[杉浦大介コラム第18回]“ニックスの街”で奮闘するネッツが迎えた絶好のチャンス

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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「今春にこの街でプレイをし続ける唯一のチームになることは、(ネッツの)ファンにとって良いことだ。ブルックリンのバスケットボールにとっても、僕たちのブランドにとっても良い。僕たちだけに注目が集まるわけだから、最大限に盛り上げるためにも、勝ち進まなければならないね」。

ニューヨーク・ニックスのプレーオフ不出場が決まった後、ブルックリン・ネッツのデロン・ウィリアムスはそんな正直なコメントを残していた。その言葉通り、今春はニューヨークのバスケットボール界にとってターニングポイントになるかもしれない。

「ニューヨークはネッツの街になる」。

昨年7月にネッツへの移籍が決まった直後、ポール・ピアースはそう宣言して話題を呼んだ。しかし、ピアース、ケビン・ガーネット、アンドレイ・キリレンコといったスター選手を獲得する大補強を展開した後ですらも、地元紙などでネッツの記事に割かれるスペースはニックスの1/4程度だった。

ホームアリーナの熱気でも老舗のニックスが完全に上回り、去年と比べてその差が大きく縮まっている風でもない。結局、ニューヨークは依然として完全に“ニックスの街”のままなのである。

「ニックスは勝っても負けても一戦ごとがドラマチックで、上手くいかなかったときには悲劇のような大騒ぎになる。それに比べ、人々がネッツを気にかけている気配はまだない。いずれその差は縮まっていくだろうけれど、現時点では両チームのニュース価値を比べることはできないよ」。

両方のチームの取材経験を持つ某地元記者のそんな言葉にも説得力がある。

そんな現状をネッツが少しでも変えていくために、ニックスが一足先にオフシーズンに突入した今季は絶好のチャンスだと言っていい。

2014年に入って以降、好調を維持してきたネッツは、イースタン・カンファレンスのダークホースと呼ばれるまでに評価を上げてきた。プレーオフ突入後も、現地4月19日に敵地で迎えたラプターズとの初戦に快勝。この勝利もニックスのマイク・ウッドソンHC解任のニュースにかき消されてしまったが、しかし、いかにニックスと言えど、オフの話題が途切れぬまま続いていくわけではない。

特に、もしカンファレンス・セミファイナルでヒートとネッツとの対戦が実現すれば、スポーツファンの話題を独占する好カードとなる。その盛り上がりに、これまでニックスしか頭になかったニューヨークのバスケットボールファンも少しずつ飲まれていくに違いない。そして、最終的に勝てないまでも、3連覇を狙う王者をギリギリまで追い詰めるようなことがあれば……

今も昔も“勝者”が大好きなアメリカにおいて、評価、名声を高める最大の近道は、とにかく勝つことにある。シーズン中にニックスより良い成績を残したことで、ネッツはまず最初の条件はクリアした。「ホップ、ステップ、ジャンプ」の「ステップ」にあたる2歩目は、注目度、緊張感が一気に高まるプレイオフで、人々の記憶に残るパフォーマンスを見せることである。

そういった意味で、ネッツにとっての2014年のプレイオフは重要な舞台である。上手くいけば、フランチャイズの未来にまで繋がる戦いになると言っても大げさではないだろう。

文:杉浦大介
Twitter: @daisukesugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。