[杉浦大介コラム第33回] 2014-15前半戦総括: ベストチーム、MVP、新人王、期待外れチームは?

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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全30チーム中29チームがすでに折り返し地点にあたる41戦を戦い終え、NBAの2014-15シーズンはこれから後半戦に突入する。そこで今回は前半戦を振り返る意味で、“ベストチーム”“MVP”“新人王”“期待外れチーム”を独自に選出してみたい。近年最大級の大混戦といわれる今季ここまでに輝いたのは、どのチーム、選手だったのか(※データは現地1月21日時点)。

【ベストチーム】
ゴールデンステイト・ウォリアーズ(34勝6敗)

イースタン・カンファレンスではアトランタ・ホークスが過去30戦中28勝という驚異的な勢いで突っ走り、1月21日まで14連勝を続けてきた。アル・ホーフォード、ジェフ・ティーグ、ポール・ミルサップらを中心としたカレッジチームのようなケミストリーで、リーグの清涼剤的な存在になった感がある。

しかし、それでもここで今季前半戦の“ベストチーム”を選ぶのであれば、やはりハイレベルのウェスタン・カンファレンス内で最高勝率を残してきたゴールデンステイト・ウォリアーズを挙げるべきだろう。

ステファン・カリー、クレイ・トンプソンの“スプラッシュブラザーズ”を軸とした得点力だけでなく、スティーブ・カーが新HCとなった今季はディフェンスも向上。中でもドレイモンド・グリーン、トンプソンはオールNBAディフェンシブチームに選出されるレベルの好守を見せており、おかげでよりバランス良く、穴の少ないチームになった。

カリー、トンプソン、アンドリュー・ボーガット、グリーン、ハリソン・バーンズのスタメン5人で臨んだゲームでは23勝1敗。さらにアンドレ・イグダーラ、デイビッド・リー、ショーン・リビングストンといった実績あるベテランたちがベンチから登場する。タレント、サイズ、層の厚さ、経験をすべて兼ね備えたウォリアーズは、正真正銘のタイトルコンテンダーになったと言っていい。

それでも群雄割拠のカンファレンスでシーズンを通じて勝ち続けるのは並大抵の難しさではない。特に後半戦に照準を合わせてくるであろうサンアントニオ・スパーズを大事な時期に上回れるかどうか、これから先に試されることになる。

しかし、“観ていて面白い”“強い”という2つの要素をハイレベルで兼ね備えたウォリアーズが、今後もこのまま勝ち続けることを願っているスポーツファンは少なくないはずである。

【MVP】
ステファン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)
個人成績:平均23.2得点、フィールドゴール成功率50.1%、3ポイントシュート成功率40.2%、フリースロー成功率91.5%、8.1アシスト、4.8リバウンド

今シーズンのNBAで、平均得点、平均アシスト、3ポイントシュート成功数ですべてリーグトップ10に入っているのはカリーだけである。成功率でいわゆる“50-40-90(FG、3P、FTの成功率)”も十分に可能な上に、ディフェンス面でも向上したのだからもう文句はない。童顔の26歳は、すでにリーグ最高級のスーパースターとして確立したと言って差し支えないだろう。

「キャッチ&シュートが得意の単なるシューターではなく、プレーメーカーとして自身のショットをクリエイトできる。そういった意味で、カリーこそがリーグ史上最高のシューターだと思う」。

今季開幕前に『SLAM』誌のアダム・フィグマン記者がそう語っていたが、実際に今季のカリーはプレーメーカーとしての充実ぶりが目立つ。その成長が、チームの好調の要因の1つとなっているのは言うまでもないはずだ。

このカリー以外では、得点王争いでトップを走るジェイムズ・ハーデン、メンフィス・グリズリーズの要となったマーク・ガソルも候補になる。また、ニューオーリンズ・ペリカンズがプレーオフ圏外だけにMVP候補には選び難いが、大器アンソニー・デイビスが期待通りに本格化しているのも今季の収穫である。

