「過去数年のデロン・ウィリアムスはケガばかりだ。もうユタ(ジャズ)時代の状態に戻ることはないだろう。彼は全盛期を過ぎたよ」。
2013-14シーズン中、ブルックリン・ネッツの司令塔、ウィリアムスの名前が最も大きな脚光を浴びたのは、2月に解説者のチャールズ・バークリーがそんな辛辣なコメントを残した後だった。
ウィリアムスの今季を振り返れば、いつも歯に衣着せぬ“サー・チャールズ”の言葉は的を射ていたのだろう。絶えず足首の痛みに悩まされ続け、全部で18戦に欠場。レギュラーシーズン中は平均14.3得点、6.1アシスト、2.6リバウンドという新人年以降では自己最低の数字に終わり、プレイオフでも活躍できなかった。
シーズン終了後の5月27日(現地)には、左右両方の足首に手術 を受けるというおまけ付き。今季は紛れもなく自己最低級のシーズンであり、バークリーの言葉通り、もうピークは過ぎてしまったとみなされても仕方あるまい。
ただ、それでも筆者は「デロンはこれで終わり」だと決めつけるのは早すぎると考える。復活の可能性はまだ残っている。なぜなら、昨今のウィリアムスの不振は、慢性的だった足首のケガと、それに起因する自信喪失が原因だと捉えているからだ。
「君たちの国では本を右から左に読むんだろ?」。
ジャズに入団した2005年の開幕直後、筆者の持参した日本の雑誌を手に取り、こちらに語りかけて来たデロンの横顔は、今でも忘れられない。
逆質問する余裕があるくらいだから、インタビューの最中にもルーキーらしい初々しさはなく、注目を浴び、チームの中心になることに慣れているタイプだと感じた。司令塔役にも適していて、デロンがその後の数年のうちにリーグ有数のポイントガードに成長していってもまったく驚かなかった。
ただその一方で、新人時から「ただ勝ちたいだけだ。個人スタッツなんてどうでもいい」と語っていた彼からは、すでにあまりにも強烈すぎる責任感が透けて見え、そこに一抹の不安を抱いたのも事実である。
「デロンの最大の敵はデロン自身なんだ。彼は自分自身に厳しすぎる。それがあまりにも顕著だから、良いプレーができていないとき、彼に“だからといって世界が終わるわけではない”と言い聞かせてやらなければならないんだ」。
今季中、ケビン・ガーネットが語っていた言葉には納得できてしまう。
心身ともに充実していたジャズ時代は良かったが、足首の不調が続いたネッツ移籍以降は、その責任感が悪い方向に運んだ感があった。
自身とチームに高いハードルを設定し、それが飛び越えられないと我慢がならない。ケガが治らず、良いプレーができず、自信をなくし、自分自身を責めてしまう。憤りを隠さないボディ・ランゲージゆえに、リーダーとしての資質にも疑問符が呈されてしまう……。
今季は、その評価がどん底まで下がったシーズンだっただけに、2014-15シーズンはウィリアムスのキャリアにとって極めて重要な1年になる。
手術を受けた足首は全治4~6週間と報道され、来季に向けたトレーニングキャンプには間に合う見込みだという。この時期から開幕までに、どんなコンディションを作れるのかが、まずは大きなポイントになるはずだ。
2012年のロンドン五輪以降、常に悩まされてきたという足首が完治すれば、全盛期の爆発力も少なからず戻るだろう。
自信喪失の最大の理由は、長期にわたって本来の動きができなかったこと。だとすれば、体調が回復することで精神的に落ち着き、結果としてパフォーマンスが一気に向上したとしても驚くべきではない。
しかし、もしも足首の手術後もバネが失われたままで、かつてのダイナミックさが蘇らなかったとしたら? 来季も心身ともに不安定なままだったら、ウィリアムスがトップPGの一人として語られることはもう二度とあるまい。
“ネッツからの移籍を望んでいる”“チーム側が放出を画策している”といった噂も聞こえてくるが、3年6310万ドルの契約を残していることを考えれば、残留の可能性は高い。高給取り揃いゆえに補強の難しいチーム内で、今季から伸びしろがあるとすればウィリアムスくらいである。
フラジャイル(壊れ易い)なチームリーダーは、30歳となって迎える来シーズン、“最大の敵”である自分自身を打ち破り、ネッツを上位に導くことができるのか。すべてはウィリアムスの自信回復にかかっている。
足首のケガが癒えるとともに、かつてクリス・ポール(ロサンゼルス・クリッパーズ)とも並び称されたPGにとって、後がない戦いが始まることになる。
文:杉浦大介 Twitter: @daisukesugiura