ポジティブな材料も
こうして見ていくと、低迷を続けるニックスはまさにどん底にいるように思える。一般的に“勝負をかけた”と目されたシーズンで惨敗したのだから、それも当然ではあるのだろう。
ただ、チーム状況と背景を詳しく掘り返していくと、実はニューヨークのメディアが騒ぎ立てるほどに絶望的な状態ではない。近未来に向けて、ポジティブな材料も少なからず見えてきているのである。
まず第一に、ニックスはすでにフランチャイズプレイヤーに成長するポテンシャルを持つ選手を擁している。
“低迷するニックスの救世主”。ルーキーシーズンからそう称されたクリスタプス・ポルジンギスの2年目の成長は、期待ほどではなかったと思うファンもいるかもしれない。確かに迷走するチーム内で集中力を失い、特に後半戦はディフェンス面の献身的な姿勢が不足しているように見えた。
それでも、数字を見れば進歩は一目瞭然だ。ポルジンギスは1~2年目の間に、出場時間(28.4分→32.8分)、平均得点(14.3→18.1)、FG成功率(42.1%→45.0%)、3ポイントショット成功率(33.3%→35.7%)、平均アシスト(1.3→1.5)、平均ブロック(1.9→2.0)のすべてを向上させている。
何より心強いのは、ポルジンギスが21歳という若さに似つかわしくない落ち着きと聡明さを備えていることだ。
「チームの中にいれば、僕たちがそれほど良いチームではないと気づくのは難しいことではなかった。タレントの力で勝っても長続きはしない。もっと練習して、細部に注意を払い、チームとして成長する必要があった」。
低迷中の3月中にポルジンギスが残したそんな言葉は、“後出しジャンケン”ではない。実際にこのラトビア産のヤングスターはかなり早くから個人技頼みのチームに警鐘を鳴らし、その見る目の確かさは後に特筆されることにもなった。
常に自信に満ちているが、それでいて謙虚で、生意気ではない。ハードワークを忘れず、ロッカールームでは複数の言語を操って丁寧にメディア対応する。そんな堂々とした姿を見る限り、スターの素養はやはり十分である。
シーズン終了後の4月14日には、ポルジンギスがチーム最終ミーティングを欠席したことが話題になった。そんなエピソードすらも、方向性がはっきりしない上層部に彼なりのやり方でメッセージを送ったのではないかと思えてくる。精神的に成熟し、伸びしろをたっぷり残した怪童は、身体さえ出来上がればダーク・ノビツキー(ダラス・マーベリックス)のようなスーパースターになっても不思議はないだろう。
フロントの努力次第で、ニックスは近い将来にこのポルジンギスの周囲に効果的なサポーティングキャストを配置することも不可能ではない。
今年度のドラフトで、ニックスはドラフトのロッタリー指名権(勝率はワースト6位タイだが、タイブレイカーの結果7位に)、2つの2巡目指名権を持っている。トレードの見返りに指名権を放出してしまうことの多かったチームが、1~2巡目両方の指名権を持ってドラフトに臨むのは2005年以来のこと。今ドラフトは一般的に豊作と呼ばれているだけに、ロッタリーの結果次第ではかなりの好素材を獲得できるはずである。
フリーエージェントでの補強戦線にも光明はある。来季のサラリーキャップは1億200万ドル程度になると予想されており、ローズとの契約が終了するニックスは今オフに約2000万ドルのキャップスペースを得る。この金額をつぎ込めば、1~2人のスター、有力なベテラン選手の獲得が可能だろう。
さらに先を見ると、現時点で2019-20シーズンの契約として保障されている金額は約4100万ドルのみ。ノアとの4年7200万ドルの契約は大失敗に終わりそうだが、不良債権と呼べるのはこの1件だけ。カイル・オクイン(来季年俸410万ドル)、ミンダウガス・クズミンスカス(同300万ドル)といった控え選手とは安価の契約を結んでいることもあり、向こう2年間はよりフレキシブルな補強が可能になる。
それと同時に、 今季印象的なプレイを見せ、4月の月間最優秀新人に選ばれたウィリー・エルナンゴメスを来季から3年間は140~160万ドルという破格の低年俸でキープできることも大きい。ポルジンギスの親友でもあるエルナンゴメスは、チームにとって重要なビッグマンに成長しそうな予感を感じさせている。
こうして見ていくと、今オフを前にニックスは“未来のスター候補(&その相棒であり上質なロールプレイヤー)”、“ドラフト指名権”、“キャップスペース”を持っていることがわかる。これらを有効に使えば、フレッシュで魅力のあるチーム作りは十分可能であるように思えてくるのだ。
文:杉浦大介 Twitter: @daisukesugiura