最初からごく主観的な書き出しで申し訳ないけれど、今シーズンの シカゴ・ブルズ は、見ていてワクワクさせてくれる魅力的なチームだと思う。
メディアデイで ジョアキム・ノア が嬉しそうに、 パウ・ガソル を勧誘したときの話や、ガソルが厳寒の地、シカゴを選んだことに感心した話をしていたときから、これは楽しいチームになりそうだとは思っていたが、実際にシーズンが始まってみると、その楽しさは単にガソルが加わったことだけが理由ではなかった。
MVPの デリック・ローズ のほか、ノア、ガソルのようなオールスター選手たちがいる一方で、いぶし銀のベテラン、 カーク・ハインリック や マイク・ダンリービー が脇を固め、さらに成長著しい ジミー・バトラー や タージ・ギブソン などがチームにエネルギーをもたらす。若手からベテランまで揃っていて、試合によって何が飛び出してくるかわからない玉手箱のようなチームなのだ。
そんな今シーズンのブルズの中で、特に注目を集めているのが、プロ4年目のシューティングガード、バトラーの成長だ。
もともとアグレッシブなディフェンスに定評がある選手だが、今シーズンはオフェンスも急成長。シーズン序盤でローズやガソルが数試合欠場したこともあって、平均得点を昨季より7点も伸ばし、11月24日現在平均20.75点でチームのトップスコアラーだ。競った試合の終盤で攻撃を任され、エースのような活躍も見せている。
ベテラン選手たちがいて選手層も厚い中で、彼のような選手が伸びてくるチームの構造やメンタリティというのは、いったいどういうものなのだろうと思い、先日、ブルズがロサンゼルスに来たときにバトラーに話を聞いてみたら、これがまた面白かった。
中でも印象的だったのは、今シーズン、選手として成長した一番の理由について語ったときだ。バトラーは「チーム。自分のプレーを磨くために努力したこと。自信」と3つの要素をあげた。
最初の「チーム」というのは、チームメイトのこと。
「チームメイトたちは、いつも僕が苦労しなくても得点できるような場所でボールをくれるんだ。だから、僕自身はそれほど頑張らなくてもいいぐらいだ」。
2番目にあげた自分自身の努力とは、夏の間に専属のスキルコーチをつけて、ポストからの攻撃を徹底的に練習したこと。
「自分でもかなり頑張った。トレーニングキャンプが始まって、夏の間に練習したムーブをやってみたら通用した。それで、余裕をもってやれるようになった。せっかく練習したのだから使わないとね」。
3つ目にあげた自信は、最初の2つに密接につながっている。
「いつも、自分に自信はあった。夏にトレーニングしたことで、さらに自信をもってプレーできている。それに、チームメイトたちは、いつも僕にもっと得点を狙うように、もっとアグレッシブになるようにも言ってくれた。本当にチームメイトのおかげだと思っている。彼らがいなければ、今の自分はない」。
自分の能力に対する自信と、それを引き出してくれるチームメイトへの感謝。そんなバランスのとれたメンタリティが、コート上でのプレーとなっているのかもしれない。
「試合中にアグレッシブでいるというのは難しいことではない。どこで自分のシュートを打つのか、どのプレーで自分がシュートを打つべきなのかがわかっている。だから、そういうときはアグレッシブになる。自分のスポットでボールを持ったら、自分でシュートを打つようにクリエイトするし、それができなければ、次の選手がシュートを打つチャンスをクリエイトする。それが、僕らの戦い方なんだ」。
目から鱗だったのは、次のこの言葉だ。
「別に自分がスコアラーだとも、チームのゴー・トゥ・ガイだとも思っていない。言ってみれば、自分がやるべき役割をとてもうまくやれているということなのだと思う」。
勝負どころで得点を任されることも自分の役割で、その役割をうまくできているだけ。確かにそれは正しい見方なのかもしれないけれど、NBAのような競争が激しい中、成長中の若手選手がこんな成熟した考え方をできるとは。今シーズン後に制限付きフリーエージェントになるバトラーだけに、もう少し自分を高く売り込めるようなコメントをすればいいのに、と、余計な心配をしてしまうほどだ。その一方で、そういう考え方がチーム全体に浸透していることこそ、今シーズンのブルズの楽しさ、そして強さの根底にあるものなのだと納得させられた。
文:宮地陽子 Twitter: @yokomiyaji
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