[杉浦大介コラム第22回]ジョン・ウォール&ブラッドリー・ビール(ワシントン・ウィザーズ)――初めてのプレイオフで学んだこと

杉浦大介 Daisuke Sugiura

[杉浦大介コラム第22回]ジョン・ウォール&ブラッドリー・ビール(ワシントン・ウィザーズ)――初めてのプレイオフで学んだこと image

カンファレンス・ファイナルは東西ともに第1、2シードの激突となったが、そこに至るまでに、特にイースタン・カンファレンスではフレッシュな躍進チームの台頭も目立った。その中でも、プレイオフ1回戦で上位シードのシカゴ・ブルズを下し、セミファイナルでもインディアナ・ペイサーズを苦しめたワシントン・ウィザーズは、最も新鮮な輝きを放ったチームだったと言っていい。

開幕前はまったくの無印だったが、23歳のジョン・ウォール、20歳のブラッドリー・ビールというガードデュオを中心に急成長。得点力とスター性を兼ね備えたこの2人は、今後さらに階段を上っていきそうな可能性を感じさせる。

5月15日(現地)、地元ワシントンD.C.で行なわれたペイサーズとのカンファレンス・セミファイナル第6戦に敗れ、ウィザーズのシリーズ敗退が決定。その後、チームの最後に会見場に登場したウォールとビールは、今シーズンから学んだこと、周囲への感謝、さらには将来への希望を静かに語り続けた。


勝利に何が必要か、ゲーム終盤をどう締め括るか、次の段階に進むために何が必要かといったことを経験させてもらった

――今季やり遂げたことを誇りに思っているか?

ブラッドリー・ビール(以下BB):間違いなくがっかりしているよ。今季が終わってしまったという意味で、(第6戦の)敗北は何よりも辛い。ただ、その一方で、僕たちがここまで来るなんて思った人はいなかったはずだ。

自分たちを信じて戦い続け、ペイサーズを苦しめられたことを僕たちは誇りに思っていいはずだ。下を向かなければいけない理由はどこにもない。

ジョン・ウォール(以下JW):ブラッドリーが言ったように、誰も僕たちがここまで来るとは思わなかっただろう。チームとして戦う機会を与えてくれた神に感謝したい。多くのチームにハードな戦いを強いることができて、その中でリスペクトを勝ち取れたと思う。

ペイサーズを苦しめることができて、同時にこのシリーズの中で、勝利に何が必要か、ゲーム終盤をどう締め括るか、次の段階に進むために何が必要かといったことを経験させてもらった。家族、友人たち、チーム、そしてファンを含む、僕たちをサポートしてくれたすべての人たちに感謝したい。

――悔しい敗戦だったが、試合終了間際には地元ファンが君たちにスタンディングオベーションを送った。

JW:素晴らしい気分だったよ。ファンは最高のサポートをしてくれた。あと1度ここで勝つことが目標だったから、セミファイナルでは地元で3連敗してしまったことにはフラストレーションを感じる。

ただ、ファンがスタンディングオベーションを送ってくれたことは、彼らが今シーズンの僕たちのプレーを喜んでくれたということ。素晴らしいファンの前でシーズンを終わらせたくなかったから、負けは辛かった。敗北は苦い薬ではあったけど、それでも僕たちは胸を張り続けるつもりだよ。

“おまえはいつか特別な選手になる”と言われた

――経験不足は響いたと思うか?

BB:年齢は単なる数字以外の何ものでもない。僕たちは、特にジョンと僕は、そんな風には考えてはいないよ。

確かに僕たちは若いけど、フロアにいる他の選手たちと同じバスケットボール・プレイヤーだ。僕たちは自身の力でここまで辿り着き、プレイオフ1回戦に勝って、必要なものを学んだつもりだ。だから若さを敗北の言い訳にするつもりはないよ。

――今回の経験から得たものは?

