「このやり方で多くの試合に勝ち、ここまで来た。だから、変えることはしない」と、クリーブランド・キャバリアーズのレブロン・ジェームズ。
「それが私たちのゲームで、私たちのあり方だ。ゴールデンステイトと対戦するからといって、それを変えることはない」と、キャブズのタロン・ルーHC。
どちらも、NBAファイナル第2戦に完敗した後、試合のペースを上げてウォリアーズの得意なペースで戦うより、ペースを落としてスローダウンの戦いに持ち込んだほうがいいのではないかと提案されたときの反応だ。
「自分たちのゲーム」という言葉は、今回のNBAファイナルが始まってから、何度か耳にした。
試合のペース以外では、アイソレーションでの攻撃についても、同じ理論が展開された。惨敗した第1戦でジェームズとカイリー・アービングのアイソレーションでの攻撃が多かったことについて、試合後の会見で聞かれたジェームズは言った。
「これも僕らのゲームのうちだ。この戦い方で、僕らはここまで来ることができた。アシストはせめて20本台にしたい(第1戦のキャブズのチーム合計アシストは15本)けれど、でも、僕らはそういう(アシストの多い)戦い方でここまで来たわけではない。ボールをもっと動かさなくてはいけないことはわかっている。でも、アイソボールが僕らをここまで連れてきてくれた。この3年の成功もそのおかげだ。そればかりになるのは避けたいけれど、それでも、これはうちのチームのパッケージの一部なんだ」。
確かに、ジェームズの言うことは正論だ。いきなり違う戦い方をして勝てるほど甘いレベルではない。しかも、本来パッケージの中に入っているはずの3ポイントショットがファイナルでは決まっていないのだから、なおさらだ。
今季レギュラーシーズン中のキャブズの3P成功率は38.4%、これはウォリアーズに次いでリーグ2番目だ。プレイオフの1回戦~カンファレンス・ファイナルまではさらに確率をあげ、3ラウンドとも40%台の成功率だった。それが、ファイナルでのここまで3試合の平均3P成功率は29.8%なのだ。
結果、どうしてもジェームズやアービングのアイソレーションからの攻撃に頼ることになる。
第3戦は、途中まで、それが確かに成功につながっていた。ジェームズとアービングのすばらしい1対1能力によって得点を重ね、第4Q半ばに最大7点のリードを取った。勝利がすぐ先に見えてきた。しかし、アイソレーションからの攻撃には難点がある。個々の選手への負担が大きくなるということだ。
第3戦後、ウォリアーズのスティーブ・カーHCは、ジェームズやアービングの活躍でリードを取られたときの指示について、こう話していた。
「彼ら2人とも、それぞれ38点と39点をあげるすばらしい活躍だった。選手たちには、『彼らはいずれ疲れるから、マークを外さずついていき、外から打たせるようにするんだ。それができれば疲労が影響してくる』とね」。
第3戦のジェームズのフィールドゴールのうちアシスト率は26.7%、アービングは25%だ。つまり、FGによる得点の3/4をアシストなしのアイソレーションから作り出していた。
その疲れなのか、第4Q残り5分4点リードの場面から試合終了までの間、アービングとジェームズは2人合わせてFGを6本打ち、すべて外している。この間の2人の得点はジェームズのフリースロー2本のみだった。
ファイナルのような強敵相手の大きな舞台だからこそ、これまで成功してきたことを貫くという姿勢は理解できる。しかし、それには限界があるということもよくわかった第3戦だった。
皮肉なのは、ジェームズ自身はアイソレーション中心のオフェンスよりも、今のウォリアーズや、2014年、マイアミ・ヒートに所属していたときにファイナルで対戦したサンアントニオ・スパーズのような、パスが流れるようなオフェンスを理想としていることだ。
しかし、彼は現実主義者であり、勝利至上主義者でもある。勝つために必要と思えば、理想から外れても、シーズンが終わるまでは貫き通すだろう。と同時に、誰よりも、このやり方の限界も感じているはずだ。
まだシリーズは終わったわけではないが、もしも、このままキャブズが1試合も勝てずに終わるようだったら、来シーズンはその「自分たちのバスケットボール」を変えるときなのではないだろうか。まだしばらくは、優勝するためにはウォリアーズを倒さないといけない時が続きそうなのだから、なおさらだ。
文:宮地陽子 Twitter: @yokomiyaji