[杉浦大介コラム第114回]“7.5個のキーワード”で振り返るNBAオールスター2022

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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2022年のNBAオールスターが盛況の中で幕を閉じた。オハイオ州クリーブランドで催された夢の球宴で最も輝いたのは誰だったのか。今回はオールスターウィークエンドの総括も兼ねて、3日間のダイアリーコラム(1日目2日目3日目)では紹介しきれなかった人物、出来事を中心に記憶に残るトピックを紹介していきたい。75周年のオールスターにちなみ、7.5個のキーワードを選んでみた(最後のひとつは今大会特有のものではないため0.5)。

1. 史上最高のシューター、ステフィン・カリーの面目躍如

まずはステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)が成し遂げた新たな偉業の話から始めるべきだろう。

オールスター本戦でゲーム最多タイの36分15秒をプレイしたカリーは、放った27本中なんと16本の3ポイントショットを成功させた。これまでポール・ジョージが持っていた9本(2016年)というオールスターの3P成功記録を完全に“粉砕”してしまった。

特に3連続を含む5本のスリーを決めた第3クォーターは圧巻だった。少しずつシュートの飛距離を伸ばしていくと、場内にはどよめきがわき起こる。同クォーターの残り7分33秒、千両役者がセンターコートからの超ロングショットを軽々と成功させた時、観衆の興奮もついに頂点に達した。自慢のシュートが好調の際、カリー以上にエキサイティングな選手はいまだにほとんど存在しないということを改めて感じさせる活躍だった。

実は今季のカリーは3P成功率ではキャリア最低(※故障で5試合のみの出場に終わった2019-20シーズンを除く)という不振に悩んでいるのだが、この日は“史上最高のシューター”の面目躍如。最終的には50得点を稼ぎ、2017年にアンソニー・デイビスがマークしたオールスターゲームの最多得点記録の52得点にもあと2点に迫ったのだから、MVP受賞は当然だろう。カリーは紛れもなく2022年の夢の球宴を盛り上げた最大の立役者だった。

2. アクロン出身の二大スーパースター

オールスター本戦終了後、「完璧な終わり方だった」と述べたカリーの言葉はあまりにも正しい。上記の通り、カリーが驚異のシューティングパフォーマンスでファンを魅了すると、最後は161-160からレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)が鮮やかなフェイダウェイジャンパーを成功させて幕引き(最終目標得点163点に先に到達したチームの勝利)。ともにオハイオ州アクロンの同じ病院で生を受けた2人のスーパースターが主役を演じ、今年のNBAオールスターは文句のつけようがない大団円となった。

NBAのオールスターゲームは地元の選手が活躍したときこそ盛り上がるもの。特に故郷アクロンの街にこの上ない愛着を持つレブロンは誇らしげだった。クリーブランドの南約55kmに位置するこの街が、これほど脚光を浴びることはめったにないはずだ。

もっとも、カリーは生まれはアクロンではあっても、NBA選手だった父デルの所属チームの関係で幼少期はシャーロットなどで過ごしており、オハイオアンにとって地元選手という意識は薄いようだ。所属するウォリアーズが2018年まで4年連続でキャバリアーズとNBAファイナルで対戦(そのうち3回ウォリアーズが優勝)したライバルだったこともあり、カリーはオールスター期間中を通じて激しいブーイングを浴び続けた。とはいえ、もちろんこの場合のブーイングはリスペクトの裏返し。カリーも「ブーイングするのにもエナジーがいるからね」と、意に介すこともなく笑顔を見せていた。

LeBron James, Stephen Curry
(Getty Images)

3. NBA75周年記念チームの表彰セレモニー

今年のオールスターは本戦自体も盛り上がったが、ハーフタイムに催された『NBA75周年記念チーム』を表彰するイベントが何よりも印象に残ったというファンは多いだろう。選出された76人のうち46人が参加した表彰式では、レジェンドたちが次々とコートに設置された特設ステージに上がり、場内は大歓声が鳴り止まなかった。特に大トリでマイケル・ジョーダンが登場したその瞬間、アリーナは電撃が走ったような緊張感と興奮に包まれた。