レブロン・ジェイムズ(クリーブランド・キャバリアーズ)、ケビン・デュラント(オクラホマシティ・サンダー)の二大巨頭がそれぞれ故障離脱を経験し、デリック・ローズ(シカゴ・ブルズ)もまだ復調途上だけに、今季は新たなMVPが生まれることになりそう。ウェスタンの熾烈な上位争いと平行し、MVPレースも最後までフレッシュかつハイレベルな争いが続くに違いない。

【新人王】
アンドリュー・ウィギンズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)

有力視されたジャバリ・パーカー(ミルウォーキー・バックス)が昨年12月に故障離脱したことで、新人王レースはウィギンズの独壇場となった。

ここまで平均15.1得点、4.3リバウンドと優れた数字を残すウィギンズは、特に1月は平均20.7得点、FG成功率47.2%、3Pも36.1%と好調。学生時代、NBAデビュー直後はゴール周辺でのフィニッシュが課題とされたが、1月はゴールから5フィート以内でのFG成功率も61.2%と高い。

7勝34敗と低迷するミネソタ・ティンバーウルブズでプレーする選手を新人王に推すのはやや気が引けるが、かといってほかに有力候補はいない。ウィギンズ、パーカー以外に平均二桁得点をマークしているルーキーはおらず、ニコラ・ミロティッチ(ブルズ)、エルフリッド・ペイトン(オーランド・マジック)もインパクトはもうひとつだ。

だとすれば、頭ひとつ抜けた将来性を誇示してきたウィギンズを新人王に推すことに異論のある関係者はほとんどいないだろう。サイズ、リーチ、身体能力、爆発力をすべて備えた19歳のプレーは魅力たっぷり。身体に力強さが加われば、よく比較されるトレイシー・マグレイディのようなダイナミックなスーパースターになっていきそうだ。

【期待外れチーム】
ニューヨーク・ニックス(7勝36敗)

レブロン・ジェイムズが復帰、ケビン・ラブが加入しながら、キャブズが勝率5割前後をウロウロしてきたことに落胆したファンは多いに違いない。ただ、キャブズは1月19日までにロサンゼルス・クリッパーズ、ブルズなどを下して3連勝をあげ、後半戦の上昇に改めて期待を持たせている。

だとすれば、フランチャイズ史に残る低迷を続けるニューヨーク・ニックスこそが、今季最大の期待外れと呼ばれるにふさわしい。

フィル・ジャクソン球団社長、デレック・フィッシャー新HCの新体制で臨んだ2014-15シーズンは、ニックスにとってもともと過渡期と目されてはいた。しかし、1月15日まで怒濤の16連敗、現時点でリーグ最低勝率と、ここまでのどん底を味わうと考えたニューヨーカーは存在しなかったはずだ。

エースのカーメロ・アンソニーをはじめとする主力のケガ人多発、トライアングル・オフェンスの導入遅れといった誤算が続出。最近はマディソン・スクエア・ガーデンのファンも静まり返っている時間帯が多い。

1月5日にはJJ.R.・スミス、イマン・シャンパートをキャブズへ放出するトレードをまとめ、完全な再建体制に入った。ひざのケガに苦しむアンソニーはオールスター後には休養することが有力だけに、今後も黒星を重ね続けることになるだろう。

早々と“不良債権の放出”“経費削減”に乗り出したことが、近い将来にポジティブに働く可能性は十分にある。多くのキャップスペースができる来オフには大補強が可能で、現行のロッタリーシステムでは負け続ければ次期ドラフトでの上位指名権も約束される。ただ、それでも、常に勝利を望むニューヨーカーを今季のチームが深く失望させたことは否定できまい。

もしも1972-73年にフィラデルフィア・76ersがマークした9勝73敗の史上最低記録に迫るようなことがあれば、数々の栄光を味わって来たジャクソン、フィッシャーらにとっても屈辱的な経験となることは言うまでもない。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。