アメリカはFIBAバスケットボールワールドカップ2023で3敗を喫し、4位で大会を終え、フィリピンを去ることになった。前回のワールドカップで7位だったことを考えれば、これは進歩でしかない。
アメリカバスケットボール界にとっては、ひどい数週間だった。
だが、その舞台でアメリカバスケットボール界が輝いたところも多かったのだ。
簡単に混同しがちだが、この2つは同じことではない。ワールドカップにおけるアメリカの失敗を批判する人のあまりに多くが、その違いを理解できずに矛盾している。
アメリカがリトアニア、カナダ、そして特にドイツとの準決勝で敗れた要因は、以下のように様々だとされている。
- タレント不足。昨季のオールNBAチーム入りした選手のうち10名がアメリカ代表として国際大会に出る資格があった中で、今大会のアメリカのロスターに入った選手はひとりもいなかった。
- ロスター構成の不出来。アメリカ代表は4人のビッグマンを選んだが、最も高さがあったのは6フィート11インチ(約211センチ)のジャレン・ジャクソンJr.だった。
- エゴの強大化とNBAのビジネス化の疑い。それこそアメリカが負けた理由との指摘も目にした。
- 欧州のクラブシステムの中で鍛えられた選手に対し、主に草の根レベルや高校・大学で育つアメリカの選手のスキルレベルの低さ
これらすべて、ナンセンスだ。
アメリカのロスターを構成したのは、12人の現役NBA選手たちだ。アメリカが敗れた3チームのNBA選手は、合計で13人。カナダはオールNBA級のシェイ・ギルジャス・アレクサンダーを擁するが、昨季のNBAで平均14得点超を記録したのは、ほかにRJ・バレットとディロン・ブルックスしかいない。リトアニアとドイツでその数字を達成したのは、ヨナス・バランチュナスとフランツ・バグナーだけだ。
アメリカにはその数字を上回る選手が9人いた。5人は平均20得点を記録したスコアラーだ。アメリカにいる最も才能ある選手たちがいなかったとしても、彼らは圧倒的に大会で最も才能あるチームだった。
ジャクソンJr.を先発センターに起用したアメリカは、6フィート10インチ(約208センチ)のパオロ・バンケロとボビー・ポーティスでローテーションし、ビッグマン2人を同時に起用するラインナップはほとんど使わなかった。負けた3試合のうち、リバウンドで大きく下回ったのは、3試合で最も重要度が低かったリトアニア戦。最も重要だったドイツとの準決勝は、リバウンドの差がわずか2だった。それも、ドイツがあまりショットを落とさず、ディフェンシブリバウンドの機会が少なかったのもあってのことだ。
最もよく言われるのは、アメリカが選手育成で「遅れをとっている」とか、「世界に追いつかれた」といった主張だ。だが、これらを示すエビデンスは存在しない。そういった誤った情報や意見が広まり続けるのは驚くべきことだ。
2022-2023シーズンのNBAのトップスコアラー50名のうち、アメリカのシステムで育っていないのは6名しかいない。トップ10のうち8名がアメリカのシステムで育っており、そこにはテネシー州で高校の2年を過ごし、ケンタッキー大学で1年プレイしたギルジャス・アレクサンダーが含まれる。
アメリカの大学でプレイし、成長したカナダのトップクラスの選手は、ギルジャス・アレクサンダーだけではない。ブルックス(オレゴン大学)、バレット(デューク大学)、ケリー・オリニク(ゴンザガ大学)もいる。セルビアとの決勝で合計27得点をあげたフランツとモリッツのバグナー兄弟は、それぞれミシガン大学で見過ごされがちな有望株からプロのタレントへと成長した。
アシストではNBAの上位25人中19人、15人中12人がアメリカ出身だ。3ポイントショット成功率のトップ20はいずれもアメリカ人。3P成功数は上位25人中24人がアメリカ人だ。
ショットやパスは、バスケットボールの重要なスキルではなかっただろうか?
NBAは世界のバスケットボールのスタンダードだ。あらゆる最高の選手たちがプレイしたいと熱望する舞台だからである。NBAでベンチに座るより、故郷に近いところでプレイすることを選んだ者たちもいる。だが、10年以上前にルディ・フェルナンデスがスペインのレアル・マドリーに戻って以降、NBAで成功した選手がNBAでプレイする機会を捨てるのは見たことがない。そしてそのフェルナンデスさえ、平均8.6得点というデンバー・ナゲッツのローテーションプレイヤーだったのだ。
米国出身外の選手たちが故郷よりもNBAの舞台を望む単純な理由はお金だ。ヤニス・アデトクンボは年俸4500万ドル(約66億1500万円/1ドル=147円換算)超を稼いでいる。バランチュナスは1500万ドル(約22億500万円)だ。NBA以外でそれだけの額を稼ぐのは、実質的に不可能だろう。
そのため、世界中のほぼすべてのベストプレイヤーたちがNBAに集まる。そしてそのほぼすべてがアメリカで鍛えられているのだ。
アメリカのバスケットボールや選手育成に問題や盲点がないと言っているわけではない。アメリカはビッグマンを育てることに関して遅れをとった。リーグにはかつてないほどの米国出身外の素晴らしい選手たちがおり、その中でも素晴らしいのがビッグマンたちだ。
リバウンドのリーグトップ5のうち4人、トップ25のうち12人がヨーロッパ出身だ。アメリカバスケットボール界はまだ、背の高い選手たちをバスケット付近に置き、ブロックさせたりプットバックで得点させたりするサイクルにとどまっている。欧州のようにショット、パス、ボールハンドリングのスキルに集中していない。ニコラ・ヨキッチやドマンタス・サボニスのような選手がアメリカで育つことはなかっただろう。サボニスはゴンザガ大で2シーズンを過ごし、さらに成長を遂げたのではあるが。
また、最近のアメリカには、最も才能ある若手の有望株を重要なプロ選手に育て上げる点でも問題を抱えている。高校時代にトップ5の有望株で、その後オールNBA選手にまで成長したのは、2016年に高校を卒業したジェイソン・テイタムが最後だ。アンソニー・エドワーズは達成できるかもしれない。ザイオン・ウィリアムソンがフィジカルの課題を解決し、進歩を再開させるかもしれない。ただ、アメリカはかつてのようにエリートクラスのタレントを生み出してはいないのだ。
しかし、国際大会でもっとうまくやれるほどのタレントたちは生み出している。アメリカがワールドカップで負けたのは、しっかり組織されていなかったからであり、世界と戦う理想的な準備ができていなかったからなのだ。