[杉浦大介コラム第117回]ネッツと契約した渡邊雄太が開幕ロスターに残るための3つの条件

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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NBA入り直前の2018年夏、ネッツの一員としてNBAサマーリーグに出場した渡邊雄太

容易ではない開幕ロスター入り

ブルックリン・ネッツが渡邊雄太と契約――。日本時間8月29日の早朝に飛び込んできたニュースはバスケットボールファンを喜ばせるのに十分ではあった。

過去4年、メンフィス・グリズリーズ、トロント・ラプターズで腕を磨いた渡邊が大都市ニューヨークへ。一時はトレード志願していたケビン・デュラントが結局残留することになったネッツは、カイリー・アービング、ベン・シモンズ、セス・カリー、パティ・ミルズといったビッグネームを擁するリーグ最大級のパワーハウスである。

順調にいけば、渡邊がデュラントのバックアップを務める可能性もある。チームの指揮をとり始めて今季が3年目となるスティーブ・ナッシュ・ヘッドコーチ(HC)が率いるスター軍団で、渡邊が生き生きと躍動する姿を思い描いたファンは多かったのではないか。

もっとも、そんな祝賀ムードを諫めるかのように、渡邊は自身の公式ツイッター上でこんな呟きを残していた。

「お祝いコメントたくさんありがたいですが、あくまでまだ無保証のキャンプ契約です。崖っぷち精神でまた頑張ります」

契約内容はチームの都合で発表されなかったが、渡邊自身のツイートは今季も厳しい立場でスタートすることを物語っているのだろう。

【動画】渡邊雄太 NBA 2021-22シーズン ハイライト

ネッツのロスターにはすでに15人が名を連ね、さらに大ベテランのマーキーフ・モリスと交渉を進めているという報道もある。即座に優勝が狙えるチームでプレイするということは、チーム内での競争が激しいことも意味する。スタメン候補のデュラント、シモンズ、アービング、ロイス・オニール、ジョー・ハリス、ニック・クラクストン、 控えの主軸が期待されるミルズ、カリー、TJ・ウォーレン、デイロン・シャープ、キャメロン・トーマスといったメンバーのロスター入りはすでに当確。これらの豪華メンバーの中に渡邊が割って入ることは容易ではないはずだ。

「スカウティングリポートを聞く限り、ユウタはハードにプレイし、チームディフェンダーとして秀でた選手のようだ。ただ、オフェンス面では不安定。トレーニングキャンプ中にディフェンスを武器にできるなら、ロスター入りできるかもしれない。ただ、攻撃的な選手が多いチームでオフェンス面で苦しんだ場合には厳しくなる」

渡邊のロスター入りの可能性について、『The Athletic』のネッツ番記者であるアレックス・シファー氏はそんな指摘をしていた。渡邊のプレイスタイルをよく知る日本のファンにとって、こんな分析は納得がいくものだろう。

それらの意見も考慮した上で、ロスター入りのポイントは具体的に3つあるように思える。

渡邊雄太 ロスター入りの条件 その1

まずは当然のことだが、9月下旬から始まるトレーニングキャンプ、プレシーズン戦を通じて良好なコンディションを保つことだ。ラプターズでの2年目のシーズンとなった昨季、渡邊はプレシーズン中に左ふくらはぎを故障し、開幕から18戦を欠場した。それでも前年とキャンプ中のプレイが評価されていたこと、チームの戦術理解が進んでいたこと、さらにチーム内にケガ人が多かったことから、復帰後はすぐに主力級の役割を得るに至った。

ただ、ほとんどゼロからの再出発になるネッツではそうはいくまい。何らかのケガで出遅れれば致命傷になりかねないだけに、常に全力疾走できるだけのコンディション維持は必須と言っていい。

渡邊雄太 ロスター入りの条件 その2

ベストに近い状態を保った上で、2つ目の鍵はやはり、得意のディフェンスでアピールすることだ。特にラプターズで過ごした過去2シーズン、渡邊は機動力と献身的姿勢に裏打ちされた守備力がNBAでも通用することを示してきた。端的に言って、ネッツから興味を持たれたのがその部分であることは間違いない。

昨季のネッツのディフェンシブ・レーティング(100ポゼッション平均失点)はリーグ30チーム中20位、プレイオフでは16チーム中14位。デュラント、アービングのようなエリート・オフェンシブ・プレイヤーを擁しながら、重要な場面で相手をストップできなかったことがチームの最大の弱点となった。ネッツの上層部ももちろんそれは認識しており、今オフはディフェンス強化に主眼を置いていた印象がある。

心身が健康な際にはリーグ最高級のディフェンダーであるシモンズが復帰してくるのに加え、ネッツは今オフ、ジャズとのトレードでオニールを獲得している。バネに定評あるクラクストンも守備面でまだ成長するはずだ。そんな方向性のチームに、渡邊がペリミターとゴール周辺の守備力で貢献し、存在感を発揮できれば面白くなる。

渡邊雄太 ロスター入りの条件 その3

最後の1つのポイントは、渡邊にとって常に最大の課題になっている感のあるロングジャンパーの精度向上だ。2020-21シーズンは3ポイントショット成功率で初の40%超えを果たしたが、昨季は34.2%まで低下。この数字を再び自身、周囲が納得できるレベルにまで引き上げられるかどうかが焦点になる。

「3Pはたぶんローテーションの一員として試合に出ていた時期は40%近く決めれていたと思います。ずっとベンチに下がっていて、終盤に出て打ったシュートを決めきるっていうのは、正直、難しい部分もあります。数字以上のシュート力は絶対にあると思うんですけど、もう言い訳はできません。自分に与えられた時間、限られた時間の中で、結果を出さなきゃいけない世界です」

昨季終了後、渡邊自身が述べていたそんな言葉通り、3Pの出来はネッツでのプレイ機会にそのまま直結してくる可能性が高い。プレイメイカーの多いチーム内で、ノーマークで打つチャンスは少なからずあるはずで、そこで高確率で決められれば、上質な3-Dプレイヤー(3Pと守備に秀でた選手)として認められることも可能だろう。逆に3Pの数値が伸び悩めば、シファー記者の指摘通り、ロスター入りは難しくなるに違いない。

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総合すると、今夏〜秋の渡邊は何よりもまずトレーニングキャンプを通じてのコンディション維持が必須。その上で、早い段階からディフェンスでのアピールが必要になってくるが、渡邊の守備は安定感があるだけに、健康でありさえすればそれは成し遂げられるのではないか。その最初の2つをやり遂げた上で、あとはコンスタントにロングジャンパーを決めれば先が見えてくる。

言葉でいうほど簡単なことではないにしても、NBAでももうベテランと称されてしかるべき27歳の渡邊にはそれくらいの力はあるはずだ。だからこそ、ネッツも獲得を決めたのだろう。5年目の飛躍に向けて、キャンプ開始からエンジン全開で臨む渡邊の勇姿を今から楽しみにしておきたいところだ。

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。