NBAファイナル2021で史上有数のパフォーマンスを披露し、ミルウォーキー・バックスを50年ぶりのタイトル獲得に導いたヤニス・アデトクンボが、『ESPN』のマリカ・アンドリューズ記者のインタビューで、NBAの頂点に立つまでの道のりや、ミルウォーキーで目標を達成した重要性を語った。
ファイナルMVPに輝いたアデトクンボはそのインタビューの中で、さらなる優勝リング獲得のために自分にできることをすでに考えていると認めると同時に、自分が成し遂げたことを振り返っている。
アデトクンボは「僕らがまた優勝することはないのかもしれない。それでも構わない。僕たちはやってのけたんだ」と話した。
「僕たちはやるべきことをやった。どこかに行き、スーパーチームに加わって、2回、3回と優勝するよりも、僕はこの道で1回優勝するほうが良かったんだ」。
これらのコメントから、アデトクンボの選手として、そして人としての素晴らしさが分かるだろう。アデトクンボは競争心、献身、自身の価値観をすべてさらけ出した。それにより、NBAで最も好感の持てるスターのひとりとなっている。
だが、アンドリューズ記者の質問に対する彼の回答には、別の見方もある。キャリアのどれほど早い段階でアデトクンボがそれを成し遂げたか、ということだ。
"The Greek Freak"(ギリシャの超人)の愛称を持つ26歳のアデトクンボは、オールスター選出5回、オールNBA選出5回、オールディフェンシブチーム選出4回。最優秀躍進選手賞、最優秀守備選手賞、2度のレギュラーシーズンMVP、そしてNBAファイナルMVPを受賞してきた。昨季のファイナル第6戦でフェニックス・サンズに勝利した際、アデトクンボは「タイムマシンをつくりたい」と冗談を飛ばした。2013年に戻り、新人王も受賞するためだ。
アデトクンボは、歴代の最も偉大な選手たちと同じ列に名を連ねようとしている。マイケル・ジョーダン、シャキール・オニール、レブロン・ジェームズといった選手たちよりも早くに、アデトクンボはチームで明らかにナンバーワンの選択肢となり、初タイトルを獲得しているのだ。称賛、年齢、リーグでの地位、周囲のタレントなどを考慮すれば、歴史的にもアデトクンボの域に属する選手を見つけることはなかなかできない。
ドウェイン・ウェイドにはオニール、マジック・ジョンソンにはカリーム・アブドゥル・ジャバー、ティム・ダンカンにはデイビッド・ロビンソンというように、若くしてチーム最高の選手としてタイトルを獲得した選手たちには、それぞれ大きな助っ人がいた。ラリー・バードは24歳にしてMVP投票で2位となってタイトルを獲得したが、1試合平均21.2得点という数字だった。彼が3年連続でMVPを受賞したのは、もっと時が経ってからだった。アデトクンボとの比較で最も近い選手は、ビル・ウォルトンだろう。24歳で優勝し、ポートランド・トレイルブレイザーズの明らかなリーダーだったからだ。だが、彼のキャリアは負傷で短かった。
NBAのほかの選手たちにとって脅威となるのは、アデトクンボがさらに向上できるということだ。一般的にスーパースターの全盛期となる時期を、彼はこれから迎えるのである。2019年はトロント・ラプターズ、2020年はマイアミ・ヒートと、ポストシーズンで壁にぶつかったが、2021年のプレイオフではアデトクンボの頭上で電球が光ったかのようだった。
2021年のプレイオフでの21試合で、アデトクンボは平均30.2得点、12.8リバウンド、5.1アシスト、1.2ブロック、1.0スティールという、とてつもない数字を残した。優勝を決めた試合では、フィールドゴール25本中16本成功、フリースロー19本中17本成功の50得点をあげている。彼の前に立ちはだかっていた壁に突然ヒビが入り、彼はそれを生かしてその壁をぶち壊したのだ。
ジョーダンは、"バッドボーイズ”のデトロイト・ピストンズに苦しんだ。オニールは、アキーム・オラジュワンにやられた。ジェームズはダラス・マーベリックス戦での失敗から学んだ。アデトクンボは、つらい敗北を乗り越えた者だけが持つ自信を携えて来季に臨むだろう。今回の優勝は、異なる次元に彼を推し進める突破口のようなものだったのだ。
アデトクンボにとっての天井は、どこまで上げるべきなのか? それは、彼がコントロールできない要素次第でもあるだろう。
バックスはこれから5年にわたり、アデトクンボを中心にチームをつくり続けなければいけない。フリーエージェントを追いかけ、ドリュー・ホリデーを獲得したときのようなトレードを追い求めたり、大きな動きに備えなければならない。ブルックリン・ネッツやロサンゼルス・レイカーズのような、現在のリーグでタイトルを競うようなチームたちは、バックスにとって大きな挑戦となるだろう。今後は新たなスーパーチームも出てくるはずだ。どこかで負傷問題に襲われるかもしれない。
それでも、アデトクンボに何かしら制限を設けるのは賢明ではないだろう。彼はもっと優勝できるだろうか? もっとMVPを受賞できるのだろうか? かつてギリシャから来た不器用でやせた少年に、それまで閉ざされていたドアが突然開かれたかのようだ。
アデトクンボとバックスは、まさに「やるべきこと」をやった。だからこそ、ミルウォーキーで彼のレガシー(遺産)は確かなものとなっている。今後、彼がそこにどれだけのものを加えていけるかを見るのが楽しみでならない。