[杉浦大介コラム第44回]エース放出案も浮上!? 新人ポルジンギスはニックスの救世主になり得るか

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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将来的にはダーク・ノビツキーのようなスターに?

「ヘイ、KP! おまえに関することばかり訊かれるのはもうたくさんだよ。おまえのことは大好きだけどな」。

10月29日(日本時間30日)、ホークスを相手にマディソン・スクエア・ガーデンで行なわれたホーム開幕戦後のこと。ニューヨーク・ニックスのカーメロ・アンソニーはロッカールームの反対側にいたルーキーに向かってそう叫んだ。

“KP”とはクリスタプス・ポルジンギスの愛称(イニシャル)。字面だけを見ると辛辣に思えるかもしれないが、ベテランから新人への愛情のこもったジョークだった。ともあれ、これから先も、カーメロはしばらくポルジンギスに関する質問に答え続けることになるかもしれない。

今年度のドラフト全体4位指名を受けた際に、ポルジンギスは会場に集まった多くのニックスファンからブーイングが送られた。身長7フィート2インチ(約218cm)、ウィングスパン7フィート6インチ(約229cm)の大型センターの潜在能力は誰の目にも明白。ただ、あまりにも華奢な体躯、粗削りなプレイゆえ、「しばらくDリーグで経験を積む必要があるのでは?」と疑問視する関係者は多かった。そんな選手を獲得したことが、せっかちなニューヨーカーのお気に召さなかったのだ。

しかし、プレシーズン戦で悪くないプレイを見せると、デレック・フィッシャー・ヘッドコーチは、このラトビア人ルーキーを開幕から果敢にも先発起用。その期待に応え、ポルジンギスはアトランタ・ホークス戦を含めた最初の4戦で平均11.8得点、8.3リバウンドという好スタートを切った。 

「彼がフロアにいると、私たちにとって良いことが起こる。攻守両面で多才な選手だ。(サイズを生かして)守備面では相手のショットを変え、ペイント内ではリバウンドも取ってくれる。まだ身体ができていない若手選手としては、オフェンス時の積極性も素晴らしい。何も恐れずにプレイしているよ」。

ポルジンギスの開幕直後のプレイを見たファンは、フィッシャーHCのそんな評価に同意するのではないか。

イン、アウトのどちらのプレイもこなせる万能派。サイズとウィングスパンを上手に生かし、ミッドレンジからスムーズにジャンパーを放つ。ホークス戦の第3クォーター途中には、ミッドコートでのスティールから豪快なダンクを叩きつけ、MSGでの自身初のハイライトシーンを演出した。

11月2日(同3日)のサンアントニオ・スパーズ戦では初のダブルダブル(13得点、14リバウンド)もマークし、ポテンシャルの高さを再び印象付けている。この試合の終盤にはアンソニーとの接触プレイで首を痛めたが、幸いにも大事には至らなそうだ

「僕くらいのサイズで素早く動ける選手は多くはいないのだろう。さらに機動力を増し、よりクイックに動けるように練習している。それができるようになれば、僕のアドバンテージになるはずだからね」。

ロッカールームで大量に押し寄せるメディアにも、流暢な英語で冷静に対応している。ここまでの動き、姿勢、落ち着きぶりを見る限り、20歳の新人はNBAでも即戦力になり得る。ディフェンス面を中心に課題ももちろん多いものの、目論見通りに成長すれば、将来的にはダーク・ノビツキーのようなスターに育っていくかもしれない。

今後、このポルジンギスに関して注目されるのは、エースのカーメロとどんな形で噛み合っていくかである。ロッカールームでの掛け合いを見る限り、2人は良好な関係を築いている様子。それと同時に、プレイスタイル的にも彼らはコート上で上手くフィットしそうではある。

「ポルジンギスの才能、サイズ、シュート力、身体能力は明らかだ。ドラフトで上位指名を受けたのは納得できるし、長きにわたって活躍する選手になるだろう。カーメロとも噛み合いそうだ。メロがダブルチームされることによって、ポルジンギスは多くの得点機会を得られるはずだ」。

ESPNの解説者を務めるマーク・ジャクソンが述べる通り、1オン1の強さでは定評あるエースがスペースを作り、ルーキーがジャンパーを決めるシーンはこれから頻繁に見られそう。2人は短期間にケミストリーを醸成し、ニューヨークの新たなワンツーパンチになっても不思議はない。

ポルジンギスの活躍が注目を浴びる一方で、カーメロ放出の可能性も浮上?

ただその一方で、これまで絶対的な大黒柱だったカーメロのチーム内での立場が微妙になっていくことを懸念する声もある。

ホークスとの開幕戦時にも、ファンの歓声はカーメロよりもポルジンギスに向けられたもののほうが大きかった。現在のニックスは再建の真っ只中で、現実的に優勝争いに参戦する準備が整うのは数年先。そんな中での関心が、“現在のエース”から“未来の希望”に移っていくのは仕方ない。ポルジンギスが将来的に大黒柱になり得る器だと周囲を納得させた場合、ニックスが近未来を睨んで動き始めることもあり得ない話ではない。

「ポルジンギスが完全開花する頃には、現在31歳のカーメロはすでにピークを過ぎているだろう。現時点でもカーメロのトレード価値は高く、ブルズのような優勝候補に行けば有用なサポーティングキャストになる。だとすればここで放出し、ニックスはドラフト指名権、有望株を獲得しておくべき。同時にキャップスペースも作れば、近未来の補強への布石になる」。

『スポーツイラストレイテッド』の今シーズン展望号には、ニックスに対するそんな提言も寄せられていた。

昨季にフランチャイズ史上最低勝率を記録したあとで、フィル・ジャクソン球団社長、フィッシャーHCも今年は勝ち星を増やしておきたいはず。そういった状況を考えれば、エーススコアラー放出の可能性が高いとは思えない。

しかし、カーメロ本人がチーム内での立場の変化を嫌った場合、あるいは優勝を争える強豪への移籍を希望した場合、急展開も考えられる。その際には、ニックスのエースがトレード期限の注目株に浮上することも絶対にあり得ない話ではないのだろう。

いずれにしても、現時点ではっきりしてるのは、2015-16シーズンのニックスが昨季より遥かに興味深いチームになったということだ。

ホークス、スパーズというエリートチームには敗れたが、開幕戦の10月28日(同29日)はミルウォーキー・バックス、開幕3戦目の31日(同11月1日)にはワシントン・ウィザーズに快勝。対戦相手を考えれば、最初の4戦を終えたところで2勝2敗は悪いスタートではない。

ロビン・ロペス、アーロン・アフラロ、ジェリアン・グラントらの加入もあり、戦力は去年より確実に向上した。少しずつ、様々なことが良い方向に進み始めている。そんなチーム内で最大の焦点になるのは、ポルジンギスの活躍、成長度、そしてカーメロとの関係に違いない。

ジャクソン球団社長の指揮下により、ニックスの新たなチーム作りが本格的に始まった。トンネルの向こうに光が見え始めている。それと同時に、近未来にスリリングな展開が待ち受けていそうな予感も少しずつ漂い始めている。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。