[杉浦大介コラム第30回] 批判に耐えながら前を向くデリック・ローズ

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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11月30日にブルックリンで行なわれたネッツ対ブルズ戦前後、メディアから大きな注目を浴びたのは、当然というべきか、やはりデリック・ローズだった。

この試合でのローズは、26分間の出場で14得点(FG5/12)、2アシスト、6リバウンドという平凡な数字に終わった。今季はジミー・バトラー、パウ・ガソルに次ぎ、チーム内でも3番目のスコアラー(平均15.6得点)にすぎない。それでも、ロッカールームで長時間にわたって質問攻めにあう選手はローズ以外にいなかった。

「みんなが僕や僕のプレーについてネガティブなことを言っても気にはならない。自分がどれだけ特別なことをできるか、自分自身で分かっている。僕のプレー、置かれた状況、故障からの回復についての人々の意見はコントロールできない。僕の手から離れたことだからね」。

そんなローズのコメントからも分かるように、彼に対する風当たりは少しずつ強くなっている。

ローズは、たび重なるひざの故障によって、昨季までの2年間で10戦しかプレーできなかった。満を持して臨んだはずの今季も、足首のケガなどで最初の20戦中8戦に欠場。26歳の若さで、「injury-prone(故障がち)」と呼ばれる選手になった。

「僕が欠場することに多くの人が腹を立てているのは分かっている。みんなに理解できるわけではないのだと思う。今季のことだけを考えて欠場しているわけじゃない。バスケットボールをやめた後のことも考えている。(家族の)集まりや、息子たちの卒業式に痛んだ身体で出席したくはない。(これまでの経験から)学んで、賢明に判断しているんだ」。

先月11日の練習後には、そんな正直なことを語って再び物議を醸すことにもなった。2012年のプレーオフ中に左ひざの前十字靭帯断裂、翌年の11月22日に右膝半月板を損傷という大けがを立て続けに経験したのだから、慎重になるのは理解できる。リハビリ期間中に、バスケットボールをやめた後のことにまで想いを巡らしたのも当然だろう。

とはいえ、身体を少なからず酷使し、ときにリスクも冒して優れたパフォーマンスを見せるがゆえに、プロアスリートは短期間に尋常ではない大金を稼ぐことが可能になるのも事実だ。「年俸2000万ドル(約23億円)も貰っている選手がそんなことを言うのは馬鹿げている」と、解説者のチャールズ・バークリーが語ったのをはじめ、ローズのコメントに対するファンの反応は批判的なものが多かった。

もっとも、ブルズのコーチ、チームメイト、関係者は、それでも依然としてローズを温かく見守っているようだ。

「彼ほどの“格”の選手で、シカゴのような大都市が本拠地であれば、騒がれてしまうのは仕方ない。かつて(ニューヨークのチームに属した)パトリック・ユーイングだってそうだった。賞讃だろうが、批判だろうが、気にし過ぎてはいけない。できるのは、毎日、ただベスト尽くすことだけだ」。

かつてニックスのアシスタントコーチだったトム・ティボドーHCは、ニューヨークの元ヒーローの名前を引き合いに出してエースをかばった。そして、その後に続いたティボドーのこんなコメントからは、ローズが依然としてチームの絶対的な選手だと考えられていることが伝わってくる。

「デリックには日々、前に進んで欲しい。彼がチームを優勝争いに導ける選手だということは分かっているし、チームを引っ張っていって欲しい。彼はリーダーなんだ。練習で、試合で、このチームを押し上げてもらいたい」。

ブルズは最初の20戦を終えた時点で12勝8敗。バトラー、ノアが成長し、ガソル、ニコラ・ミロティッチ、ダグ・マクダーモットも加わった今季は、まずまずの好スタートを切っている。特に今季は、近年にないほど攻撃の武器が豊富で、過去数年のようなティボドー仕込みの守備力ばかりが頼りのチームではなくなった。

「もしもデリック・ローズさえ健康ならば、ブルズこそが明らかにイースタン・カンファレンスの優勝候補筆頭だ」。

序盤戦を見る限り、開幕前のバークリーのそんな指摘は的外れには思えない。あとは切り札のローズがシーズンを通じて少しずつ爆発力を取り戻していけば、本当にファイナル制覇が狙えるだけのチームになっていくかもしれない。

残る疑問は、今季も故障がちのエースが徐々にコンディションを整えていけるかどうか。一戦ごとに出場が危ぶまれる状態から脱し、かつてのように安定した得点源として君臨できるかどうか、である。

「人々はせっかちになりがちだけど、デリック(の将来)は明るいと思う。彼は乗り越えていくよ。現在、彼を批判している人たちは、いずれまた拍手を送るようになる。その人たちは、彼がMVPを受賞したときに大喜びしたのと同じ人たちなんだ。いちいち気にし過ぎてはいけない」。

ティボドーのそんな言葉通り、一部のシカゴアンのローズへの反発は、愛情の裏返しなのかもしれない。実際には誰もがエースの完全復活を願っていて、それがなかなか叶わないのがもどかしいだけ。そして、プレーオフで勝ち上がるために、最終的にはこの選手の力がどうしても必要なことにも気付いているに違いない。

史上最年少でMVPを獲得してから4年が過ぎ、ローズはかつてのように誰からも問答無用に愛される“NBAのダーリン”的な存在ではなくなった。これから先も、欠場が続くたびに少なからず批判されるだろう。このままシーズンを続けて休みがちだったとすれば、“不良債権”などと呼ばれ始める恐れもある。厳しくも思えるが、プロスポーツはそういった世界である。

そうした批判を抑え込むには、今後調子を徐々に上げて、ブルズを頂点に導くほかない。5~6月の時期に良いプレーができれば、開幕直後に休みがちだったことも、慎重に体調を整えたことも、“適切な判断だった”と支持されるに違いない。

「物事をポジティブに捉えるようにしている。そうやって前に進んでいくんだ」。

そう語った際のローズからは、無理をしている様子はなく、どこかふっ切れたような明るさが感じられた。自らの発言が物議を醸しながらも、近い将来に向けた迷いのようなものは見えなかった。

ローズが今季終盤までそんな表情を保つことができるなら、ブルズの未来は明るいだろう。そして、それが良い方向に進んだときには、批判的な一部のシカゴアンのエースに対する見方も、再び変わっていくはずである。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。