杉浦大介のNBAオールスター2022取材記 Day 3:『非公式のホスト役』を完璧にこなした地元オハイオの英雄レブロン・ジェームズ

杉浦大介 Daisuke Sugiura

杉浦大介のNBAオールスター2022取材記 Day 3:『非公式のホスト役』を完璧にこなした地元オハイオの英雄レブロン・ジェームズ image

第71回NBAオールスターゲーム:レブロン・ジェームズ

杉浦大介記者とって15回目のNBAオールスター現地取材も最終日の3日目を迎え、残すは第71回NBAオールスターゲーム本戦のみとなった。この日はメインイベントの試合のほか、ハーフタイムには75周年記念チームの表彰セレモニーも行われ、週末の3日間で最大の盛り上がりを見せた。そんななか、球宴の主役となったのはやはり、地元オハイオの英雄レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)だった。


映画のような完璧な幕切れ

2022年のオールスター本戦開始直前、レブロン・ジェームズがロケット・モーゲージ・フィールドハウスのスコアラーテーブルの前で滑り止めの粉を撒き散らした瞬間、ふと懐かしさを感じた。

「決して変わらないものがある。キングがこの場所に戻ってきた!」。

TNT放送の解説を務めたレジー・ミラーが嬉しそうにそう語っていたのも理解できる。

この、試合前のパウダートスは、レブロンがクリーブランド・キャバリアーズで過ごした11シーズン(2003-04~2009-10、2014-15~2017-18シーズン)の中でほとんど名物になっていたパフォーマンスだ。馴染みの物事は人々を安心させる。クリーブランドで見慣れたこの儀式が久々に再現されるのを見て、私もレブロンのキャブズ時代に何度となくこの街に足を運び、ビッグゲームを取材した日々のことを思い出したのだった。

第71回NBAオールスターゲーム:レブロン・ジェームズ

一昨日のコラムに記した通り、地元チームのキャブズが躍進し、その主力メンバーが多くのイベントに参加したおかげで、今年のオールスターが当初想定されていた以上に盛り上がったのは間違いない。オールスター本戦では、レブロンと同じオハイオ州アクロン出身のステフィン・カリーが大活躍したことも良いスパイスになった。

それでも、この週末を通じて、最大の存在感を放ったのは、やはりバスケットボール界におけるオハイオの象徴であるレブロンにほかならなかった。

「この場にいられてとても幸せだ。ここから南へ35分のアクロンで育ったので、オールスターウィークエンドに家族や友人とともにこの数日を楽しく過ごせて本当に嬉しい」。

19日(同20日)のメディアセッションでそう語っていたキング・ジェームズは、これがコービー・ブライアントに並ぶ史上2位タイとなる18度目のオールスターゲーム選出だというのに、倦怠感などまるで感じさせず、生き生きと週末を過ごしてるように見えた。

憧れのマイケル・ジョーダンとの抱擁

オールスターゲームが行われた20日(同21日)も、試合前のイントロダクションで最大級の大歓声を浴び、両手を上げてそれに応えた。自身がアクロンに創立した『アイ・プロミス・スクール』の生徒もスタンドで見守る前で、カリーと並ぶゲーム最多タイの36分15秒をプレイ。最終的には24得点、8アシスト、6リバウンド、3スティールをあげ、シーズン中さながらのオールラウンドゲームで見る者を魅了した。

ハーフタイムに行われたNBA75周年記念チームの表彰セレモニーでは、75周年記念ロゴ入りのジャケットに身を包み、憧れのマイケル・ジョーダンと熱いハグ。後半戦のコートに戻ると、最後は161-160から勝負を決めるターンアラウンド・フェイダウェイジャンパーまで決めてしまったのだから、その働きぶりには文句のつけようがない。

第71回NBAオールスターゲーム:レブロン・ジェームズとマイケル・ジョーダン
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「(セレモニー時には)少年時代を通じて僕をインスパイアしてくれた人と握手する機会を逃したくなかった。子どもの頃はいつも彼のようになりたかったからね。決勝ショットがMJ(ジョーダン)にインスパイアされたフェイダウェイだったのはクレイジーだったよ」。

試合後の会見でレブロンはそう述べていたが、実際にクリーブランドのファンも大喜びだった。それはまるで映画のようなパーフェクト・エンディングだったのだ。

【動画】レブロン・ジェームズ 決勝ショット|第71回NBAオールスターゲーム

こうして夢の球宴の『非公式のホスト役』をほぼ完璧にこなすなかで、クリーブランドではレブロンがいずれまたキャブズに復帰するのではないか、という話題が上っていたことも付け加えておきたい。『The Athletic』の取材に対し、「扉は閉じていない。復帰するとは言わないけど、わからない。未来がどうなるかはわからないものだ」と答えたのが広く報道されたのだ。

レブロン・ジェームズのキャブズ復帰の可能性

実際にはキャブズが躍進を始めた頃からレブロンの復帰話はちらほら耳にしていたが、私はあり得ないと思っていた。クリーブランドでNBA選手としてできることはすべてやり尽くしたと思われるレブロンは、今後はエンターテインメントの街、ロサンゼルスで生きていくつもりだと感じていたからだ。ダリウス・ガーランド、ジャレット・アレン、エバン・モーブリーといった20代前半の若手が中心になった現在のキャブズのほうも、37歳になった地元の英雄の復帰を期待してはいないはずだ。

ただ、今回オハイオで数日を過ごすうちに、その確信に近い私の考えが少々揺らいだところがある。レブロンがキャブズを離れてすでに4シーズン目になるが、クリーブランドは依然として『レブロンの街』だったからだ。レブロンのほうも故郷に強い愛着を持っていることは明白で、付け加えれば、ガーランドの代理人はレブロンと同じリッチ・ポールである。

だとすれば、現在17歳の息子ブロニーとともにNBAでプレイしたいという夢を持っているレブロンが、あるいは息子を連れて故郷に再びカムバックするという壮大なストーリーも、もしかしたらあり得るのだろうか――?

いや、ここでついジャーナリストの悪い癖が頭をもたげそうになるが、そうやって未来のことばかりを考えるのはまたの機会にすべきなのだろう。今年は本当に良いオールスターだった。この日ばかりは、地元出身のスーパースターが晴れの舞台を心から楽しむと同時に、集まった人々を喜ばせたという物語だけで十分なはずだ。

「きっとこの瞬間を忘れることはない。子どもたちが(このオールスターを)見られて良かったよ。いつか孫ができたら、祖父がバスケットボールをしていた時に、どんなことを成し遂げたのかを映像で見せることができる」。

試合後、これまで様々な大舞台を経験してきたレブロンはそう述べた。鮮やかな決勝ショットを決めたシーンはきっと後世に語り継がれていくはずだ。レブロンが故郷でプレイした頃の記憶に改めて想いを馳せ、クリーブランダーたちも幸福を噛み締めながら家路についたことだろう。

そして、最後の最後で私に『レブロン、クリーブランド復帰の可能性』という次のストーリーのアイデアまで与えてくれたのだから、2022年のNBAオールスターは、やはり素晴らしい夢の球宴だったのである。

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杉浦大介 Daisuke Sugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。