[杉浦大介コラム第6回]テレンス・ロス インタビュー「ダンクコンテスト? ああ、出るよ」

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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まだ“スター”と呼べる選手ではないが、テレンス・ロスはNBA入り以来の2年間で随所に存在感を示している。

去年のオールスター・ウィークエンドには、ラプターズの先輩ビンス・カーターのジャージーを着込み、最後はツイッター社の社長の息子を飛び越える大技で優勝。その後のシーズン中にも、鮮やかでゴージャスなダンクを頻繁に披露している。さらに今年1月25日のクリッパ—ズ戦では、これまで26得点がキャリアハイだった選手が、なんと51得点をマークして全米を驚かせた

爆発的な身体能力を武器に、ハイライトを生み出すのが得意な22歳。今年もダンクコンテストにエントリーするという通称TRossが、“51点ゲーム”の真実、ビンスへの想い、そして今後の目標などを語ってくれた。

自信というのは、良いゲームを繰り返すことで生まれてくるもの

——1月25日のクリッパーズ戦で51得点をあげて、去年のダンクコンテスト優勝以来、君の名前が久々に全米で取り上げられることになった。

テレンス・ロス(以下TR):あのゲームでは途中から何が起こっているか分からないような感じだった。ただ、すぐに次のゲームがあるから、引きずってはいられないけどね。集中して、また良いゲームができるように頑張るだけだよ。

——3ポイントシュートを10本成功なんていう、いわば「ゾーンに入った」状態を経験したことは今後に生きてくるのでは?

TRTR:自信を持ってプレーすることは大切だ。コートに立ったら、躊躇いながらはできないからね。もちろん無理強いをしてはいけないけど、自分を信じながら動かなければいけない。そういった自信というのは、良いゲームを繰り返すことで生まれてくるものなんだろう。

——49点から50、51点と大台に乗った瞬間はどう感じた?

TRTR:シュールな感覚という言葉がぴったりかな。現実のことじゃないみたいだった。(チームタイ記録のこととか)どんなに大ごとかは知らなかったけど、凄いプレーができているという感覚はあった。チームメートたちが僕にボールを託し続けてくれたのも嬉しかったしね。

——あの試合のゲームボールはお母さんにプレゼントすると報道されたけど?

TR:ああ、ホテルで待っていた母親に渡したよ。そうしたら泣き出してしまってね。素晴らしかったな。ボール用の収納ケースでも買うのか、どこに保存するつもりなのかは知らないけど。「オー・マイ・ガッ! これがあのボール? ボールってこんな滑るものなの?」とか言っていたよ(笑)。

ビンスはラプターズの選手として初めてコンテストを制した人だから、敬意を表すべきだと思った

——51点ゲーム後の注目度は、ダンクコンテスト優勝直後と似ている?

TR:うーん、そうかなあ。どうだろう。そうかもね。ダンクコンテストは楽しい経験だった。これまでのキャリアでダンクコンテストに出たのはあれが初めてだったんだ。カレッジ時代までの僕はシューターでありスコアラー。今季はそのシュート力に磨きをかけようと努力している。僕がダンクできるのはみんな知っているから、シューターとしても知られるようになりたい。ただ毎回あんな風(51得点ゲーム)にできるわけじゃないから、大事なのは今後も集中力を保つことだけどね。

——君は去年のダンクコンテストで先輩ビンス・カーターのジャージーを着用し、そして先日には彼が保持していたラプターズ得点記録に並んだ。ビンスとはずいぶんと縁があるようだ。

TR:そうなのかな。でもまだビンスとは話をしたことがないんだ。今年のダンクコンテストに来るらしいだから、そこで話してみたいと思っているけど。まああれほどキャリアがある人だから、僕が話すというよりも、彼の話をたくさん聞いてみたいね。

——やはり今年のダンクコンテストにも出て2連覇を狙うの?

TR:ああ、出るよ。

——ビンス・ジャージーとか、ツイッター社の社長を飛び越えるアイデアとかはどこから出てきたの?

TR:全部自分で考えたんだ。特にビンスはラプターズの選手として初めてコンテストを制した人だから、敬意を表すべきだと思った。

——君のダンクはとてもゴージャスだけど、いったい何がそれを可能にするのかな? やはり爆発的な身体能力、ジャンプ力がゆえ?

TR:うーん、それは自分では解説はできないな。ただ、やはりユニークさが大事で、僕のスピンムーブからのダンクはユニークなんだろうなとは思う。ほかに僕みたいに動く選手は見たことがないからね。

——初めてダンクできたのはいつ?

TR:13、14歳のころだ。

——子どもの頃のフェイバリットダンカーは?

TR:たぶんビンスだね。

トレードをきっかけに、みんなが一つの方向に進んでいこうとまとまった

——12月にルディ・ゲイがトレードされ、君は先発に昇格し、その後は成績も向上している。あのトレードが発表になったときには「キャリア最大のチャンス」といったコメントもあったけど、自身の中で何か変わった部分は?

TR:より多くのプレー時間を得られることになったのが最も大きな違いだ。チャンスがあれば、絶対に無駄にせず、最大限の力を出したいと思ってる。あと、今ではこのゲームをより深く理解しようと心がけているんだ。幸いにも僕の周囲には、NBAで4~5年以上を過ごしてきたベテラン選手がいてくれる。彼らが僕に進むべき道を指し示してくれるというのは貴重なことだよ。

——君個人ではなく、ラプターズのチーム自体もゲイが去った後に向上している。いったい何が起こったのかな?

TR:チーム全体が一丸となったんだ。トレードをきっかけに、みんなが一つの方向に進んでいこうとまとまったのが大きかったんじゃないかな。

——1月下旬にはデマー・デローザンがケガで何試合か休んだリして、君により大きな比重がかかることにもなった。チーム内での役割が増しているように感じる?

TR:うーん、僕一人でやるべきだなんて考えるべきではないよ。欠員が出たらみんなで埋めるんだ。先発、ベンチまで含めて全員だ。バスケットボールはチームでプレーするゲームだからね。

——君はダンクができて、スリーも打てて、ディフェンスも向上中の万能派だけど、あとは自身の何を向上させていきたい?

TR:まずは身体をより強くすること。あとはボールハンドリングのスキルを向上させること。それからピック&ロールを上手になること。

——今季、そして今後のキャリアの目標は?

TR:まず今季はプレーオフに出ること。そして今年だけでなく、来季以降もコンスタントにそこに辿り着けるチームの一員となっていくこと。大事なのはそれだけだよ。

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「何を聞いても答えてくれる選手だけど、喋り自体はあまり得意じゃない」。

インタビューを始めてすぐ、トロントの知り合いの記者が授けてくれた取材対象としてのロスの“スカウティングレポート”を思い出すことになった。

屈託なく笑い、筆者が持参した自身の記事が掲載されている日本の雑誌にも嬉しそうに目を通す。ボキャブラリーは必ずしも多いとは言えず、質問によってはごく短い答えが返ってきてしまうような、どこかあどけなさを感じさせる選手だ。

その未成熟さはコート上のプレーにも表われている感がある。“51点ゲーム”でブレイクするかと思えば、2月に入って最初の2戦では合計13得点のみ。まだ波が大きく、本人も自覚するボールハンドリングやドリブルの拙さなどの明白な欠点も多い。

とはいえ、荒削りな一方で、確かなポテンシャルを感じさせる選手であることは紛れもない事実である。単なるハイライトマシンで終わるか、これから先にオールスター級にまで伸びるか。この興味深いタレントの行方を、今後も楽しみに見守っていきたい。

文:杉浦大介
Twitter: @daisukesugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。