試合終了のブザーが鳴り響き、オラクル・アリーナの天井から黄色のコンフェティが降ってきた。紙吹雪の中で、ゴールデンステイト・ウォリアーズの選手たち、コーチたちは抱き合い、笑顔や涙で優勝を祝った。
プレイオフ全勝優勝こそ逃したが、ウォリアーズが、その強さを見せつけたNBAファイナルだった。
「今季は私たちのシーズンだった」と、スティーブ・カーHCも振り返る。
1年前のNBAファイナルで、王手をかけてから3連敗で優勝を逃した悔しさは、まだ記憶に鮮明に残っていた。その痛みは、今季優勝することでしか消すことはできないと信じ、シーズンを通して、コーチ陣も選手たちも、優勝だけに集中してきた。
そんなウォリアーズに、去年夏、フリーエージェントで移籍するという大きな決断を下したケビン・デュラントにとっては、チームメイトとは別の、初優勝にかける思いがあった。5年前にNBAファイナルに進みながら敗れた相手がレブロン・ジェームズ率いるマイアミ・ヒートだったということも、モチベーションとなっていた。
優勝を決め、初めての優勝トロフィーとファイナルMVPを手にしたケビン・デュラントは、ほっとしたように、ようやく本音をもらした。
「ものすごく優勝したかった。この経験をしたかった。シャンペン・シャワーを浴びたかった。(優勝後の)壇上に上がりたかった。ファイナルMVPにもなりたかった。多くの夢を持っていた」。
夏が終わると、来季は連覇という新たなチャレンジが待ち構えている。デュラントは「僕らは来シーズンにはさらにいいチームになれる」と言う。確かにシーズンを戦い抜き、優勝を成し遂げた自信で、チームとしても選手としても、さらに進化していきそうだ。
その一方で、目標を達成したからこその困難もある。あるラスベガスのオッズメーカーによると、来シーズンのウォリアーズは史上最高の本命なのだという。ラジオ番組に出演したときに、そのことを聞かされたウォリアーズのヘッドコーチ、スティーブ・カーは、笑い飛ばした後で、解説者の視点で客観的に状況を分析した。
「スポーツファンとして、TNTで(解説者として)外から観察していたときにはいつも、チームが上昇しているときが一番楽しめるときだと思っていた。上り切ったら、周囲から期待をかけられ、ストレスになる。以前ほど純粋な気持ちで楽しめなくなる。達成したときの満足感が少なくなるわけではないけれど」。
「私たちも今年はそういった領域に入っていたと思う。最初に優勝した年はとにかくハッピーでフリーで、『オーマイゴッド、優勝しちゃったよ』という感じだったけれど、一度それをやったら、すべてが変わった」。
来季はディフェンディング・チャンピオンとして、さらに大きな期待とプレッシャーがかかる。贅沢な悩みかもしれないが、頂点に立ち続けることは、まわりが思っているほど楽なことではない。
今のNBAで、MVP経験者が2人、オールスターが4人いるウォリアーズに太刀打ちできるチームは少ない。この夏、デュラントは、チームメイトが残りやすいように本来もらえる額を減らして契約することも考えているという。となると、まだしばらく盤石な状態が続きそうだ。NBA界隈では、果たして一強状態が続くことがリーグのためにいいことなのか、という議論まで出ているほどだ。
そんな声に対して、NBAコミッショナーのアダム・シルバーは、議論すべきなのは頂点にあるチームをいかに崩壊させるか、ではないと言う。
「『あのチームは強すぎる』ではなく、『強いチームをもっと作るためにどうしたらいいのか』を考えるべきだ。すばらしいチームの存在がまわりのチームにフェアでないという考え方ではなく、もっとすばらしいチームを作ろう、となるべきだ。それが競争の自然な姿だ」。
実のところ、まわりの強豪チームの台頭を誰よりも望んでいるのは、ほかならぬウォリアーズではないだろうか。競争心が強い選手なら、勝って当たり前の期待やプレッシャーよりも、目の前にいる強豪チームとしのぎを削ることに楽しさを見いだすはずだ。どれだけ勝っても、競争がないとモチベーションは続かない。モチベーションが続かなければ、どんなにすばらしいチームでも長続きはしない。
5月、今シーズンで引退が噂されるサンアントニオ・スパーズのマヌ・ジノビリがこう言っていた。
「勝ったときのこと、楽しかったときのことを思い出すのは簡単だ。でも、うまくいかないときはまた違う繋がり、友情を感じられる。みんなでいっしょにやっているというのを感じられる」。
逆境があるから、勝負は面白い。苦しい戦いだからこそ、勝利がそれだけ嬉しい。来シーズンも、ウォリアーズと対等に戦えるようなライバルチームが出てくることを願うばかりだ。
文:宮地陽子 Twitter: @yokomiyaji