909日ぶりに帰ってきたアンドレ・ロバーソン

Nick Gallo/Thunder.com

909日ぶりに帰ってきたアンドレ・ロバーソン image

※この記事は、現地7月24日にサンダー公式サイトに公開されたコラムの翻訳です。


オーランドの“バブル”(隔離施設)の中で、NBA選手たちにとって最も顕著に違っているのは沈黙だ。試合中、いつもなら2万人のファンが大歓声を上げているはずだが、NBAのチームがこれまでに行ったスクリメージ(練習試合)にその活気はなく、非常に静かだ。

しかし、現時点で断然賑やかだったのは、7月24日の夕方(日本時間7月25日早朝)に行なわれたオクラホマシティ・サンダー対ボストン・セルティックスのスクリメージのときだろう。

それは、第3クォーターの残り5分33秒で、サンダーのガード、アンドレ・ロバーソンがコートに入って来たときのことだ。


彼の背後では、2013年に共にドラフトされて以来、長年のチームメイトで友人であり、同志でもあるスティーブン・アダムズが立ち上がっていた。クリス・ポールはそこから少し離れた席で、満面の笑みを浮かべながら両手を振って歓声を上げていた。ハミドゥ・ディアロやルーゲンツ・ドート、テレンス・ファーガソンのような、ロバーソンから指導を受けてきた若手選手もみんな、感情をたかぶらせて大声で叫んでいた。

909日ぶりに、ロバーソンはサンダーのジャージーに身を包み、実際の試合でNBAのコートに足を踏み入れた。

「いろいろな感情があふれてきたよ」と、ロバーソンはその瞬間のことを振り返る。

「コートに戻って来て、コーチに自分の名前をまた呼ばれて、不安もあったし、嬉しくもあったけど、とにかくすごく興奮したよ」。

孤独なリハビリ

「立ち直る強さが、この組織の価値観なんだ」と、2018年の春、回復のプロセスがスタートしてまもない頃、ロバーソンは言っていた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

"𝐖𝐞𝐥𝐜𝐨𝐦𝐞 𝐁𝐚𝐜𝐤 𝐃𝐫𝐞"

Oklahoma City Thunder(@okcthunder)がシェアした投稿 -

それは、あのひどい怪我から数か月後のことだった。

2018年1月27日のデトロイト・ピストンズ戦で、彼はアリウープのためにジャンプしようとして、膝蓋腱断裂の怪我を負った。過去に何度もやってきたように、彼はベースラインに走り込んだあと、飛び上がろうとして崩れ落ち、もだえ苦しみながら、這ってコートの外へ出た。チームメイトたちは彼のそばに駆け寄り、コートから担架で運ばれるまでずっと見守っていた。

膝蓋腱断裂そのものを修復する手術から30か月以上にわたり、ロバーソンは、関節鏡手術、縫合糸による不快感を緩和するための手術、そしてその後には膝の骨の一部が腱から引き裂かれる剥離骨折という、複数の障害を経験してきた。2018年の秋に剥離骨折をした時点では、ロバーソンの復帰は近かったのだが、彼の膝が癒えるまでのその後の道のりは非常に困難だった。

リハビリ中の、彼の日々は孤独だった。彼はトレーナーと、練習施設の片隅でリハビリを行ない、チームが全員コートからいなくなるのを待って、練習後に接触なしの個別ワークをした。チームが遠征に出ているときは、ロバーソンは空っぽで良く響く施設で、片方の足をもう片方の前に置くという、孤独で退屈なリハビリを続けたのだ。

ロバーソンは、2019年のトレーニングキャンプへの全面的な参加を望んでいたが、チームに100パーセント合流できるレベルまで持っていくことができなかった。彼は、他の場所でリハビリに集中するために、2019-20シーズン中に数か月間サンダーから離れることにした。そして戻ってからほどなくして、26か月前に彼のキャリアが止まったときとほぼ同じくらい突然に、NBAが中断したのだ。

