[宮地陽子コラム第34回] コービーとジョーダン、2人に通ずるメンタリティ

Yoko Miyaji

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コービー・ブライアントが、キャリア通算得点でマイケル・ジョーダンを追い越そうとしている。ジョーダンがNBA15シーズンであげた通算得点は3万2292点。今季がNBA19シーズン目のブライアントは、12月7日の試合を終えた時点で3万2230点。その差は62点だ。今シーズンのブライアントの平均得点は25.2点だから、12月12日から15日の遠征(サンアントニオ、ミネソタ、インディアナ)の間に追いつき、追い越す可能性が高そうだ。

記録好きのアメリカだけに、現役選手が過去の名選手の記録を抜くというニュースは珍しいわけではないが、花形スコアラーの代表格の2人の話だけに特別だ。好運なことに両選手のキャリアの多くを取材することができた筆者にとっても、感慨深いものがある。

もっとも、数字上は追い越すわけだけれど、だからどちらが上とか下と言うつもりはまったくない。ブライアント自身、誰かの記録を抜いた後にコメントを求められると、まるで彼らに憧れていた子供の頃に戻ったかのように目を輝かせ、「一緒に名前を挙げられるだけで名誉なこと」と言っている。これは、決して謙遜しているわけではなく、本心だと思うのだ。

つい最近、ブライアントのジョーダンに対する気持ちを聞き出してくれたインタビュー記事があった。インタビュアーは、ブリーチャー・リポートのベテラン記者、ケビン・ディング。ブライアントはふだん、ジョーダンとの比較についてあまり語りたがらないのだが、ロサンゼルス地元紙の記者時代から、長年にわたってレイカーズ番記者だっただけに質問のツボを理解していたからなのか、またXデー間近というタイミングもあってか、本音で、饒舌にジョーダンを語っていた。

興味深い話ばかりだったのだが、その中で、スコアラーとしてのジョーダンを考えたときに何が頭に浮かぶかという問いかけに対しての答えは、2人に通じるメンタリティを表わしていて納得させられた。ブライアントは英語で一言、"aggression"と表したのだ。「攻撃性」、「攻撃行動」などと訳される言葉だ。

ブライアントは、その言葉を挙げた意味を次のように説明している。

「特定の試合や、プレーでのことだけではない。とにもかくにも、彼のアグレッシブさ。あれだけのアグレッシブさや自信を保つためには、多くのトレーニング、コンディショニング、スキルや思考力が必要だ。彼は、本当に容赦なかった。常に攻め続けていた。しかも、フロア上のどこからでも、いろいろなフットワークを使って攻めていた。ポストでも、外からでも、多彩だった」。

ジョーダンが常に自信を持って、攻撃性を保っていたのは、それだけの準備ができているという自信があるからだ、というわけだ。これはブライアント自身が人一倍練習し、トレーニングして準備する理由でもあり、ベテランになって脇役に回るべきと言われながらも、攻撃的な姿勢を緩めない最大の理由だ。

NBAにも、根拠ない自信を持つ選手や、準備ができていなくてもアグレッシブな選手はいる。しかし、そういう類のアグレッシブさは、ディフェンスから研究され、マークされる中ですぐにメッキがはがれてしまう。ジョーダンやブライアントが、長いキャリアの間、ずっとそのアグレッシブさを持続していることは、それだけ努力し続けている証なのだ。少なくとも、ブライアントの価値観では、そういうことなのだ。

もうひとつ、インタビュー中にこんな話があった。ブライアントがジョーダンからどんなことで助けられたか、と聞かれたときのことだ。

「実際、かなり多くの面で助けられた」と言いながら、ブライアントはジョーダンからのアドバイスを具体的に挙げようとはしなかった。代わりに、こう言った。

「僕にとって、その類の情報を手に入れるのは、エベレスト山に登ったり、仏陀と話したりするようなことだ。その情報が欲しければ、自分で山に登らなくてはいけない」。

記録や数字は、言ってみれば自力でその山に登ったという証。それこそが、ブライアントにとって一番の勲章なのかもしれない。

Yoko Miyaji