カワイ・レナードとマイケル・ジョーダンの歴史的なブザービーターを徹底比較

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カワイ・レナード(当時トロント・ラプターズ)は、フィラデルフィア・76ersとの2019年NBAプレイオフ イースタン・カンファレンス・セミファイナル第7戦で、歴史を作った。シリーズ勝敗がかかった一戦で、彼は決勝ブザービーター(試合終了のブザーと同時に決まるショット)を成功させたからだ。

NBAプレイオフ史上、シリーズの勝敗がかかる場面で決勝ブザービーターを沈めた選手は、レナードともう1人しかいない。その選手とは、30年前(1989年)のクリーブランド・キャバリアーズ戦で『The Shot』と呼ばれるブザービーターを決めたマイケル・ジョーダンだ。ジョーダンがこのショットを決めた試合は第7戦ではなかったものの(当時のシリーズは5試合制)、残り時間0秒でシリーズの勝敗がかかった場面でブザービーターを決めたケースは、レナードとジョーダンのショットだけだ。

では、どちらのショットがより凄いものだったのだろうか?

1989年にマイケル・ジョーダンが決めたショットだろうか? それとも2019年にカワイ・レナードが決めたショットだろうか?

様々な角度から、2人のショットを比較、分析してみよう。

カワイ・レナード 決勝ブザービーター(2019.5.12)

▼マイケル・ジョーダン 決勝ブザービーター(1989.5.7)


1. 試合状況

ジョーダンは、シカゴ・ブルズが1点を追っていた残り3秒の時点でインバウンドパスを受けた。もしショットを外せば、ブルズのシーズンはそこで終わりだった。

一方のレナードは、同点の場面で4秒残されていた。仮にショットを外していたとしても、5分のオーバータイムにもつれるだけだった。

残り時間と点差を考えれば、ジョーダンのほうがはるかに大きなプレッシャーを感じていたはずだ。レナードの場合、仮に外しても、もう1本ショットを打てていたかもしれないからだ。

ジョーダンには、そんな余裕はなかった。

判定: ジョーダン > レナード


2. ディフェンス

ゴールから離れた位置でボールを受けたとき、レナードは身長208cmのベン・シモンズにマークされていた。リーチ、サイズ、スピードに優れ、どのペリメータープレイヤーが相手でも守備で苦しめられる選手が相手だった。シリーズ中、76ersの中で誰よりもレナードを苦しめていたのも、シモンズだった。

また、228cmのウイングスパンを誇るジョエル・エンビードは、堂々たる体躯を生かした守備が自慢のリーグ屈指のディフェンダーだ。2017-18シーズンにはオールディフェンシブチームにも選出され、2018-19シーズンの年間最優秀守備選手賞の最終候補にも選ばれた選手で、コートのどこからでも相手のショットを防げるだけの力の持ち主だ。

レナードの決勝弾の場面で、エンビードは、シモンズのヘルプに入り、レナードをペリメーターの端に追い込んだ。

レナードがショットをリリースした瞬間、エンビードはできる限り手を伸ばして対応した。普段はフラットな軌道のショットを放つレナードは、慣れない山なりのショットを放つしかなかった。エンビードのディフェンスは、ショットをブロックするまでには至らなかったものの、これ以上はないと言えるだけの守備をしていた。

一方、ジョーダンのディフェンスについていたクレイグ・イーロー(クリーブランド・キャバリアーズ)は、シモンズほどの選手ではない。ましてやエンビード級でもない。ジョーダンと同じ198cmだが、アスリートとしての能力では劣る。ブロックショットは1988-89シーズンのキャブズ内で8位(1試合平均0.2本)で、ブルズとのシリーズを通して1ブロックしか記録していなかった。NBAでプレイした14シーズンでオールディフェンシブチームに選ばれた経験はなく、1シーズンで平均0.5ブロック以上を記録したのはたったの一度だけだった。

キャブズのディフェンスは怠慢で、ジョーダンがボールをキャッチするのを阻止しようともしなかった。当然、イーローのヘルプについた選手もいない。おまけにジョーダンにダブルクラッチまで許してしまっては、抑えられるチャンスは皆無だ。イーローは完全に攻略され、為す術もなかった。