JW:自分らしくいることの大切さだ。上手くいっていないときでも、自分のプレイを心がけ、アグレッシブに攻める。周囲や状況に惑わされてはいけない。ときにフラストレーションを感じてしまうことはあるけど、2~3試合にわたって不調が続いても、「自分はやり遂げられるのかな」などと(不安に)思ってはいけない。

(プレイオフの)緊張感はシーズン中より一段上だった。何か重要なもののため、優勝、ファイナル進出を目指してプレイしていることを感じることもできたよ。

――試合後、ペイサーズのポール・ジョージから何を言われた?

BB:“おまえはいつか特別な選手になる”と言われた。そんなことを言ってもらえるなんて光栄だ。僕はこれからも粘り強く、向上を目指していかなければならない。今後は僕たちのほうが、相手のシーズンを終わらせられるようになっていきたいね。

これだけチャンピオンシップに近くまで勝ち進めば、新たなやる気が生まれ、プレイオフに出たいと熱望するようになる。僕たちはプレイオフに毎年出場できるようにならなければいけないんだ。

毎試合、勝ちたいという想いを胸にプレイできるチームだった

——今季の躍進はさらなる成長へのモチベーションになる?

BB:(第6戦の)ゲーム終盤に交代を告げられて下がったとき、すべてを実感したよ。シーズンが終わった事実に気付いて、本当に悔しかった。

ロッカールームではコーチも、僕とジョンもエモーショナルになって、最悪だった。大好きな仲間たちと、多くのことを乗り越えて、イースタン・カンファレンス・ファイナルの寸前まで迫った。そこで戦いは終わってしまった。

ただ、その一方で、個人として、そしてチームとしても僕たちは成長していけると感じている。1年を通じて戦い続け、シーズン中に加わった選手たちも貢献してくれた。僕たちはまだまだ良くなっていけるよ。

——何人かフリーエージェントになる主力選手もいるが、コーチを含め、同じメンバーで来季もプレーしたいと思うか?

JW:それはこのオーガニゼーション、GM、オーナーがどう考えるか次第だ。僕個人としては、同じコーチ陣の下でプレイすることに何の問題もない。これほど楽しくプレイできたのは久しぶりだった。仲間たちは僕をポイントガード、リーダーとして信頼してくれて、そしてみんなで戦えた。毎試合、勝ちたいという想いを胸にプレイできるチームだった。

(フロントが)これから決断を下すことになる。僕たちにできるのは、夏の間もそれぞれがさらに向上しようと努めることだけ。今季は本当に素晴らしいシーズンだったよ。


抜群の身体能力に恵まれたスラッシャーのウォールと、思い切りの良いロングジャンパーが武器のビールは、見ていても楽しい魅力的なデュオである。今プレイオフ中には、「ウォリアーズのステファン・カリー、クレイ・トンプソンよりウィザーズの2人のほうが上」と主張する米メディアも現われたほど。惜しくもカンファレンス・ファイナル進出は叶わなかったが、本人たちの間にもやり切ったという充実感は少なからずあったはずだ。

ペイサーズとの第6戦終了後、プレイオフでチーム最高の平均19.2得点をマークしたビールは、まだ帰りたくなさそうに、いつまでもチームメイトや関係者と抱擁を交わしていた。シーズン中より数字がダウンしたために批判にもさらされたウォールも、会見での言葉は満足感を感じさせるものが多かった。

この2人が一緒にプレイしたのはまだ合計109戦のみ。本人たちの言葉にある通り、彼らはまだまだ大きくなる。このまま順調に伸びていけば、向こう何年にもわたってプレイオフの常連になり、“アメリカの首都の顔”として君臨していく姿を想像することだって決して難しくない。

ただ、リーグにその名を轟かせたシーズンが終わり、来季以降は期待も相応に大きくなる。1年後に同じようにプレイオフ第2ラウンドで負けてしまったら、もうスタンディングオベーションなど送ってもらえないはずだ。

躍進シーズンの終焉は、真の戦いの始まり。今春の歓喜と悔恨の経験を、ウォールとビールが今後にどう生かしていくか。フレッシュな2人がコートに戻って来る日が、今から待ち遠しくてならない。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。