サンダーをはじめとするNBAのすべての選手が、新型コロナウイルスが原因で4か月の休業と限られた練習を強いられ、実質ゼロからのスタートになったことにより、ロバーソンはこの3月から7月までの間に、周りと同じレベルに追いつくことができた。サンダーがトレーニングキャンプのためにオクラホマシティに集合したときも、ロバーソンはそこに合流し、チームと共にオーランドに行き、毎日チームと一緒に練習している。

アダムズは、最初の実戦練習のときの様子を、「とにかく彼が陽気で楽しそうなのを見ていただけだよ」と振り返った。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Let’s just talk about this 😂

Oklahoma City Thunder(@okcthunder)がシェアした投稿 -


ロバーソンの気分は高まっていた。この2年半の間に当然のごとく揺らいだ自信が戻っていた。

約2年半ぶりの2得点

セルティックスを相手にロバーソンがプレイした最初の4分間、彼はまさに文字通り地に足を付ける努力をしていた。新しいシューズと、できたばかりで滑りやすいフロアのせいで、少し足をとられていたのだ。

ディフェンスでは、セルティックスのガードのグラント・ウィリアムズをマークし、ペリメーターで間合いを詰めてリバウンドを競り合った。オフェンスでは、オフボールで動き回ってスペースを維持した。タイムアウトになり、ロバーソンは、サンダーのヘッドコーチであるビリー・ドノバンのところに話をしに行った。ドノバンHCは、過去909日間ずっとロバーソンと連絡を取り合い、ゲームプランに参画させ、フィルムセッションでは彼に若手選手をリードさせてきていた。

「彼がコートにいるのを見るのは刺激になっているよ。これ以上嬉しいことはない」とドノバンHCは話す。

「長い2年間だったね。彼にとって間違いなく良いときも悪いときもあったと思う。おそらくそれは私たちの想像以上だろうね」。

ロバーソンがまだ少し慣れないジャージーを正しているとき、元サンダー所属のセンター、エネス・カンターが、すれ違いざまに愛情を込めてロバーソンの胸を軽く叩き、彼の復帰を祝福した。だがまもなく、ロバーソンもカンターにそのお返しをした。

ロバーソンは、左コーナーでポンプフェイクをしてからカンターの脇をドライブし、一瞬ボールが手から離れそうになったところをすぐに取り戻して、ゴール下から素早くレイアップを決めてみせた。それは彼にとって、デトロイトでのあの運命の夜に、怪我で決められなかった2得点以来となる初めての2得点だった。

「僕らにとって信じられないくらい嬉しいことだったよ。彼が精神的にどんな経験をしてきたか、僕らは知ってるからね」と、サンダーのポイントガードで選手会会長のクリス・ポールは言う。

「(今の新型コロナウイルスの)この状況があって、彼はこの機会を与えられたんだ。だから、彼がここで、彼が愛するこのゲームをプレイしているのを見ることは、チームの誰にとっても特別なことなんだよ」。

ロバーソンは、その後カンターの目の前でコーナースリーを決め、指を3本上げてコートを走って戻りながら、アダムズが筋肉を収縮させて威嚇するようなポーズで雄叫びを上げ、ポールが叫び、ほかのサンダーの選手やスタッフが声を上げてはしゃぐのを、嬉しそうに眺めていた。


6フィート7インチ(約201cm)のロバーソンは、ディフェンス面で持ち前の本能が失われていないところも見せた。ディフェンシブリバウンド争いでは、リバウンドを取るか、アライブボールとした。あるプレイでは、ヘルプサイドディフェンスにやって来てディフレクションを起こし、そこからスティールをした。そのあとには、セルティックスのガード、ジャボンテ・グリーンのドライブをリカバーし、レイアップしたボールをバックボードに叩きつけてブロックした。復帰して最初の試合で、典型的なロバーソンのプレイを2つもやってみせたのだ。


