昨シーズン中はイースタン・カンファレンス2位の勝ち星をあげたニックスだったが、今季はプレイオフ進出を逃した。ほぼ同じ主力メンバーながら成績が大きく下降したことは、特にニューヨークという大都会で勝ち続けることの難しさを如実に示している。2005~10年までニックスの一員として過ごしたウォリアーズのデイビッド・リーは、厳しさを肌で感じた経験を持つ選手の一人である。3月にマディソン・スクエア・ガーデンを訪れた際、リーは筆者をはじめとする地元メディアを相手に、ニックス低迷の理由、ケミストリーの大切さ、そしてプレイオフを目前に控えたウォリアーズの現状などについて語ってくれた。
ウォリアーズのほかに気にかけているチームはニックスだけ
――移籍してだいぶ時間が経ったけど、まだニューヨークのことは気になる?
DL:僕も長い期間をニューヨークに住んだから、ここに来ると依然として故郷に戻って来たような気分になる。ニックスとマディソン・スクエア・ガーデンが築き挙げてきた歴史もリスペクトしているしね。今ではゴールデンステイトの人々が僕のファミリーだけど、ほかに気にかけているチームはニックスだけ。彼らの幸運も常に願っているよ。
――去年は54勝もあげたニックスが今年は不振に陥ってしまった。
デイビッド・リー(以下DL):NBAでは勝てるチームとそうではないチームの差はごくわずかなんだ。彼らが厳しいシーズンを過ごしてきたことは知っている。ここで働いている人と話しても、「もっと勝てたらどれだけ良かったことか」なんて言っている。僕だって、ゴールデンステイトに移籍してから厳しいシーズンを過ごしたこともあった。本当に紙一重なんだよ。
――具体的にニックスの中で何が悪い方向に行ったと思う?
DL:自分には分からない。その答えが分かる人がたくさんいたら、みんな良いGMになれてしまう。はっきりここが悪いとはなかなか言えないものだ。去年の僕たちがプレイオフに進むと思った人は一人もいなかったけど、一つひとつのピースが噛み合って、予想以上の結果を出すことができた。リーグ最高のケミストリーを誇っていたから、そんなことが可能になったのだと思う。
――選手はどういったところでケミストリーが生まれたことに気付くのか?
DL:それは答えるのが難しい質問だね。はっきりと言葉にするのは難しい。去年の僕たちにはそれがあった。接戦のままゲーム終盤に差し掛かっても、自分たちが勝つんだと感じることができていたからね。
――ニューヨークのメディアの扱いは難しいと思う?
DL:物事が上手くいっているときは、ニューヨークは世界最高の場所だ。逆にそうでない場合は、世界最悪の場所。どんなスポーツでも、ヤンキースでも、ニックスでも、それは同じじゃないかな。ただ一つ言えるのは、ニューヨークのファンやメディアはバスケットボールをよく理解しているし、情熱的だということ。それについては疑う余地はない。
――ニックス時代を振り返って、君はかなり活躍して人気者だったけど、最終的にはトレードで放出されることになった。
DL:当時のニックスにとってはレブロン・ジェイムス獲得を狙うことがプライオリティ(最優先事項)だった。そのためにできることをすべてやろうとしていた。彼らがその決断を下したことを恨んだりはしていないよ。すべてはもう終わったこと。ニューヨークでの自身のキャリアを、ネガティブなものとして思い出したりはしない。もちろん、もっと試合に勝てれば良かったとは思う。ただ、当時のチームは、直後の補強戦線の準備のために多くの選手が入れ替わっていたからね。勝てなかったことは悔しいけど、この街は大好きだし、楽しい日々を過ごさせてもらったよ。
カリーが相手ディフェンダーを引き付けることで僕らの仕事が楽になる
――ここ数年のウォリアーズは見違えるように良いチームになった。
DL:大事なのは今の僕がハッピーだということ。ゴールデンステイトでは多くのことが良い方に向かい始めている。チーム内のケミストリーも素晴らしいし、コーチとの関係も良い。僕はベテランだけど、若い選手が多くて、まだ伸びしろはたっぷりある。今年中にも良い結果を出していければと思う。
――今季に関してはアンドレ・イグダーラの加入は大きかった?
DL:彼がフィラデルフィア(セブンティシクサーズ)でプレーしていた時代から何度も対戦して、攻守両面で、複数のポジションをプレイできる選手だということは分かっていた。チームにより安定感が出たのは彼のおかげだ。ボールを上手く廻してくれるし、ファーストブレイクの際には身体能力を生かしてくれる。ボックススコアに表われない仕事もこなしてくれる選手だよ。
――ステファン・カリーの成長については?
DL:カーメロ・アンソニーのようなスター選手と同じように、今の彼は多くのディフェンダーを引き付けている。相手ディフェンスのターゲットにされることで、周囲の僕たちの仕事を楽にしているんだ。彼以外もこのチームにはアンセルフィッシュな選手ばかりが揃っていて、誰が得点するかよりも、誰がベストショットを放つかが焦点になっている。
――カリーはシューターとして認識されているけど、それ以外の部分も良くなっている?
DL:僕はそう思うよ。ピック&ロールの使い方も上手くなったし、ドライブも上達している。ステフがドライブを試みることで、シューターとしての彼自身と、チーム全体を助けることにもなっている。彼は素晴らしいオールラウンド・プレイヤーで、最高のチームメイトだよ。
2000年代後半のニックスはどん底の不振を続けていたが、その中でもファン、メディアから人気を集めていたのがリーだった。爆発的な身体能力には恵まれていなくとも、身体を張って必死にリバウンドに飛びつくハッスルプレーは多くのニューヨーカーに愛された。屈辱に慣れ切ったチームの中で、勝利にこだわり、敗北後には誰よりも打ちひしがれていた姿が鮮明に記憶に残っている。
しっかりとした言葉で自分自身とチームのことを語れる稀有な選手でもあり、地元メディアからも大人気だった。ウォリアーズに移籍以降も、ニューヨークを訪れるたびに大勢の記者たちに囲まれるのが恒例になっている。
まだ30歳だけに少々気が早過ぎるが、その聡明さを考えれば、引退後はテレビのコメンテイターなどを務めることも可能に思える。そのときにニューヨークに戻って来れば、また人気になるだろう。ニックス戦の解説を担当し、鋭く、ときに厳しく、それでいて愛情のこもった言葉でチームを語る姿が、今から目に浮かぶ。
文:杉浦大介
Twitter: @daisukesugiura