レナードは、シモンズのディフェンスを潜り抜け、手を伸ばして迫ってきたエンビード越しにショットを決めた以上、ここは比較するまでもなくレナードに分がある。

判定: レナード > ジョーダン

Kawhi Leonard Toronto Raptors


3. 難易度

コートに出ていた残りの9選手のことは脇に置いて、ショット自体の難しさを比べてみよう。

ジョーダンのショットは、ドライブウェイで子供たちが再現できる類のもので、右から左に動き、ゴールまで約5.5mの位置で跳躍し、空中でリリースしている。見事に決まれば、印象に残るフィストパンプのセレブレーションを真似して楽しめる。

このショットが公園やドライブウェイ、誰もいない体育館で真似された理由は、ジョーダンが決めた象徴的なショットだったからにほかならない。そして、容易く真似できるところがいい。

では、レナードのショットはどうか? ゴールまで約7mのコーナーから放たれたもので、リムにバウンドしてからフープを通過した。言うまでもなく、こちらのショットのほうが難易度は高い。

平均レベルの選手に2人のショットの再現を頼んだら、間違いなくミッドレンジからのショットのほうが決まるだろう。

もし12歳の自分がドライブウェイでジョーダンのショットにトライしたら、何回目かで決められるかもしれない。レナードのマジカルショットを再現しようとしたら、いつまでもドライブウェイにい続ける羽目になるかもしれない。

判定: レナード > ジョーダン


4. 置かれた立場

もしジョーダンがこのショットを外してブルズのシーズンが終わっていたら、5年間で4度目のファーストラウンド敗退となっていた。セカンドラウンドを突破したことがなかったジョーダンにとっても、大きな後退となっていただろう。

1度目のシーズンMVPを受賞し、3シーズン連続の得点王に輝いていたとはいえ、当時は大事な試合で活躍できない選手という評価を受けていた。

ラリー・バードのボストン・セルティックスに負け、バッドボーイズ(悪童軍団)ことデトロイト・ピストンズに勝てずにいた上に、もしキャブズにも負けていたら、当時26歳のジョーダンに罵詈雑言が浴びせられていたに違いない。

一方のレナードは、シーズンMVPこそまだ受賞していないものの、すでにNBAファイナルMVPを勝ち取り、優勝を果たしている(サンアントニオ・スパーズ時代の2014年)。ポストシーズンに強いことで、リーグのヒエラルキーでも上位に位置づけられていた。もっと言えば、勝者として見られ、優勝が狙えるチームでエースになれるとまで思われていた。

仮にレナードがこのショットを外し、ラプターズが第7戦に敗れていたとしても、レナードが批判されることはなかっただろう。むしろ、彼がシーズンオフにラプターズに残るか、それとも移籍するならどのチームになるかが議論されていたはずだ。

つまり、レナードよりも明らかに、ジョーダンにはあのショット成功という結果が必要だった。

判定: ジョーダン > レナード


5. チーム状況

1989年の5月、当時のブルズは、まだ完成されたチームではなかった。スコッティ・ピッペンは入団2年目で、まだオールスターにも選出されておらず、将来性が垣間見られる時期だった。それに、まだフィル・ジャクソンがヘッドコーチに起用される前であり、完成されたチームにはほど遠かった。仮にシリーズに負けていたとしても、まだ先があるチームだった。

一方、ラプターズにとっての2018-19シーズンは、レナードをトレードで獲得した時点で、1シーズン以上の重みがあるシーズンになった。

それまでポストシーズンで勝ち切れず、レナードがフリーエージェントの資格を得ることは既定路線で、1年の在籍でチームを離れる可能性もあった。しかも、ホームでの第7戦となれば、この一戦は球団史上に残る試合といっても過言ではなかった。

リムを何度か跳ねて決まったショットは、球団の命運を握るほどのビッグショットだったのだ。

判定: レナード > ジョーダン



結論:レナード > ジョーダン

1989年のジョーダンの決勝ショットと同様に、レナードの勝利に対する気持ちの強さが感じられるこのショットもまた、長らく人々の記憶に残るものになるだろう。様々な角度から分析すると、レナードのショットは単なる決勝点だけではない要素も含まれていることがわかるはずだ。

仮に『決勝ショットの“パウンド・フォー・パウンド”(※主に格闘技で使われる用語で、全階級の格闘家が同じ身長、体重で戦った場合に誰が一番強いのかを考える際に用いられる方法)』があったとして、ジョーダンの“The Shot”を凌ぐものがあるとすれば、レナードのこのショットは間違いなく大本命になるはずだ。

原文: Breaking down which buzzer-beater was better: Kawhi Leonard or Michael Jordan? by Micah Adams/NBA Canada (2019年5月に公開された原文を抄訳・再構成)


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