[杉浦大介コラム第15回]ポール・ピアース――勝負の季節を見据える"ザ・トゥルース"

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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年俸総額に約1億ドルが費やされたパワーハウス、ネッツが4月1日のロケッツ戦に勝ってプレイオフ進出を決めた。10勝21敗と最悪のスタートを切りながら、1月1日以降の勝率.714(30勝12敗)はイースタンのNo.1。上位進出が義務づけられたチームは、ヒート、ペイサーズのカンファレンス2強を追いかける強豪として評価を徐々に高めている。

このスター軍団の中でも、”ザ・トゥルース”ことポール・ピアースが重要な存在であることは言うまでもない。今季平均13.6得点はキャリア最低ながら、セルティックスから移籍1年目にしてチームリーダーの立場を確立。昨季は勝負弱さが指摘されたチームに、タフネスを注入する役割を担ってきた。

勝ち方を知り尽くした16年目の大ベテランは、“勝負の季節”を間近に控えたネッツの現状をどう見ているのか。

※以下、囲み取材の一問一答。


クリスマスの時期にはみんなもう(シーズン終了後の)夏のプランでも考え始めていたんじゃないかな。ただ、僕たちは違った

——プレイオフ進出が正式に決定したが

PP:特にホームでは、過去2カ月の間に強いチームと対戦した際のプレーには満足している。ただ、プレイオフに出ることを想定してやってきたのだから、目標に向かってまた一歩を踏み出しただけ。進出を決められて良かったけど、それ自体は小さな目標を達成したにすぎないよ。

——どん底のスタートながら、その後に追い上げた

PP:このグループの真価がそこに現れているのだろう。リーダーシップの存在しないチームだったら、もっと厳しいシーズンになっていたはずだ。クリスマスの時期にはみんなもう(シーズン終了後の)夏のプランでも考え始めていたんじゃないかな。ただ、僕たちは違った。ロッカールームは精神的に強いベテランたちで満ち溢れていて、我慢強く、ポジティブな姿勢で臨んできた。内輪揉めや、余計な噂話や、チーム内が崩壊していくような事件はなかった。そうやってチームが崩れていく姿はNBAではよく目にするはずだ。僕たちにはそんなことはなく、ジェイソン・キッドHCを信じ続けた。おかげで戦況は転換し、チーム全体が成長を続けているんだ。

——ジョー・ジョンソン好調時のオフェンスへの効果は

PP:好調の日のジョーは周囲の多くの選手たちの仕事をより容易にしてくれる。彼は相手のダブルチームを引き寄せて、他の選手たちにスペースを開いてくれる。ディフェンスが彼に注意を払い始めると、オープンの選手が増える。このチームの美点は、それができる選手が複数いることだ。なかでもジョーは火付け役で、彼の好調時には僕たちを封じるのは難しい。彼が高得点をあげた日は勝率も良くて、全勝に近いんじゃないかな。プレイオフでも彼にハイレベルでプレーしてもらう必要がある。

——ジョンソンはなぜ見過ごされがちなのか

PP:僕たちは見過ごしてないよ。みんな彼の働きに気付いている。気付いていないのは君たちメディアだろう。

上位シード獲得が僕たちの今の目標

——ネッツが多くの長距離砲を擁していることについて

PP: 僕もこれまで様々なロスターを見て来たから、これまでこれほど多くのシューターを持つチームに属したことがあったか分からない。いずれにしても、先発、ベンチの両方に多くのシューターがいることは素晴らしいことだ。ドライブして、パスアウトからのロングジャンパーで得点できるのが僕たちの長所。ジャンパーが入らない厳しくなるけど、ここしばらくはずっと好調だった。チーム全体で良い仕事ができていると思う。

——ホームで14連勝という地元での強さについて

PP:地元では快適に、自信を持ってプレーできているよ。ホームコートを守らなければならない。相手チームに「ここに来たら厳しいゲームになる」と恐れを植え付けるような場所にしていかなければならない。これまでここで強豪を倒し続けることで、そういうアリーナにできてきていると思う。

——さらに順位を上げることについて

PP:上位シード獲得が僕たちの今の目標だ。ただ、そのためにはラプターズ、ブルズに何戦か負けてもらわなければならず、自力だけではなし得ないことは分かっている。僕たちにとって重要なのは、自分たちできることに集中し、高いモチベーションを保ち、毎試合を勝つ努力を進めていくこと。最終的にどの順位になるかはそのときに分かることだ。

——プレイオフ開始までの2週間でやらなければいけないこと

PP: まず第一に、僕たちは健康であり続けなければならない。ケガ人が出たおかげで多くの選手たちが出場機会を得て、勝ちを重ねているのは良いことだ。ただ、プレイオフで上位進出しようと思えば、主力が好調で臨む必要がある。マーカス・ソーントン、アンドレイ・キリレンコ、ケビン・ガーネットに出場してもらわなければならない。向こう2週間の間に彼らが戻ってきて、何試合かプレイすることを願っている。プレイオフの時期にはコンディションが大事なんだ。


序盤戦では常にどんよりとしていたネッツのロッカールームだが、今では笑顔の絶えない場所になった。スポーツ界では、勝利がほぼすべてを解決してくれるもの。1月以降はチーム全体が好調だけに、ときに気難しくなりがちなデロン・ウィリアムスですらも上機嫌で記者たちの質問に答えている。

そんな浮き沈みの激しかったネッツ内で、安定したリーダーシップをほぼ常に発揮していたのがピアースである。開幕直後こそ16年目にして初めてボストンを離れた戸惑いも感じられたが、月間平均得点はすべての月で12点以上。気の利いたコメントも多いため、メディアにとっても、ジョンソンと並ぶ試合後取材時の“ゴー・トゥ・ガイ”的な存在になっていった。

今春のプレイオフでも、鍵を握るのはウィリアムス、ガーネット、そしてピアース。KGとピアースは、いわばこの時期のためにネッツに獲得されたと言っても大げさではない。コート上とロッカールームの両方で周囲の負担を軽減させるべく、“ザ・トゥルース”の真の戦いが間もなく始まろうとしている。

文:杉浦大介
Twitter: @daisukesugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。