“最も多才な現役ビッグマンは誰か?”と問われれば、多くの関係者がメンフィス・グリズリーズのセンター、マーク・ガソルの名前を挙げるに違いない。
守備力、パス力に優れたスペイン出身の29歳は、昨季ディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤー(最優秀守備選手賞)を初受賞。NBA入り以来の5年間すべてで、平均二桁得点をあげるなどもちろん得点力もある。
当初は“パウ・ガソルの弟”として認識されていた無骨なセンターは、今ではその兄を上回る評価を勝ち得るようになった。いわば“玄人好みの選手”の代表格。そのガソルがブルックリンを訪れた際、ディフェンス、パスワークへのフィロソフィーを尋ねた。
良いパスというのは、パスされる側の選手がスペースを見つけることで可能になる
――君はパスの得意なビッグマンとして知られている(センターとしては今季リーグ2位の平均3.6アシスト)。パスのコツを説明してもらえる?
マーク・ガソル(以下MG):特別なことをやっているわけではないし、やろうとするべきでもない。良いパスというのは、パスされる側の選手がスペースを見つけることで可能になるというのを忘れるべきじゃない。相手がスムーズに動いてくれたのを見付け、反応してパスを出す。“魔法”みたいな秘密がそこにあるわけではないんだ。
――聴いている限り、“特別なことをやろうとしない”というのがコツにも聴こえるね。
MG:パスできるときに、パスできる相手にボールを渡す。そういう選手が見付からなかったら、他の手段を考える。本当にそれだけで、特別なことは何もやっていないんだよ。
――その一方で、やはりパスセンスというものも存在するような気がする。スペースを見つけた選手を発見できるのがセンスなのかな。NBAに来る以前から、得点だけでなくパスに秀でた君のプレイスタイルは常に同じだったの?
MG:そう思うよ。何も変わっていないと思う。パスを上達させようと積極的に取り組んだわけではない。とにかく周囲を良く見ること。あとは周りの選手の動きを予測する能力も多少は必要なのかもしれない。
――そう、さっきは言ってなかったけど、その洞察力、予知能力も重要なんじゃないかという気がする。
MG:まあ、そうだね。ただ、先の動きを考えすぎて、パスを出してもそこに誰もいなかったりすることもある。それでスタンドにボールを投げ込んでしまったりね(笑)
――君の場合、そんな失敗はそれほど頻繁ではないだろう(笑)。守備、リバウンド、得点のそれぞれに特化したセンターはいても、君のようにディフェンスとパスワークに秀でた選手はユニークだと思う。子どもの頃、目標にして、プレイを真似ようとした選手はいた?
MG:いや、まったくいない。人のプレイを真似するのは簡単なことではないよ。それぞれ体型だって違うし、チームメイトだって違う。ほかに良い選手がいたとして、動きをコピーしようとするのが正しいことだとは思わないな。
ディフェンスとは、チームメイトと助けあって相手チームの得点を防ぐこと
――去年の君は守備面でも素晴らしく、ディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。ただ、今年は膝や足首のケガにも悩まされてきた。ディフェンス面で今季も昨季と同じレベルでプレイできていると思う?
MG:うーん、自分自身のプレイをそういう風に分析したりはしない。レベルダウンしたとも思っていないけどね。ディフェンスとは、チームメイトと助けあって相手チームの得点を防ぐこと。そして、良いディフェンスというのはチームの勝利に直結するものだ。中盤戦以降の僕たちは良いペースで勝てているから、僕もまずまずやれているということなんじゃないかな。
――レブロン・ジェイムス(ヒート)のように、ディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤー受賞を目標の一つに掲げている選手もいる。
MG:そうなのかい? 僕はレブロンが何を言ったのかは知れないけれど。
――複数のポジションを守れる選手はほかになかなかいないという理由で、(2月に)「自分がディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーに選ばれるべきだ」という発言があった。
MG:そうだったんだ。優勝リングと交換であれば、ディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーのトロフィーを渡しても良いよ(笑)。ただ、実際には彼はどんな個人賞よりも優勝リングを好む選手だ。チームとしての勲章は、チームメイトと喜びをシェアできて、フランチャイズの歴史にも残るという意味で、個人賞より何倍も価値があるもの。彼はそのことを誰よりも理解しているはずだよ。
――さっきも話があったけど、君たちはシーズン中盤から見違えるように素晴らしいプレイを続けている(注:昨年12月30日時点で13勝17敗。以降は32勝15敗)。ケガ人が戻ってきたということ以外に、この転換の要因はどこにあったと思う?
MG:選手同士がお互いのことを徐々に知り始めたのが大きかったんじゃないかな。それぞれがチームのシステムを学んでいったおかげで、コート上でより円滑に動けるようになっていったと思う。
――トレード期限前にはテイショーン・プリンス、トニー・アレンといった選手たちが放出されるという噂もあったけど、結局は何も起こらなかった。2014年に入って調子を上げたことで、フロントは戦力を保つことを決断したのかな?
MG:いや、それは僕にはわからない。自分が決めたことではないし、フロントの人間に聴いておくれよ。僕たちにできるのは、コートに立って、正しい方法でプレイしようと努めることだけ。僕にできるのは可能な限りハードにプレイすることだから、とにかくそれを続けるまでさ。
「みんな僕にはパウのことばかり質問しにくるけど、君は兄のことは聴かなかったね。感心したよ」。
以前にインタビューした際、マークからそんなことを言われたことがある。
字面だけ見ると兄に強烈な対抗意識でも抱いているのかと思うかもしれないが、実際には満面の笑みを浮かべてのジョークだった。自分を笑い飛ばすこともできる豪快な性格の持ち主なのだろう。献身的なパスワークとディフェンスも、そんな選手だからこそ可能になるに違いない。
そして、そんなビッグマンの言うことだから、「ディフェンスとは、チームメイトと助けあって相手チームの得点を防ぐこと」という言葉も真実味を帯びて聴こえてくる。
個人的に、マーク・ガソルという選手は、NBAで最も過小評価されている選手の一人だと思っている。グリズリーズが今春、プレイオフに出場できるかどうかは微妙なところだが、大舞台でぜひともそのアンセルフィッシュなプレイを見せてほしいと願わずにはいられない。
文:杉浦大介
Twitter: @daisukesugiura
※文中の数字は現地4月8日時点のもの。