[コラム]渡嘉敷来夢、WNBA3年目のチャレンジ(宮地陽子)

Yoko Miyaji

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地元シアトルでのオールスターに興奮

渡嘉敷来夢(シアトル・ストーム)の目がパっと輝いた。7月22日にシアトルで開催されたWNBAオールスターのことを聞いたときだ。

「すごかったです。ベンチの真裏で見ていたんですけれど、本当にすごかったです。自分の好きな選手、憧れの選手やチームメイトとかもいて、本当に盛り上がったんです。あの雰囲気──。キーアリーナが一番上まで全部あいたんですよ(*)。それを見たのは初めてで。NBAだと当たり前かもしれないんですけれど、WNBAであんだけなるのはすごいなぁって思いました」と、興奮気味に語った。
(*)通常、ストームの試合では、キーアリーナの2階席には観客は入れず、1階席だけで開催されている。

地元シアトルで開催されたオールスターゲームは、客席から見るだけでも、渡嘉敷にとって大きな刺激になったようだ。同時に、自分もいつか、そういった盛り上がりの中で戦ってみたいという気持ちも芽生えた。

「オールスターでこんなふうになるんだったら、自分たちも、WNBAファイナルを戦えばこういうふうにできるんだなと思った。オールスターじゃなくて、自分のチームでこういうのを見たいなって」。

さらに言えば、自身のWNBAオールスター出場も目標のひとつだ。

「いつか出てみたいですね。でも、(そのためには)もっと頑張らないと。まずはこの試合に出ないと」。

渡嘉敷来夢 Ramu Tokashiki 2017

渡嘉敷が「この試合」と言ったのは、オールスター明けの最初の試合、7月25日に行なわれた対ロサンゼルス・スパークス戦。実は、オールスター休みに入る前、渡嘉敷の出場時間は3試合連続で一桁台に落ち込み、オールスター直前の対シカゴ・スカイ戦では前半わずか2分だけに終わっていた。

「調子としては全然悪くないんですけれど、プレイタイムがもらえないので、何とも言えないなっていうのが正直なところです」と渡嘉敷。

結局、スパークス戦では15分の出場時間を得たが、それでも8月3日現在、渡嘉敷の平均出場時間はわずか12.6分。平均13分だった昨季よりわずかに減っている。平均3.5得点、1.4リバウンドといったスタッツも昨季(平均5.3点、2.5リバウンド)よりも下がっている。チームとしても、開幕2試合目から4連勝したものの、その後は負けが先行し、8月3日現在10勝13敗でリーグ8位。今はギリギリのところでプレイオフ圏内にいるが、少し前から圏内と圏外を行ったり来たりしている状況だ。オールスター常連のスー・バードのほか、2015年の新人王(ジュール・ロイド)、2016年の新人王(ブリアナ・スチュワート)を擁するチームとしては期待外れの成績だ。渡嘉敷個人としても、チームとしても、昨季より前進するという目標が達成できていないのが現状だ。

プレイタイムは減少しているが…

傍から見ると、チームの不振と渡嘉敷の出場時間の減少には相関関係があるように思える。ヘッドコーチが控えを完全には信頼していないのか、試合に競ったり負けたりしているときはスターター5選手の負担が大きくなり、その分、渡嘉敷ら控え選手の出場時間が減少する。逆に控え選手の立場からすると、1~2分出ては下げられるという短い出場時間では力を出し切ることもできないという悪循環に陥ってしまっているようだ。

選手の間からは、そんなコーチの選手起用法や戦術への不満も出始めているようで、7月末、WNBAを取材するウェブサイト『Summit Hoop』に、匿名選手の「常に勝てるようなコーチングをされているようには見えない」といった不満の声が掲載されてもいる。

そんなチームの低迷する雰囲気を打開して調子を上げて行こうと、オールスター明けを前にスー・バードがチームに向けて「自分たちでプレッシャーをかけずに、選手自身が試合をもっと楽しもう」とアドバイスしたのだという。

渡嘉敷も言う。

「スーが言うように、みんながみんな、あまり気にせず、楽しんで、自分たちのやるべきことをやるというのが、(シーズン終盤戦に向けて)大事になってくると思います。いい選手たちは揃っているんで、調子がいいときはすごくいいんですよ。逆にあまり考えると動けない」。

渡嘉敷来夢 Ramu Tokashiki 2017

渡嘉敷自身はというと、出場時間がどれだけ短くても、できるだけ前向きに考え、自信を失わないようにしているのだという。

「(試合に)出ればできると思います。いつもそうやって自分に言い聞かせているというか、思っているので。自信がなくなって、調子が悪くてだめだとは一切思っていない。練習でも調子は全然悪くないんですよ」。

オールスター前の試合で出場時間2分に終わった試合の映像を、後から見直して、気づいたことがあるという。

「試合が終わった後にビデオを見て、『あ、この2分、ただやっているだけじゃだめなんだな』っていうのは思いました。チームのためにどうこうしようとかじゃなくて、自分をアピールすることによって(コーチに認められ)、チームにとってプラスになったりする。そうすることで少しでもスチューイ(スチュワート)を休ませたりすることができるのかなと思った。どうせよくても悪くても下げられるんだったら、自分の好きなことやっちゃおうかなって(映像を見ていて)思いました」。

夏のWNBAは「自分にとってプラス」

WNBA3シーズン目の今季、渡嘉敷の横には、それまで2シーズンの間、通訳としてついていてくれた親友の大西ムーアダイアンの姿はない。それでも、英語での会話がストレスになることはないという。それだけ、アメリカでの生活やWNBAに慣れてきた証拠だ。

「自分自身としては、ちゃんと言われていることは理解できていたりするんで、特に問題はないです。自分の気持ちを言えないというのはありますけれど、時間あるときにゆっくり、うまく伝えたらわかってくれる選手もいるんで、特に問題はないですね。みんなも自分のことをわかってきてくれているので、それはすごく大きいなとは思います。これでまた違うチームに行っていたら1からだから大変だったとは思うんですけれど、(ストームでは)みんなわかってくれていると思うんで。自分、本当にここのチームメイトが大好きです」。

すべてが思うようにいっているわけではないが、チームメイトとの関係は良好で、夏をWNBAで過ごすことは「自分にとってプラスになっている」と断言する。

「外国人選手だから、プレイタイムがないのに何で来るんだよとは思われているんだとは思いますよ。でも試合でのプレイタイムはなくても、練習でうまくて、身長の高い選手だったり強い選手とできたりするっていうのが自分にとってプラスになると思っている。プレイタイムは欲しいですけれど、なきゃないで、それが自分にとってプラスになっている部分は必ずあると思う……と、ポジティブに考えています」。

最後に、WNBAレギュラーシーズン終盤戦で、これだけはやろうと思っていることを聞いてみた。

「試合に出たら一生懸命やる。何かしら練習でやってきたこととか、自分の持っているものを1分でも2分でも出すことが大事。それで印象に残ったら、ちょっとずつプレイタイムも増やしてくれると信じて頑張ります。あとは、自分自身、どういう気持ちを持ってやるかが一番大事なんで。どんなにプレイタイムをもらえなくても、どんなに自分の内容が悪かったとしても、やっぱ、自分はうまくなりたいし、ここで折れている場合じゃないんで。どんな形でも、すべてポジティブにとらえて、いつか、この経験が自分にとっていい方向につながると思って、後半戦もやっていきたいなと思います」。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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