トロントの地元記者は渡邊雄太の貢献を高く評価
昨季限りでトロント・ラプターズからフリーエージェント(FA)になった渡邊雄太の去就はどうなるのか。ラプターズへの残留はあるのか、あるいは移籍となるのか。今オフ、日本のバスケットボールファンが最も注目しているのはそれかもしれない。
ディフェンス、規律を重視するラプターズのスタイルは渡邊の特徴に綺麗にフィットした。ただ、同じポジションにパスカル・シアカム、OG・アヌノビー、スコッティ・バーンズといった同タイプの主力が揃っており、プレイタイムを得るのが難しかったのはご存知の通りだ。
そんな渡邊の現在の実力評価と去就予測のために、地元紙『トロントサン』のコラムニスト、ライアン・ウォルスタッド記者に意見を求めた。過去2年、ラプターズの一員として全力プレイを続けた渡邊について、ウォルスタッド記者は高く評価しているようだ。
「入団時の状況を考えればチームに残ったこと自体が成功だったし、その後、ゲームで貢献も果たした。ラプターズでプレイした期間に、雄太はNBAでもプレイできる選手であることを証明した。好条件が整えば、ローテーションでも活躍できる実力があることを示したと言えるだろう」
2020年秋、ラプターズのトレーニングキャンプに招待された時点での渡邊は何も保証されていない立場だった。そこからディフェンスとハッスルプレイで評価を高め、2020-21シーズン中に50試合に出場。シーズン終盤には悲願の本契約を勝ち取った。続く昨季(2021-22シーズン)も、特に故障者が多かった前半戦はラプターズのローテーション選手の1人として活躍した。そういったスリリングな上昇の過程で、渡邊はトロントの地元ファン、メディアの人気者になっていった。
「聡明な雄太はリモート会見でのやりとりがとても上手だった。2021年4月、本契約を結んだあとの彼がこれ以上ないほど嬉しそうだったのは印象的だった。昨年12月26日、先発出場したクリーブランドでのキャバリアーズ戦で、26得点と活躍した際の記者たちとの軽妙なやりとりも思い出深い」
このようなウォルスタッド記者の渡邊に関するポジティブな記憶は、ラプターズを取材した多くのトロントのメディアに共通する思いだろう。
【動画】渡邊雄太 NBA 2021-22シーズン ハイライト
渡邊雄太の来季所属先はラプターズではない?
もっとも、このように高評価をされているものの、来季に渡邊がプレイするチームはおそらくラプターズではなさそうだ。過去2シーズンで手にできなかったプレイオフシリーズ勝利を目指すラプターズは今オフ、自軍のFAだったサディアス・ヤング、クリス・ブーシェイと再契約したのに続き、29歳のスモールフォワード(SF)、オットー・ポーターJr.も獲得した。シアカム、バーンズ、アヌノビーに加え、ウィング、フォワードにこれだけ同じタイプの選手が揃ってしまえば、昨季後半同様、渡邊が入り込む隙を見つけるのは難しい。ウォルスタッド記者も渡邊の残留には悲観的だ。
「雄太が残留するとは思わない。もうロスターには入り込む余地はないからだ。ラプターズはより若い選手を育てていきたいと考えてチーム作りを進めている。また、スビ・ミハイリュクが保証された契約を結んでいることも、雄太との再契約の大きな障害になった。もしも条件が同じであれば、ラプターズが2人のうち、ミハイリュクを選ぶことはあり得なかったはずだ」
ケム・バーチ、プレシャス・アチューワ、マラカイ・フリン、今夏に再契約したダラーノ・バントン、ジャスティン・シャンペニー、ドラフト全体33位指名のクリスチャン・コロコ、そしてウォルスタッド記者が名指ししたミハイリュクなど、ラプターズのロスターはすでに飽和状態だ。もちろん故障者続出のような不測の事態はあり得るものの、それらの選手たちが戻ってくれば昨季同様、頭数は揃う。あくまでプレイタイム、コートに立つ機会の可能性という観点で考えれば、ラプターズへの残留は渡邊にとっても得策とは言えない。
だとすれば、渡邊はどのチームでプレイするのがベストなのだろうか。
渡邊雄太の移籍先有力候補はどのチーム?