「やっぱり幼少期を思い出す。壁に貼ったインスピレーションたちと一緒だったんだ。アレン・アイバーソンにジェイソン・キッド、ギャリー・ペイトン、マイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソン、オスカー・ロバートソン。今日彼らと会い、同じステージに立てた。みんなには分からないだろう。できるだけ分かってもらえるように話したいけど、とにかくクレイジーなんだ」。

最近はスピーチのうまさでも定評を集めるようになったレブロンも、リーグ史上最も偉大な76選手の一員になったことを形容するのに適切な言葉は見つけられない様子だった。

同じ空間をシェアした者なら、誰もがその気持ちを理解できるはずだ。ほかならぬ私も、今回はこのセレモニーをライブで見ることができただけで、クリーブランドまで足を運んだ価値があったと感じたくらいだ。

NBA75周年記念チーム:レブロン・ジェームズ&マイケル・ジョーダン
NBA Entertainment

4. 良い意味で空気を読まないヤニス・アデトクンボ

今週末を通して最も楽しそうだった現役選手は2人いる。『非公式のホスト役』を務めたレブロンと、もうひとりはヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)だ。

球宴期間中のアデトクンボはスター選手らしい尊大さはまったく感じさせず、リラックスし、常に笑顔を振りまいていた。19日(同20日)のダンクコンテストでも、すべての参加選手のチアリーダーであるかのようにサイドラインで熱心に応援する姿が印象に残った。

昨季、バックスを悲願の優勝に導き、大型契約を得たために金銭的にも報われ、もうプレッシャーからは解放されたのだろう。前途洋々の27歳は、NBAのスーパースターとしてのクールな日々を謳歌しているようだ。

かといって、プレイではお祭りであっても決して手を抜かない。20日(同21日)のオールスター本戦では30得点、12リバウンドと大暴れし、攻守両面で必死にプレイする姿が目を引いた。

「一生懸命にプレイする以外のやり方は知らないんだ。僕はいつも何をするにも全力でやろうとするから、歩いているとひどい気分になる。僕はそういう選手なんだ」。

19日(同20日)のスキルズチャレンジにも兄弟とともにチーム・アデトクンボの一員として出場し、まるで実戦さながらの気迫で奮闘していた後だっただけに、そんな彼の言葉には説得力がある。

ベテラン選手は得てして周囲を伺いながらスローペースでプレイしがちなオールスターでは、こういう選手が必要である。以前はラッセル・ウェストブルック(ロサンゼルス・レイカーズ)が出場している時間帯は常に緊張感を醸し出していたもの。今後は手加減を知らないアデトクンボが球宴を活性化させる役割を担っていくのかもしれない。

5. 骨折が判明してもプレイしたクリス・ポール

今回のオールスター期間中に最もつらい経験をした選手がいるとすれば、クリス・ポール(フェニックス・サンズ)だろう。20日(同21日)のオールスター本戦直前、ポールは前半戦最後のゲームで痛めた右手親指を剥離骨折していることが発覚。6~8週間後に再検査に臨む予定ということで、その状態次第では4月中旬に始まるプレイオフに間に合わない可能性が出てきた。48勝10敗でリーグ1位のサンズを優勝候補の筆頭に挙げる関係者は多かったが、リーグ1位の平均10.7アシストをマークする司令塔が離脱するとなれば、その行方に黄信号が灯ったと言えよう。

今回が12度目のオールスター選出となったポールは、驚くべきことにMRI検査で骨折の診断が出た後も出場を強行した。第1クォーターに2分19秒をプレイしただけで交代したものの、実戦の舞台では何が起こっても不思議はないだけに、正直、賢明な判断には思えなかったのも事実。サンズのファン、関係者は、右手にサポーターをしてプレイするポールをハラハラしながら眺めていたことだろう。

6. 敗戦チームの功労者ジョエル・エンビード

惜しくも敗れたチーム・デュラントで最も大きな輝きを放ったのはジョエル・エンビード(フィラデルフィア ・76ers)だった。序盤から果敢に攻め、第1クォーター途中には豪快なウィンドミルダンクも披露。シーズンMVPの最有力候補と目されるビッグマンは、オールスターゲームMVPも狙っているのではないかと感じさせるほどの積極的なプレイを見せた結果として、36得点(FG 14/20、3P 5/8)、10リバウンドという数字を残している。カリーのロングジャンパーがあれほど好調でなければ、MVP受賞のチャンスも十分にあったはずだ。

