おそらく、試合を見ていたほとんどの人は思ったのではないだろうか。
「このチームにケビン・デュラントがいるなんてズルい」。
もちろん、ゴールデンステイト・ウォリアーズはリーグのルールの範囲内でデュラントを獲得したわけで、その経緯自体はズルくも何ともないのだが、どちらに肩入れしているわけでもなく、中立の立場で見ていてもそう思ってしまうほど、NBAファイナル第1戦でのデュラントのオールマイティ感はすごかった。オールマイティな存在としては引けを取らないはずのレブロン・ジェームズですら、第1戦のデュラントの活躍の前には霞んでいたほどだ。
そのジェームズも、第1戦のウォリアーズで何が一番、強く印象に残ったかと聞かれ、一言、「KD」と答えた。
「昨季のレギュラーシーズンとプレイオフにリーグ史上トップクラスだったチームに、あれほど高い攻撃の才能を持ち、かつすばらしいバスケットボールIQを持っている選手が加わったのだから……」。
もっとも当のデュラントは、いとも簡単にプレイできているという表現に対して、「まったく簡単ではない」と反論した。
「(与えられた作戦を)コート上で実行しなくてはいけない。毎ポゼッション、それをやるのは大変なことなんだ。常に集中しなくてはいけない。簡単なことではない」。
確かに、単に才能がある選手を加えただけで完成するほど、チーム作りは簡単なことではない。選手の才能を生かすだけのチームとしての戦術や、指示、そして選手たちの実行力があってこそ、なのだ。そこで注目したいのが、スティーブ・カーHCの的確な指示だ。
試合後、マイク・ブラウン代行HCが明かしたところによると、ヘッドコーチのカーは、試合前、序盤からデュラントにボールを持たせてアグレッシブにインサイドに攻め込ませるように指示したのだという。オールラウンドなオフェンス力を持つデュラントだが、パスを意識しすぎると消極的になることがある。試合の出だしにそういった流れに陥ってしまうと、キャブズを勢いづかせてしまうかもしれない。
それを避けるために、試合最初から攻め込むことを意識させたのだ。シカゴ・ブルズのトライアングルオフェンスで、試合の出だしの数回はポストのビッグマンにパスを入れることで、試合を通してバランスがよくなるのと似た理屈だ。
体調不良のために、4月末からベンチ入りしていないカーだが、最近では練習やロッカールームでは積極的にコーチングに加わっているようだ。ハーフタイムにもチームに鍵となる指示を出していた。
「スティーブが常に強調していることがあって、きょうのハーフタイムにもウィングの選手たちに『走って、コーナーを埋めろ』と指示を出していた」と、ブラウン代行HCは明かす。
速攻のとき、ステフィン・カリーやクレイ・トンプソンら3ポイントシューターたちは、中途半端な位置にいるのではなく、コーナーに行くことでディフェンスをひきつけろという指示だ。
「うちのシュート力があって、それをやればどうなるかは、試合で何度か見た通り。KDはノーマークのダンクを3本ぐらい決めていたんじゃないか。ステフ(カリー)がひとつのコーナーに、クレイ(トンプソン)が逆コーナーにいて、そこにKDがボールを持って攻め込んできたからね」。
デュラントが加わったウォリアーズが、まるで無敵艦隊のように見えた裏では、選手たちの能力を最大限に生かすような的確な指示が行なわれていたのだ。
ウォリアーズの、そしてデュラントの圧倒的な強さに、早くも「シリーズは終わり」との声も出ているが、次はキャブズのタロン・ルーHCが、選手たちの能力を生かす采配を見せる番だ。
ジェームズも、先のコメントの後にこう言っていた。
「つべこべ言ってもしかたない。どう対抗するか、その答えを見つけなくてはいけない」。
文:宮地陽子 Twitter: @yokomiyaji