[西尾瑞穂イラストコラム第11回]ウルブズ 佐藤晃一氏に聞く“アドバイス術”

Mizuho Nishio

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普段、職場や学校で「最近の若い奴らは…」なんて嘆いている上司や先輩の方も多いのではないでしょうか? 自分としては良かれと思って言ったアドバイスでも、それを若い部下や後輩の心に響かせるのは難しいものです。

NBAの世界でもそれは同じで、デビューして数年の選手は、たとえ数億円の年俸を稼ぐスーパースターだとしても、中身は19歳や20歳そこそこの若者なので、そんな彼らの心に響くアドバイスをするのはとても難しいのです。

特に健康面に関しては、肉体的に充実している若手選手の中には、自分たちは怪我や疲れとは無縁と思ってしまい、体のケアを怠ったり健康的な食事を心がけない選手もいるそうです。あのデリック・ローズも、「大きな怪我をするまではストレッチなんてしたことがなかった」と語っていたのは有名な話ですね。

ミネソタ・ティンバーウルブズのスポーツパフォーマンス・ディレクター兼アスレティック・トレーナーを務める佐藤晃一さんは、選手へのアドバイスの仕方には工夫が必要だと言います。

「選手たちが体調を維持してNBAというトップクラスのリーグで何年も現役を続けていくために最善を尽くすのが、私たちの仕事です。そのために、私たちはトレーニングだけではなく、食事や健康管理やシューズ選びについても選手にアドバイスします。でも、食事やシューズに関して『こうしたほうがいいのに!』という考えがあっても、それを選手に押し付けてしまうと彼らの心にはまったく響かないんです。彼らにも彼らの考えがありますから。ですから、私は選手からアドバイスを求められたときは『私はこのほうがいいと思うよ』とだけ伝えて、あとは選手に判断を委ねることにしています。あくまでも決めるのは選手本人ですから。トレーニングに関しても、選手ができないことを無理強いするのではなく、選手個人個人のパフォーマンス・レベルを見極めながら、その選手に合ったトレーニングをしています。選手にどこまで言うか、いつ言うか、どこまでやらせるか、という塩梅が重要なんです」。

また、アドバイスをするタイミングや説明の仕方についても、心がけていることがあるそうです。

「伝えるタイミングも大切です。私が伝えたいと思うときに必ずしも選手が受け入れる状態とは限りません。急を要さない限り、日常の会話の中で自然に話題を持ち出すようにしています。それから、選手に解りやすいように説明することにも心がけています。セミナーなどで専門家に理論を説明することが多いので、ついつい選手たちにも同じような言葉を使って接していることに気がつきました。選手にも申し訳ないですが、小中学生に説明するつもりで、イラストや写真、もちろん動画を使い説明しています」。

さらに、ベテラン選手の一言が若い選手の意識を変えるきっかけになることも多いと、佐藤さんは言います。

「今ウルブズにいるロニー・トゥリアフは、数年前に食事の重要性に気付き、大幅に食事を変えたことで体に変化が出たと言っています。現役を続けていれば、プレイヤーとして壁にぶつかることもあるし、大きな怪我をすることもあるし、歳とともに体力や怪我の回復も遅くなるので、ベテラン選手ほど健康面には気を使うようになるんです。実際にそういった経験を持つベテラン選手が一言『お前そんなものばっかり食べてるとダメだぞ』と言うことで、若い選手がハッと気付くこともあるんです。ロニーは若手選手だけではなく、ベテランの選手とも積極的にコミュニケーションしているので、彼と相談して選手にアプローチすることもあります」。

いかがですか?NBAのアドバイス術は参考になったでしょうか?

先日のアメリカ代表紅白戦でのポール・ジョージの怪我のように、予防することが困難な場合は仕方がありませんが、選手たちには可能な限り健康な体を維持してもらって、長い間NBAの舞台で活躍してもらいたいですね!

文&イラスト:西尾瑞穂  Twitter: @jashin_mizuho , Blog: http://jashin.sosu-fufu.com/


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