第3シードと第6シードの対戦となれば、本来は第3シードのチームが有利とみなされるのが当然である。しかし、ネッツとのイースタン・カンファレンス・プレイオフ1回戦で、第3シードのラプターズがシード順に見合ったリスペクトを受けているとはとても言えない。
ポストシーズン開始前には、『スポーツ・イラストレイテッド』誌の5人の記者のうちの4人がネッツ勝利と予想していた。第4戦を終えて2勝2敗で、残り3試合のうち2戦をトロントで開催できる有利な状況となった後ですらも、ネッツが敗れれば一般的には“番狂わせ”とみなされるに違いない。
今季のアトランティック地区の中でも、ラプターズは最も注目度の低いチームと言ってよかった。話題を呼んだのは、ニックスの不振、ネッツの出遅れ、セルティックスの再建、そしてシクサーズの露骨なタンキング。48勝34敗という立派な成績で地区制覇を果たしながら、これほど存在感がなかったチームも珍しい。
「これまで多くを経験してきたよ。苦しいシーズンを乗り越え、どん底から這い上がってきたけど、まだしかるべきリスペクトを受けていない。そのことは分かっているから、まだやるべきことはたくさんあるんだ」。
そう語るエースのデマー・デローザンを筆頭に、ラプターズの選手ももちろん現実を理解している。デローザン、カイル・ローリーといった看板選手たちはまだ全国区のスターとは言えず、プレイオフ出場経験がある選手もローリー、アミアー・ジョンソンの2人だけ。ロースターに約1億ドルが費やされたパワーハウスのネッツと比べれば、“脇役”扱いされてしまうのも仕方ないだろう。
1995年創設の比較的新しいチームであり、伝統と呼べるものはない。アイスホッケーが断然人気のカナダに本拠地を置いていることもあり、大物スターが積極的に移籍を考えるチームでもない。フランチャイズプレイヤーだったクリス・ボッシュが2010年にチームを去って以降、3年連続で負け越しシーズンを経験し、ラプターズの影はさらに薄くなってしまった。
「存在感を勝ち得るためには、勝たなければいけない。どんなスポーツでも同じことで、まだ私たちはそれを成し遂げていない。先に進むためには勝つ必要があり、今こそそれを始めるときなんだ」。
マサイ・ウジリGMの言葉通り、現状を変えていくために必要なのは、魅力的なチームを作り、勝ち続けることである。
デローザン、ローリーのニ枚看板以外にも、今プレイオフではリバウンド力を誇示してきたジョナス・バランチュナス、昨年度のスラムダンク・コンテストを制したテレンス・ロスなど、好素材は揃い始めている。
昨オフよりブライアン・コランジェロ氏からチーム作りを引き継いだウジリGMも、ナゲッツGM時代からその手腕を評価されてきた人物だ。こうしてコート内外に人材が揃い、ラプターズは今後に再びポストシーズンの常連となっていきそうな予感を少なからず感じさせる。
今でこそ軽視されているラプターズにも、それなりの注目を集めていた時代があった。全盛期のビンス・カーターが所属した2000年代初め頃までは、そのカーターの人気もあって、話題豊富なプレイオフ常連チームだった。カーターの移籍とともにアイデンティティを喪失してしまったが、同じように魅力的なチームを作りさえすれば復興は可能なはずである。
一般的な注目度は低くとも、ほのかに上昇ムードが漂う中で迎えた今回のプレイオフ。上位シードながら“アンダードッグ”扱いをされた1回戦で、ラプターズは再び表舞台に出て行くための第一歩を踏み出したいところだ。
勝てば2001年以来、初めてのプレイオフ・シリーズ勝利。トロントはもともとスポーツに熱狂的な土地柄だけに、ネッツ相手に“番狂わせ”の勝利をあげれば、地元ファンも大いに活気づくはずだ。
文:杉浦大介
Twitter: @daisukesugiura