[杉浦大介コラム第13回]マイケル・カーター=ウィリアムス インタビュー「アイバーソンと僕はまったく違うタイプ」

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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低迷を続けるシクサーズフィラデルフィア・セブンティシクサーズの中で、ほぼ唯一の明るい材料となっているのがマイケル・カーター=ウィリアムスの活躍だ。

シラキュース大出身のルーキーPGは、10月30日のヒート相手の開幕戦で、いきなり22得点、12アシスト、7リバウンド、9スティールを叩き出して勝利に貢献。その後も好成績をキープし、依然として新人王候補の筆頭とみなされている。3月17日まで21連敗中のシクサーズは再建の真っ直中だが、この細身のガードは今後もチームの根幹を担っていくことになるはずだ。

“アイバーソン以降”のフィラデルフィアで新たな期待の星となった22歳は、どういった決意を持ってNBAに飛び込んだのか。そして、どんな想いでプロでの日々を過ごしているのか。


入団した頃から自分がやれるという自信はあった

——特に序盤戦の君のプレーには大きなインパクトがあった。NBA入り直後のプレーには自分でも満足している?

MCW:うん、とても満足していると言って良いと思う。長い道のりを歩んで来たなという感じ。徐々に負けが混んできてしまって、勝機のあるゲームも落としてきたのは残念だった。ただ、負けるとしても、僕たちは最後まで諦めずに一丸となって戦い続けているからね。

——再建中のチームとはいえ、君がこれほどすぐに“主力”と呼ばれる立場になると考えたメディアは少なかった。結果が出ている理由は?

MCW:入団した頃から自分がやれるという自信はあったんだ。このリーグではとにかく自信が大事と言うからね。僕の場合もそれが大きいんじゃないかな。

——確かに君は開幕当初から落ち着いてプレーしていた印象が残っている。その自信はどこから湧いてきているのか、説明できる?

MCW:チームメイトが授けてくれたと思っている。選手もコーチも、みんな僕を信頼してボールを託してくれた。実績ある人たちにそうしてもらえたのは大きかった。ただ、そもそも自信がなければコートには立てないというのが僕の考え方だ。チームメイトの言うことを聴き、自分を信じ、そして本能通りにプレーするというのが僕のスタイルなんだ。

——カレッジとプロとの違いはどこに感じる?

MCW:NBAのほうがよりフィジカルだね。あと、ゲームはよりスピーディーで、試合時間も長い。選手として、バスケットボールに注ぎ込む時間自体も長い。当たり前だけど、“1日がかりの仕事”という感じだ。

——NBAではレフェリーとコミュニケーションをとる選手も多い。

MCW:僕もなるべくレフェリーの名前を覚えて、良い関係を築いていこうとしているよ。

——それぞれのレフェリーの傾向を覚えようとしている?

MCW:そこまで大げさではないけどね。ただどんな人たちなのか、知ろうとしているだけだ。今後のキャリアを通じて、彼らと長く顔を合わせていくことになるわけだからね。

——よく言われるのがNBAのスケジュールの厳しさだ。いわゆる「ルーキーの壁(=シーズン中にスタミナ切れを起こす)」にぶつかるのを防ぐために考えていることは?

MCW:練習中はペース配分しながら動こうと努めてはいる。やり過ぎてはいけない。その一方で、しっかりと汗は流し、学べることは学ばなければいけない。バランスが大事だね。

高校1年のときは身長5-9(175cm)にすぎなかった

——NBAでは全米のアリーナを転戦することになる。なかでも“メッカ”と呼ばれるマディソン・スクエア・ガーデンでプレーした感想は?

MCW:多くの歴史が刻まれたMSGというアリーナでプレーするのは良い気分だった。自分がそこに辿り着けたことを誇りに思ったし、同時にその機会に感謝しなければいけないと感じた。コート上ではプレッシャーもあったけどね。僕にできるのは自分のプレーをすることだけだから、そうしようと心がけた。

——今季ここまでのハイライトは?

MCW:やはり開幕直後の数試合かな。即座のインパクトを生み出せたことは、僕にとってもチームにとっても大きかった。

——特に開幕戦のヒート戦でチームを勝利に導き、君の名は一躍全国区になった。

MCW:言えるのは、あのゲームのことは絶対に忘れないということ。自分が活躍できたというだけでなく、ヒートというチームに勝つことができた。それゆえに最高の気分に浸れたんだ。

——あの試合の直後、注目度は一気に高まった。自分自身を保つのは簡単ではなかったのでは?

