2014年5月12日(現地)。敵地ブルックリンで行なわれたネッツとのイースタン・カンファレンス・セミファイナル第4戦で、マイアミ・ヒートのレブロン・ジェイムスは新たな“マスターピース”を生み出した。
勝てば4年連続のカンファレンス・ファイナル進出に王手がかかる大事な一戦で、49得点(フィールドゴール16/24)、6リバウンド、3スティール。プレイオフ自己最多タイの得点を叩き出しただけではなく、同点で迎えた残り57秒にはクリス・ボッシュの決勝3ポイントシュートをアシスト。さらに終盤には、相手の得点源であるジョー・ジョンソンを2度にわたって守り抜き、ストッパー役まで果たしてみせた。
攻守両面で、現役最強プレイヤーの力量をまざまざと証明したレブロン。その試合後、会見場を埋め尽くした大勢のメディアの前で、“キング・ジェイムス”がこの日のパフォーマンスと自身の能力について語った。
※以下、記者会見での一問一答抜粋。
勝ったゲームで自分に落胆したのは初めてだ
――今夜は軽々とペイント内に入り、効果的なプレーを続けた。
レブロン・ジェイムス(以下LJ):チームの勝ちを助けるのに十分なプレーができたことを嬉しく思う。重要なのはそれだけだよ。簡単なことではなかった。簡単に見えたのかもしれないけど、他の選手たちのハードワークと献身的な姿勢があってこそ可能になったんだ。
――試合時間残り1.1秒で、決まれば50得点となる最後のフリースローを外してしまった。その際は自分自身に腹を立てているように見えたけど?
LJ:勝ったゲームで自分に落胆したのは初めてだ。僕たちにとって重要な勝利だった事実が変わるわけではない。しかし、最後のフリースローを外してしまったことは気に入らないよ。
——今日は自分が中心になって攻めなければいけないと感じたのか?
LJ:この試合には勝たなければいけないと感じ、そのために必要なことをやらなければならなかった。オフェンス、ディフェンスの両面で、リーダーとして、逆境に打ち克つつもりだった。さっきも言った通り、勝利に繋がるプレーを成功させることができて嬉しい。今日はオフェンス面で良い感じでプレーできたけど、それ以上にディフェンス面でチーム全体に緊張感があった。ゲームに勝てたのはそのおかげ。オフェンスが良かったからではないよ。
——クリス・ボッシュの決勝スリーに結びついたプレイを描写してもらえる?
LJ:Dウェイド(ドウェイン・ウェイド)との高い位置でのピック&ロールで相手のディフェンスを撹乱し、ゴール前でウェイドからボールを受け取った。KG(ケビン・ガーネット)がマッチアップしていたCB(ボッシュ)から離れ、僕のガードに回ってくるのを見て、リオ(マリオ・チャルマーズ)にパスを出した。考えていた通りだったよ。彼(チャルマーズ)がCBにボールを回すのも分かっていた。リオにボールが渡った瞬間、CBが良いシュートを打つと思ったんだ。
——ボッシュのロングジャンパーはチームにとって重要?
LJ:彼はとても勝負強いし、そのシュート力は僕たちにとっての大きな武器になっているよ。
僕たちにとってもマスト・ウィン・ゲーム(必勝の試合)だと思っていた
――試合前のロッカールームで、君はボストン・セルティックスと対戦した2012年のカンファレンス・ファイナル第6戦のビデオを見ていた。その後の試合では、見たばかりのゲームを彷彿とさせるパフォーマンスだった。
LJ:その試合を見ていたのは確かだけど、(ロッカールームで流される試合は)僕たちではなくコーチが選ぶんだ。ただ、それらのゲームを振り返るのはいつでも良いものだ。2012年(の第6戦)も、敵地での厳しい環境下でのゲームだった。今では違うジャージーを着ているけど、ネッツの何人かの選手たちはあの試合でもプレーしていたしね。
——終盤にはジョー・ジョンソンを見事なディフェンスでストップした。
LJ:オフェンスと同じように自身のディフェンスにも誇りを持っている。1on1ではどんな相手でもストップしたいと思っているけど、決められてしまうことももちろんある。(あの状況では)自分がすでに5ファウルだなんて考えもしなかった。頭にあったのは相手の攻撃を止めることだけ。自分の身体を張って、ショットを少しでも難しくすることを心がけたんだ。
――エリック・スポールストラHCは、第4クォーターで君を一時的に交代させることも考えたと言っていた。
LJ:(コーチに)訊かれたけど、本気なのかどうか分からなかった。そのときにはここでは言えないことを言い返したよ(笑)。最後までプレイしたかったからね。僕たちにとってもマスト・ウィン・ゲーム(必勝の試合)だと思っていた。スポーもコーチとして良い仕事をして、僕たちを勝利に近づけてくれた。
——スポールストラHCは君は「ゲームを読むことができる」と言っていたけど、その能力をどう定義する?
LJ:バスケットボールの試合中、僕はいろいろなことを考える。たまに考え過ぎてトラブルになることもあるけど、たいていは良い方向に働いていると思う。みんないつも僕のバスケットボールIQの話をするけど、それについては自分では分からない。ただ、試合中の僕には多くのものが見えているんだ。他の選手たちも同じようにそれが見えているかどうかはわからないけどね。
――シリーズ勝利に王手をかけた後で、ピアース、KGのような経験豊富な相手から最後の1勝を得るために必要なことは?
LJ:どんなプレイオフシリーズでも、大事なのはディフェンス面で緊張感を感じながらプレーすること。互いに助け合うこと。コミュニケーションをとること。オフェンスでは両サイドでボールをよく動かしながらアタックすること。それらを明瞭かつアグレッシブな心構えでできれば、勝利の大きなチャンスがあるはずだ。
ヒートがニューヨークかブルックリンを訪れた際、レブロンには約3割の歓声と7割のブーイングが送られるのが恒例になっている。
しかし、この日は試合が進むにつれて観客のブーイングに元気がなくなり、ネッツファンは意気消沈。ゲーム終盤では、背番号6が得点を重ねるたびにため息ばかりが漏れるようになった。
筆者個人としては、プレイオフでのレブロンの敵地での大爆発を観るのはこれが3度目。2008年東セミファイナルの対セルティックス第7戦(45得点をあげるも惜しくも敗退)、2012年東ファイナルの対セルティックス第6戦(2勝3敗と追い込まれて迎えた敵地でのゲームで45得点、15リバウンド)における、常に熱狂的なボストニアンを沈黙させたパフォーマンスは圧巻だった。
しかし、ディフェンス、ゲームメークまで含めたオールラウンドなレベルの高さでは、ブルックリナイトを黙らせたこの日の“最新作”が最高だったかもしれない。
まだ29歳。ジャンパー好調時にはもはや完全に止めようがなくなった怪物は、緊張感溢れるポストシーズンの舞台で、アウェイの大観衆を凍り付かせるような活躍をあと何度見せてくれるのだろうか。
文:杉浦大介 Twitter: @daisukesugiura