「僕は勝負師。みんなが普通のスピードで、まったく本当の守備をしない第1クォーターは違和感があったくらいだ。僕はとにかく勝ちたいし、そのためには何でもする」。

ジャレット・アレン(キャバリアーズ)やアデトクンボにブロックを許すシーンもあったが、それも本気で勝ちにいったがゆえのこと。アデトクンボ同様、常にハードにプレイしたエンビードは、今年のオールスターゲームを見応えあるものにした功労者のひとりだ。

7. 思わぬ注目を集めたサンダーのサム・プレスティGM

今回のオールスター期間中、最も知名度を上げたチームエグゼクティブは、オクラホマシティ・サンダーのサム・プレスティ・ゼネラルマネージャー(GM)だったかもしれない。19日(同20日)のメディアセッションの際、サンダーでプレイする19歳のオーストラリア人ルーキー、ジョシュ・ギディーについて問われたレブロン・ジェームズが、そのギディーを獲得したプレスティGMの手腕を絶賛したのだ。

「MVPはサム・プレスティだよ。ギディーは素晴らしい選手だ。サム・プレスティの才能を見抜く目が僕には信じられない。彼がドラフトした選手にはKD(ケビン・デュラント/現ブルックリン・ネッツ)、ラス(ラッセル・ウェストブルック/現レイカーズ)、ジェフ・グリーン(現デンバー・ナゲッツ)、サージ・イバカ(現ミルウォーキー・バックス)、レジー・ジャクソン(現ロサンゼルス・クリッパーズ)、ジョシュ・ギディーがいて、挙げればきりがない。あの人は本当に有能だ」。

レブロンが名前を挙げた以外にも、ジェームズ・ハーデン(現フィラデルフィア ・76ers)やスティーブン・アダムズ(現メンフィス・グリズリーズ)もプレスティGMがドラフト指名した選手だ。44歳のプレスティGMの手腕は確かに秀でたものがあり、実際に、もっと評価されてしかるべきなのだろう。

もっとも、ここで他チームのGMを名指しで称賛したレブロンの発言は、チーム強化が思うように進まないレイカーズのロブ・ペリンカGMへの当て付けと見た関係者も少なからずいたようではある。

7.5. 試合に緊張感を生み出すクォーターごとの勝敗決定&最終目標得点方式

NBAオールスターゲームの試合フォーマットは過去2年と同様であり、この総括に含めるのは適切ではないのかもしれない。ただ、クォーターごとに勝敗を決定するというこの仕組みのおかげで、各クォーターの終盤はそれぞれ緊張感に満ちたものになった。

また、「第4クォーターは第3クォーター終了時の合計得点の高いほうのスコアに、24(オールスターMVPを通算4度受賞したコービー・ブライアントの背番号にちなむ)を足した数字を『最終目標得点』(ターゲットスコア)とし、その得点に先に到達したチームが勝者となる」という勝敗決定方法も綺麗にはまった感があった。そのため、改めてこのシステムを評価するべく、7.5個目の項目としてここに挙げておきたい。

今回のオールスター本戦では、第3クォーターを終えてチーム・デュラントが1点をリードしていた。両チームは最終クォーターも追いつ追われつの大接戦を演じ、ファンは世界最高の選手たちが本気でしのぎを削るゲームを楽しむことができた。このいわゆる『イーラム・エンディング方式』でなければ、レブロンのドラマティックな決勝弾も生まれなかったはずだ。

NBAは今回から、ライジングスターズ(現地金曜に行われる若手選手たちのオールスターゲーム)も、これまでの2チームによる対戦方式から、4チーム制として3試合を実施し、かつ試合を最終目標得点方式に変更した。より良いゲームを目指して変化を恐れないNBAのこうした姿勢は高く評価されていい。

おかげで、冗長になりがちなオールスターイベントの欠点が解消された。オールスターゲームに関しても、今のフォーマットはうまく機能しており、今後も維持されていくのではないだろうか。

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杉浦大介 Daisuke Sugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。