロッタリー制度がスタートした1985年以降では初めてになる。

ドラフトでは評判の良いワシントン大のマーケル・フルツ、UCLAのロンゾ・ボールといったスター候補を指名するか。それとも指名権をトレードの駒に使い、ジミー・バトラー、ポール・ジョージ、ブレイク・グリフィンといったすでに実績ある選手たちを獲得するか。今オフはキャップスペースもあるため、様々な意味でフレキシブルなチーム作りが可能になる。

昨季王者クリーブランド・キャバリアーズと対戦するイースタン・カンファレンス・ファイナルでは勝てないかもしれない。それでもセルティックスにとって、2017年が大成功だった事実に変わりはない。“勝ちながらの再建”を進めるダニー・エインジ球団社長の手腕は賞賛されてしかるべきである。

勝者2
ロサンゼルス・レイカーズ(2016-17シーズン:26勝56敗)

これで3年連続全体2位指名権獲得。2012年のドワイト・ハワード(現アトランタ・ホークス)のトレード時の取り決めで、今回の指名順がトップ3から陥落した場合、指名権はフィラデルフィア・76ersに譲渡されるはずだった。

首尾よく全体2位指名権を引き当て、そんな悪夢のシナリオを回避することができた。ここでエリート級の素材が獲得できることは、再建中の名門にとって値千金と言える。

ハイテンポのプレイを望んでいると伝えられるレイカーズは、噂通りにカリフォルニア州出身のボールを指名するのかどうか。そうなった場合、ポジション、役割のかぶるディアンジェロ・ラッセルはどうなるのか。そういった疑問点をどうクリアにしていくか、新たにチーム託されたマジック・ジョンソン・バスケットボール運営部門代表の腕の見せどころ。今回の2位指名権確保で、新体制が少なくとも好スタートを切ったことだけは間違いない。

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敗者1
フェニックス・サンズ(2016-17シーズン:24勝58敗)

スティーブ・ナッシュの時代以降、サンズはチームの看板に据えられるスーパースターを探してきた。ワースト2位のレコードでシーズンを終え、好素材の揃った今ドラフトはその絶好機。全体2位以内の指名権をキープしていれば、フルツ、ボールのいずれかをデビン・ブッカーの隣に配置できるはずだった。

しかし、蓋を開けてみれば指名順は全体4位まで降格。ほかにもジョシュ・ジョンソン(カンザス大)、ジェイソン・テイタム(デューク大)、ジョナサン・アイザック(フロリダ州立大)といった評判の良い選手がいるだけに、サンズは完全なる“敗者”とは言い切れないかもしれないし、この位置でも、ブッカー、マーキーズ・クリス、ドラガン・ベンダーらの若手たちと噛み合うルーキーを見つけることは十分に可能だろう。

ただ、たとえそうだったとしても、一般的にトップ2の評価が高いドラフトで、その指名が叶わなくなったことはやはりポジティブには捉えられない。ライアン・マクドノーGMの仕事がより難しくなったのは紛れもない事実である。

敗者2
ニューヨーク・ニックス(2016-17シーズン:31勝51敗)
ブルックリン・ネッツ(2016-17シーズン:20勝62敗)

ドラフトの舞台となるニューヨークに本拠を置く2チームは、今年もロッタリーでポジティブな材料を見つけることはできなかった。

ワースト7位の成績だったニックスは、もともと全体1位を射止める可能性は5.3%、トップ3に入る可能性も18.2%しかなかった。それらは儚い夢に終わり、それどころか結局は全体8位に転落してしまった。

「7番目から10番目に落ちていたかもしれないのだから、8位でも良いだろう。私たちは仕事を上手に遂行できる」。

指名順決定後、地元メディアの前に姿を現したフィル・ジャクソン球団社長のそんなコメントは関係者を少なからず驚かせた。過去3年で80勝166敗だったチームの人事担当の言葉とは思えなかったからだ。

筆者が先月のコラムで記した通り、今のニックスは立て直しが効かない状況にいるわけではない。人材豊富と評判高い今年のドラフトでなら、8位でも好素材を獲得することはできずはず。しかし、低迷脱出を目指す上で鍵となるオフシーズンで、厳しいスタートを切ったことは否定できまい。

一方のネッツは、2013年7月に断行した不名誉のトレードの影響に依然として苛まれ続けている。一気に頂点を狙ったトレードでピアース、ガーネット、ジェイソン・テリーらを獲得するために、2014、2016、2018年の1巡目指名権、今年の指名権を入れ替える権利をすべて放出してしまった。おかげでリーグワーストレコードに沈んだ今季は、セルティックスが全体1位指名権を手に入れるのを指をくわえて見ている羽目になった(ネッツはイースタン全チームの中で最下位の全体27位指名)。悪夢はまだ終わらず、再びの低迷が有力な来季の指名権もまたもセルティックスに持っていかれてしまう。

“再建はドラフトから”という王道は今のネッツには通用しない。今回のロッタリーでも“敗者”となることは以前からの確定事項であり、2013年の大移籍劇はフランチャイズ史上最悪のトレードとして記憶されていくだろう。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。