「アトランタ・ホークスのように攻撃力はあってもディフェンス強化が必要なチームは彼に適しているかもしれない。フィット的には、守備が良く、キャッチ&シュートが得意で聡明な選手を好んで起用したがるゴールデンステイト・ウォリアーズもいいし、その点ではダラス・マーベリックスも同じだ。ここで1チームを挙げるとすれば、私はマブスを選ぶ」
トレイ・ヤング、ジョン・コリンズを軸とするホークスは、ディフェンスに難があったものの、今オフにデジャンテ・マレー(昨季サンアントニオ・スパーズ)を獲得してペリミター守備にテコ入れを果たした。ほかにもジャスティン・ホリデー、モーリス・ハークレスといったディフェンシブな選手を引き入れ、守備強化を進めているようにも思える。同時にケビン・ハーター、デロン・ライト、ダニーロ・ガリナーリの移籍でやや層が薄くなっただけに、その流れの中で渡邊を試すことはあり得るかもしれない。
ジャパンゲームズで来日予定の2チームも候補か
昨季、4シーズンぶりの優勝を果たしたウォリアーズからは、前出のポーターJr.、ギャリー・ペイトン二世といった守備のいい選手が抜けた。ドンテ・ディビンチェンゾ、ジャマイケル・グリーンらのベテランを加えたが、SF、パワーフォワード(PF)に守備のいい選手が増えれば御の字のはず。ウォルスタッド記者の指摘通り、賢明なプレイができる渡邊のフィットは良さそうだ。楽天とのパートナーシップ契約、今秋のNBAジャパンゲームズ開催といった日本マーケットとのつながりもあるだけに、ウォリアーズが渡邊の落ち着き先の有力候補であることは間違いないだろう。
ウォルスタッド記者が本命に挙げるマブスも、過去に田臥雄太、富樫勇樹、馬場雄大をサマーリーグやGリーグ(Dリーグ時代含む)に受け入れるなど、日本人選手との結びつきは伝統的に強い。ジェイレン・ブランソンが抜けたことからガードの補強が優先だとしても、ウィングの層も薄いだけに、さらなる補強はあり得る。ルカ・ドンチッチからパスを受けた渡邊がアリウープを決める、というようなシーンが見られるかもしれないと思えば、ファンの夢も膨らむ。
マブス同様、ジャパンゲームズでの来日が決まっており、八村塁の加入以降、日本マーケット開拓に力を入れているワシントン・ウィザーズも候補になるだろう。
守備力とハードなプレイが最大の武器
もちろんこれらのチームへの加入が決まったとして、渡邊が主力級の待遇で迎えられるというわけではない。どのような契約形態にせよ、役割、プレイタイムは競争を経て勝ち取らなければならない。厳しい立場には違いないが、過去4シーズンも多くの逆境を跳ね除けてきた渡邊にとって、いわゆる『アンダードッグ』からの出発は望むところかもしれない。
「上質なディフェンスが雄太にとっての最大の武器だ。恐れを知らず、いつでもハードにプレイすることも特筆される。あとはロングジャンパーをより安定させれば、NBAでもローテーションに定着する選手になっていけるはずだ」
過去2シーズン、渡邊のプレイを頻繁に見てきたウォルスタッド記者は、もはや若手とは言えない27歳のサウスポーにまだ伸びしろが残っていると見ている。
まずはどのチームと契約を交わすことになるかが注目されるが、さらにその後、トレーニングキャンプ、プレシーズンに実力を示し、再び成功の階段を上って行けるかどうか。常に波乱の日々を過ごす『努力する俊才』の行方から、まだまだ目を離すべきではない。
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