東京オリンピック初戦を前に、アメリカ代表のグレッグ・ポポビッチ・ヘッドコーチは、対戦するフランス代表を2年にわたってスカウティングし、「毎日」考えてきたと話した。だが、そうは見えなかったのではないだろうか。まるで、自分のチームすら見ていなかったかのようなときもあった。
7月25日、男子バスケットボール競技のグループAの1日目で、アメリカはフランスに76-83で敗れた。最後の3分41秒間で一度しかボールをバスケットに通すことができず、終盤は2-16のランを相手に許した。最後の31秒間では、3本連続でジャンプショットを失敗している。1本は決めれば同点(打ったのはザック・ラビーン)、2本は決めればリードを奪えるショットだった(打ったのはケビン・デュラントとドリュー・ホリデー)。
デイミアン・リラード(ポートランド・トレイルブレイザーズ)は、フィールドゴール10本中3本成功、4ターンオーバーという数字でこの試合を終えた。ただ、彼は様々な意味で試合を終わらせている。フランスにリードをもたらしたエバン・フォーニエ(ボストン・セルティックス)のジャンプショットにつながったのは、リラードのターンオーバーだった。
4点を追っていた残り17秒、まだチャンスがあったなかで、スリップしてボールをフランスに渡してしまったのはリラードだった。さらに、アンスポーツマンライク・ファウルを犯し、これがフランスの勝利を決定的なものとした。
フランスのスカウティングが長期にわたる計画に基づいていたとポポビッチHCが話したのは、オリンピックの日程、つまり開幕戦の相手がフランスと決まっていたこともある。また、アメリカは2019年のFIBAワールドカップでも、準々決勝でフランスに敗れている。
その試合で、アメリカはフォーニエとルディ・ゴベア(ユタ・ジャズ)を守るのに苦しんだ。10点差でフランスが勝利した試合で、彼らは合計43得点をあげている。このとき、ポポビッチHCはスモールラインナップを選択し、ビッグマンのマイルズ・ターナーとブルック・ロペスを合計15分間しか出場させなかった。
ゴベアの存在を知っていたにもかかわらず、アメリカは今回のオリンピックに大型センターをひとりしか連れてこなかった。身長213cmのジャベール・マギー(デンバー・ナゲッツ)だ。それも、彼はケビン・ラブが離脱してから加えられた選手だ。
マギーは2分間しか出場せず、ゴベアはFG6本中5本成功。さらにデュラントから3パーソナルファウルを引き出した。ブルックリン・ネッツのスーパースターは、ファウルトラブルで21分間しかプレイできず、10得点にとどまっている。
18得点、7リバウンド、4アシストを記録し、アメリカが恥をかかないように救ったのは、NBA王者となったばかりで、最も遅くに東京入りしたホリデーだった。
アメリカがオリンピックで25連勝していたことを考えれば、これらすべてがショッキングに思えるだろう。だが、そうではない。なぜならそれが、男子代表の指導者のポジションを、効果的にこなす時間とエネルギーを持つ人の仕事ではなく、熟練のNBAコーチに対する特別功労賞と決めて以降、USAバスケットボール(アメリカバスケットボール協会)が追ってきた方向性だからだ。
大会前のエキシビションマッチ4試合のうち2試合で敗れたため、このグループにとってフランス戦の黒星は直近5試合で3敗目とも指摘できる。だが、12人のロスターのうち3人がNBAファイナルを戦っていたため、それは完全にフェアではないかもしれない。
ただ、2019年のワールドカップと今大会を含め、主要大会の直近4試合で3敗目となる黒星を喫したということは言える。2019年もコーチはポポビッチだったため、言い訳無用だろう。だが、当時のロスターは様々な理由から水準が低かった。それを指摘して落胆を和らげるのもフェアだ。
また、主要な国際大会でNBAのコーチがアメリカ代表を率いるのが、過去20年で4回目であることは確かだ。過去の3回で、アメリカは6位(2002年世界選手権 ※現ワールドカップ/ジョージ・カールHC)、3位(2004年オリンピック/ラリー・ブラウンHC)、7位(2019年ワールドカップ/ポポビッチHC)だった。その3大会と今大会を合わせ、戦績は17勝9敗。勝率は65.3%である。
代表チームの計画を「リディーム」(名誉挽回)し、殿堂入りしているデューク大学のマイク・シャシェフスキーをヘッドコーチに据えてから、アメリカは6つの主要大会で50勝1敗という成績を残した。勝率98%だ。
これを偶然とすることなどできるだろうか?
試合後、ポポビッチHCは「ボールが転がったらアメリカが勝つものと思っているなら、それは少しごう慢だと思う」と話した。
「他の全員と同じように、我々は勝つために仕事をしなければいけない」。
実際、アメリカ国民はポポビッチHCが代表チームを率いることを期待したが、そこにもごう慢さがうかがえるのかもしれない。
これまで落胆の結果に終わった3大会、そしてその方向に向かっている今大会で指揮を執ったのは、史上有数の偉大なコーチたちだ。2002年世界選手権は、NBAで1175試合を戦い、12シーズンで50勝以上を記録したジョージ・カール。2004年オリンピックは、NBAファイナルとNCAAトーナメントの双方を制した唯一のコーチであるラリー・ブラウン。そしてNBAで1310試合を戦い、5回の優勝を果たしたポポビッチだ。
これは、最もバスケットボールを知っているのが誰かという問題ではない。NBAヘッドコーチの大変な仕事量の話だ。日曜日の試合や今後2週間の大会を戦うために、十分な時間をかけて準備できる人に託すことができれば、どれだけファンタスティックかということだ。
2016年オリンピックが終わり、シャシェフスキーの後任となってから、ポポビッチはNBAの509試合で指揮を執ってきた。2005年10月に就任し、2016年オリンピックで3大会連続金メダルに導くまでの約11年間で、シャシェフスキーがNCAAで采配を振るったのは397試合だけだ。
シャシェフスキーはバスケットボール界の巨人であり、11シーズンで主要国際大会のタイトル5つ、NCAAトーナメント優勝2回と、デューク大とアメリカ代表での仕事のバランスをとることができた。そのための彼の犠牲と献身は大変なものではあったが、それは可能なことだったのだ。
現役のNBAコーチにとって、それは可能ではない。それは20年の歴史が示している。2019年ワールドカップが近づく中で、ポポビッチがサンアントニオ・スパーズのヘッドコーチを退いていたら、アメリカ代表を率いるのに彼が素晴らしい選択肢となっていただろう。だが、彼はそうしなかった。今でも彼はスパーズを率いている。
NBAシーズンの途中に開催、つまり本当のアメリカ代表で臨むことができないという、FIBAによる愚かなシステムのワールドカップ予選で、残った選手を率いて15勝2敗という成績を残したのはジェフ・バンガンディだ。彼には『ESPN』でアナリストという仕事があり、見事にこなしているが、彼が望むなら、コーチK(シャシェフスキー)以上に代表チームのための時間があっただろう。NCAA優勝2回の実績を持ち、今大会でアシスタントコーチを務めているジェイ・ライトは、起用されればシャシェフスキーのアプローチで臨むことができるだろう。
東京でこの流れを変え、金メダルを獲得するための時間は、まだ残されている。だが、ロスターに何人か眼を見張るような選手がいることと、ホリデーの並外れた意欲を除けば、我々が目にしてきた中で、それが実現すると示唆するものはない。
原文: After France defeat, Gregg Popovich running out of time to show he can win Olympics as Team USA coach by MIKE DECOURCY/Sporting News.com(抄訳)