「彼は僕が出会った中で一番頭のいいディフェンダーだよ」とガードのシェイ・ギルジャス・アレクサンダーは言う。

「彼は常に正しい場所にいるんだ。次のパスがどこに出るか知ってるんだよ」。

ドノバンHCも「彼が素晴らしいディフェンダーたる理由を垣間見ることができたんじゃないかな。彼がやっていること、あの頭の良さ、そして足と長さを使うあの彼の能力をね」と話す。

「実際、彼は本当にすごく良いプレイをしたよ。あれだけ長い期間試合から離れていて、最初のゲームで素晴らしい仕事をした彼を褒めたいね。これほど嬉しいことはないよ」。

セルティックスとのスクリメージで、ロバーソンは11分56秒出場し、3P2本中1本を含む、フィールドゴール3本中2本成功の5得点、2リバウンド、1ブロックを記録した。見慣れたロバーソンらしいスタッツだが、彼のトレードマークの守備力も伴っていた。キャリア最初の5年で、彼が何よりも称賛されてきたのは、そのディフェンス能力だ。2017-18シーズンに怪我をした時点の、彼のシュート成功率はキャリアベストの53.7%だった。だがもっと重要だったのは、最優秀守備選手賞の有力候補に上がっていたことだ。

「ドレを素晴らしいディフェンダーたらしめていることは、自分が守っている相手に得点されても、だからといって次のポゼッションを諦めたりしないところだね」と、サンダーのジェネラルマネジャーのサム・プレスティは言う。

「それは、彼のように怪我を負って、おそらく望んだ以上の障害があったときも、同じことだよ。それで彼がくじけて諦めることはなかったんだ」。

互いへの感謝

ベンチに下がったとき、彼はサンダーのベンチの物理的に離された席を順番にまわって、過去30か月にわたるここまでの厳しい道のりで、皆がしてくれたことすべてに感謝しながら、チームメイトとスタッフの一人ひとりにハイファイブをした。

しかし実際には、ロバーソンに感謝しているのはサンダーのほうだ。試合に出ていない期間、彼はチームの皆と連絡を取り合い、若手選手のメンター(助言者)となり、スカウトでも特に、手強い相手チームのリポートの手助けをしていた。彼はまた、感謝祭のときには七面鳥を配り、生徒たちに読み聞かせをするなどして、オクラホマシティのコミュニティに尽くしていた。

「彼は、スポーツやチームにおける最善の姿の象徴だよ。物事が自分にとって良い方向に進んでいないときでも、チームのために尽力することができるかどうかで、それがわかるんだ」と、プレスティGMは話す。

「自分の状況が何か影響を受けているときや、自分の望む方向に進んでいないときでさえ、チームや、チームにとってベストなことにコミットする。私は、それこそがメンタル・タフネスの真の姿だと思っている」。

Thunder Andre Roberson

試合終了後、ロバーソンはカメラ越しに、マスクの上から明るく輝く優しい目を覗かせながら、報道陣の質問に答えた。スクリーンの周りを動きまわったり、スクリーンをかけたり、フロアに飛び込んだりと、いつもコート上で彼がチームのためにしているのと同じように、ロバーソンは、この日の試合のことを自分の手柄にはしなかった。それどころか、彼はその機会を使って、1200マイル(約1930km)離れた場所にいる、ずっと彼を応援し続けてくれた忠実なサンダーファンに感謝した。

「僕のことを諦めずに、ここまでの道のりをずっとサポートしてくれたオクラホマシティのすべての人と世界中のファンに、とにかくありがとうと伝えたい。みんなからのサポートに、何よりも感謝しているんだ」。

原文: 909 Days Later, Roberson Plays Again by Nick Gallo/OKCThunder.com
翻訳: YOKO B Twitter: @yoko_okc


NBA公式動画をチェック!

Nick Gallo/Thunder.com