[杉浦大介コラム第57回]2016 ドラフトロッタリー分析――指名権抽選会の「勝者」と「敗者」

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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5月17日、ニューヨーク――。今年のNBAドラフトロッタリー(指名順位抽選会)は華やかな雰囲気の中で行なわれた。ロサンゼルス・レイカーズ、ボストン・セルティックスといった名門チームが上位指名権の可能性を有していたこともあり、ミッドタウンのホテルには、例年以上に多くのメディア、関係者が集結。その誰もが指名順決定の瞬間を固唾を飲んで見守った。

ドラフト当日が選手にとっての運命の日なら、ロッタリーは多くのエグゼクティブにとっての運命の日。今回はその重要な1日から「勝者」「敗者」を選び、6月23日(日本時間24日)にブルックリンで開催されるドラフト当日の行方を占ってみたい。


勝者 その1:フィラデルフィア・76ers

今年は14の指名権がすべて順位通りという“無風ロッタリー”となり、今季リーグ最低勝率だった76ersが順当に全体1位指名権をゲットした。

76ersがいわゆる“いの一番”の指名権を獲得したのは、アレン・アイバーソンを指名した1996年以来。これで、今年のトップ2の実力者と目されるベン・シモンズ(ルイジアナ州立大学)、ブランドン・イングラム(デューク大学)のいずれかを指名することができる。加えて、ロッタリー外でも全体24、26位の指名権を保持しており、76ersは3人の1巡目指名選手をロスターに加えることができる予定だ。

今季もわずか10勝(72敗)に終わったチームは、もともとジャリル・オカフォー(昨ドラフト全体3位)、ナーレンズ・ノエル(2013年全体6位)といった将来性豊かな選手を擁している。故障続きのジョエル・エンビード(2014年全体3位)も来季に復帰予定だ。また、2014年全体12位で指名された後、欧州でプレイし続けているダリオ・サリッチの渡米も近いと目される。

これだけの若手タレントが揃えば、今夏はフリーエージェント(FA)の好選手を惹きつけられるかもしれない。また、チームの好素材にフォワードやセンターが集中している中で、誰かをトレードしてよりバランスの良いチームを作ることも可能だ。

過去3年で199敗を喫し、存在意義すら疑われ始めていたチームに、一気に戦力を引き上げる絶好機が到来したと言っていいだろう。

サム・ヒンキー前GMからチーム作りを引き継いだブライアン・コランジェロ球団社長の下で、いよいよ勝ちにいくべきときがきた。フレッシュな魅力を秘めた76ersは、来季の注目チームの1つになりそうな空気を醸し出している。


勝者 その2:ロサンゼルス・レイカーズ

2012年にスティーブ・ナッシュをフェニックス・サンズから獲得したトレード時の取り決めで、指名順がトップ3以下の場合、レイカーズの指名権は76ersの手に渡ることになっていた。

しかし、ロッタリーの結果、全体2位をキープしたため、指名権を確保することに成功。大事な未来への資産を保持できたことは、再建体制のレイカーズには極めて重要な意味があった。

特に今ドラフトの場合、シモンズ、イングラムの評価が三番手以下の選手たちを大きく引き離している。レイカーズは全体1位で76ersが指名しなかったほうの選手を指名すれば良いわけで、余計なプレッシャーも、分析に時間をかける必要もなくなる。今夏には約6000万ドルのキャップスペースを保持しており、今後はFAによる補強プランのほうに集中できる。

コービー・ブライアントの盛大な引退ツアーが終わり、来季からはいよいよ“コービー以降”の新時代がスタートする。ディアンジェロ・ラッセル、ジュリアス・ランドル、ジョーダン・クラークソン(制限付きFA)らの周囲に、魅力的なメンバーを揃えられるかどうか。ミッチ・カプチャックGM以下、ここから先がフロントの力の見せどころだ。


敗者 その1:ニューヨークの2チーム(ニューヨーク・ニックスとブルックリン・ネッツ)

先述の通り、名門チームを中心に多くの関係者が集まった今年のロッタリーは大きな盛り上がりを見せ、来る6月23日のドラフトも良い雰囲気になるだろう。しかし、そんな中に、地元チームのスタッフの姿はなかった。

ニックスは2013年にアンドレア・バルニャーニを獲得したトレードで指名権を放出したため、今ドラフトでの指名権を持っていない。代わりにイースタン・カンファレンス・ファイナルに進んだトロント・ラプターズが、全体9位指名権を手にした(2011年のカーメロ・アンソニーが移籍したトレード時の取り決めにより、ニックス経由でナゲッツの指名権をラプターズが獲得した形)。

昨季は17勝、今季も32勝に終わった今のニックスは、完全な再建体制にある。将来有望な新人が何よりも必要な状態にもかかわらず、指名権がないのは痛恨というほかにない。

しかも、引き換えに獲得したバルニャーニがニックスの一員として出場した71戦で20勝51敗に終わったことが惨めさに拍車をかけている。

一方、ブルックリン・ネッツは、2013年にポール・ピアース、ケビン・ガーネットを獲得したトレードで今季の1巡目指名権をセルティックスに放出している。

おかげでプレイオフでも健闘を見せたセルティックスが、まんまと全体3位指名権をゲットした。より先見の明があった同じアトランティック地区のライバルを、ここで大きく助ける結果となってしまった。

ネッツが3年前の大トレードで得た選手はすでに全員が移籍し、今季は21勝と惨敗。加えてドラフトでの補強も叶わない。

今オフにケニー・アトキンスを新ヘッドコーチに据えて再建を図るが、どん底からの浮上の道は長く険しいものになりそうだ。

ニックス、ネッツともに指名権がないことは事前に分かっており、正確にはロッタリー当日に“敗れた”わけではない。しかし、結果として同地区ライバルに塩を送る形になり、近年のチーム作りの失敗を改めて印象付けてしまった。


敗者 その2:サム・ヒンキー(76ers前GM)

76ersは今オフに3つのドラフト1巡指名権、約5000~6000万ドルのキャップスペースを保持しており、近未来が実に楽しみなチームになった。

彼らがこの位置にいられるのは、ヒンキー前GMが露骨なタンキングを続けたおかげと言っていい。ここ数年の76ersは、実績ある選手を次々と放出し、盛大に負け続けることで、多くのドラフト指名権とキャップスペースを手に入れてきたからだ。

しかし、当のヒンキーは4月6日にGM職を辞任。まもなく始まる“収穫の季節”を楽しむことなくチームを去ることとなった。

表向きは辞任だが、実際には76ersの上層部がヒンキーのチーム作りの手腕を信用せず、権限を徐々に奪って弾き出したのも同然だった。名門ハーバード大学出身の秀才は、「もう少し自分に任せてくれれば……」と歯がゆい思いを味わっていることだろう。

もっとも、76ersが“ヒンキーの遺産”を糧に今後向上すれば、彼の功績が再評価されることも考えられる。そうなれば、再建を目論む別のチームからフロント入りの声がかかることもあり得ない話ではない。仮にそうなった暁には、ヒンキーは必ずしも今ドラフトロッタリーの敗者とは言えなくなるかもしれない。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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[特集]2016 NBAドラフト

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。