2019年のNBAオールスターゲームは、49言語で215か国に届けられた。現地シャーロットからライブでオールスターゲームを放送・配信し、なおかつ母国語で実況・解説を付けたラジオ局とテレビ局は18あったという。そのうち13は米国外の放送局であり、含まれていたのは中国、フランス、ギリシャ、香港、モンゴル、ラテンアメリカ、中東、ポーランド、スペイン、台湾、韓国などだった。その映像を提供するワールドフィード・トラック(国際映像配信車)を訪れ、メディアオペレーションズ&テクノロジー部門のエクゼクティブ・バイスプレジデントを務めるスティーブ・ヘルムス氏から、オールスターゲーム前に話を伺った。
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米国以外の国と地域からオールスターウィークエンドを楽しんだファンは、このトラックから送られてくる映像を見ていた。決して広いスペースとは言えないトラック内には世界各地に最高の映像を届けるために取り組むスタッフたちの姿があった。なお、中国の国営放送CCTVだけは、同じトラック内で作業をしているが、独自のオペレーションで映像制作を行なっているという。
放送権利を持つターナー・ネットワーク・テレビジョンが会場内に設置した約50台のカメラを使って、現地映像を届けていく工夫がこのトラック内で行なわれていた。
国内でもこのオールスターゲームは二つの番組が制作された。メインの放送がTNT。同時にTBSでもシャキール・オニールなどOBたちが選手目線で繰り広げる『プレイヤーズ・オンリー』が放送された。同時に2つの番組作りが行なわれたため、カメラ台数も普段以上の多さとなった。
現地がコマーシャル中であっても会場の雰囲気を届け続けることで、世界中どこから試合を見ていてもその場にいる雰囲気を届けることを大切にしているとヘルムス氏は言う。
「NBAが提供するユニークな面は、一度建物の中に入ると、継続的なエンターテインメント体験を得られるということです。デイビッド・スターン前コミッショナーのときからそのように形成し、表現することを心がけてきました」。
ヘルムス氏自身も、12歳のときに観戦に訪れていたボルティモア・ブレッツ(現ワシントン・ウィザーズ)の試合中に行なわれるエンターテインメント・パフォーマンスがいつも待ち遠しかったと当時の思い出も語ってくれた。
当時に比べて質の高まったエンターテインメントのパフォーマンスが世界中に届けられるようにするために、TNTの全米放送の映像に加えて、アリーナ内から得られるカメラ映像を織り交ぜて世界各国のスタジオに届ける。ヘルムス氏は、離れたスタジオで試合を中継する実況者と解説者が話しやすい映像作りを意識している、と話す。
ヘルムス氏は、このオールスターゲームで実験的に行なわれた新たな映像作りについても教えてくれた。今回のオールスターゲームでは、プレイが行なわれている最中に初めて「スカイカム」が導入され、コート上を横断撮影したという。
スカイカムの実現には、スコアボードの大きさを考慮した特別なラインを引く必要があり、アリーナの4つ角からケーブルを張り巡らせた。危険な高さも全てデータ入力されており、コンピューターがそのカメラを動かしている。その高さは25フィート(約7.62メートル)。この設備のおかげで、テレビゲームのNBA 2Kシリーズで見られるような映像がお茶の間に届けられる。ポイントガードがボール運びをする姿を後ろから追いかけるような独特の映像を作ることを可能とする。
実現に向けて欠かせなかったのが、プレイヤー&ボールトラッキングシステムのデータだ。昨シーズン全試合のデータを分析し、ボールが25フィートの高さまで浮き上がることは全てのクォーターとオーバータイムの最後の1分の間のみであることが分かったという。クォーター終了間際に放たれるあのロングシュート以外に、ボールがその高さまで到達することはなかったのだ。そのため、全てのクォーターの最後の1分になると、スカイカムは自ら撤退するプログラミングが取り込まれているのだという。
「今まで誰も見たことのないユニークな角度の映像が提供されることになります。データがそれを可能としたのです。私たちはこのデータをバスケットボール運営部門に共有しました。承認が下りるのに時間は掛かりませんでしたよ」(ヘルムス氏)
すでにサマーリーグでも試験的に導入されていた新たな映像技術がこのオールスターでも試された。それを実際に“体験”することで、本格的な導入に向けて前進していくという。
この試験で合格が下されれば、プレイオフやNBAファイナルでも導入されるようになる。さらには、審判が映像を確認するリプレイセンターにも、これまでにない角度の映像が提供されるようになるという。最終的には、試合を決定づけるかもしれないジャッジにも影響を与えることとなるだろう。
ヘルムス氏は、1984年にNBC局がNFLの試合で初めてスカイカムを導入したときのプロダクションマネージャーを務めていた。スカイカムをスポーツ中継に取り入れるプロジェクトに関わっていた人物が、NBAの楽しみ方にさらなる進化を加えていく。
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