MCW:周囲の声をあまり聴かないようにしたのは事実だ。騒がれるのには良いことと悪いことがあるからね。とにかくチームが最優先されるべきであり、自分を見失いたくなかった。

——向上させなきゃいけないと感じている部分は?

MCW:今季の中でも成長してこれたと思うし、多くを学んでこれた。ただ、もちろんこれからもさらに多くを学んでいきたい。特にここが課題というのではなく、トータルでより良いバスケットボール選手にならなければいけないと感じている。自信を保ちながら、さらに前へと進んでいきたいね。

——いくつか日本のファンからリクエストを受けた質問に答えて欲しい。それほど長身なのにPGになった理由は?

MCW:ずっと背が高かったわけではなかったんだ。高校1年のときは身長5-9(175cm)にすぎなかった。その頃にはSGもこなしたけど、僕のナチュラル・ポジションは常にPGだった。その後に背が伸び始めても、PGであり続けたってわけさ。

——子どもの頃に好きだった選手は?

MCW:マイケル・ジョーダン。ずっとジョーダンの大ファンだった。情熱的なプレースタイルで成功を収め続けた選手。観ていて楽しいプレイヤーでもあったしね。

——フィラデルフィアは映画『ロッキー』の街として知られているけど、映画は観た?

MCW:あのシリーズは観たよ。子どもの頃にたくさん観た記憶が残っている。フィラデルフィアでは特に人気のある作品だよね。

フィラデルフィアのファンは、ハードにプレーすれば一生懸命にサポートしてくれる

——君のファーストネームはマイケル・ジョーダン、ビンス・カーターという偉大な選手のコンビネーションだけど、自分の名前をどう思う?

MCW:ハハハハ。自分の名前は大好きだよ。それしか言えないな(笑)

——今季のシクサーズには経験豊富な選手が多いとは言えない。君のような若い選手にとって、やり易い部分とそうではない部分があったのでは?

MCW:10年以上をリーグで過ごしてきたような大ベテランはいないけど、シクサーズには6~7年にわたってNBAでプレーしてきたいわゆるヤング・ベテランがいてくれた。自分より経験豊富な選手たちから学べることは多いよ。みんな率先してアドバイスをくれたから、その点ではとても感謝している。

——昨年末のレイカーズ戦ではコービー・ブライアントが故障欠場していて出場しなかった。対戦してみたかった選手だったのでは?

MCW:そうだね。コービーみたいに偉大な選手と対戦できれば素晴らしかったに違いない。いつかその日が来るのを楽しみにしているよ。

——ここまでで難しかったマッチアップは?

MCW:カイリー(アービング)とステファン・カリーかな。クリッパ—ズ戦では僕のケガでクリス・ポールと対戦できず、サンダー戦ではラッセル・ウェストブルックが出場していなかった。その2人とのマッチアップも実現していればおそらく厳しいものになっていただろう(注:インタビュー収録後の2月にクリッパーズと、3月にサンダーと対戦している)。

——シクサーズの歴史上で最も人気のあった選手はアレン・アイバーソンだ。アイバーソンが去って以降のチームは低迷していて、君には後継ぎ的な期待もかかっている。そのことからプレッシャーを感じる?

MCW:いや、そうでもないよ。フィラデルフィアのファンは、ハードにプレーすれば一生懸命にサポートしてくれる。僕とアイバーソンの比較は聴いたことがあるけど、実際には僕たちはまったく違うタイプ。もちろんアイバーソンは歴史上最高の選手の一人であり、彼の業績は本当に素晴らしいけど、僕にできるのは自分のプレーを心がけることだけ。これからも自分にできることをやっていきたい。


インタビューの大半は怒濤の連敗が始まる前に行なったもので、今改めて話を聴けば「今季のプレーにとても満足している」とは言わないかもしれない。それでも、ドラフト全体11位のウィリアムスが、指名時の期待を上回るレベルのプレーを続けていることは事実である。

インタビュー時の冷静さ、落ち着きからは、ルーキー時代のクリス・ポール、デロン・ウィリアムスを思い出させられた。注目されること、リーダー的な立場に慣れているタイプ。馬力の欠如、ジャンパーの不安定さなど明白な弱点もあるだけに、CP3やD-Willのレベルにまで到達するのは難しいかもしれない。しかし、大きなケガがない限り、ウィリアムスは間違いなく長くリーグで生き残っていく選手にはなるように思う。これほど意志の強さを感じさせ、プロ意識も持っている選手がすぐにフェイドアウトする姿を想像するのは難しいからだ。

文:杉浦大介
Twitter: @daisukesugiura

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。