[ファイナル第5戦プレビュー]追い詰められたヒート、敵地で問われる王者の誇り

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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ファイナル3勝1敗から優勝を逃したチームは存在しないこと、第5戦と第7戦はサンアントニオで開催されることを考えれば、“もう決着はついたも同然”と指摘するメディアが増えたのも仕方ないだろう。

マイアミでの2試合のスパーズのパフォーマンスは、それほどに圧巻だった。

シリーズを通じてフィールドゴール成功率は平均54.2%と高く、特に第3戦では59.4%、第4戦では57.1%とシュートが絶好調。美しいパスワークでノーマークの選手を見つけ出し続けているのだから、この高確率もまぐれとは思えない。

過去のファイナルで、シリーズ平均52.7%以上の確率でシュートを決め続けたチームは存在しない。しかし、MVP候補を選ぶのが難しいほどの全員プレイで魅せるスパーズが、第5戦で再び高得点をあげ、FG成功率のファイナル記録を作ったとしても、もはや誰も驚きはしないはずである。

「(ヒートの)力はもう分かっている。彼らの能力に敬意を払っている。ギアを一段上げられることも知っているし、それをやってくるだろう。彼らがシリーズを終わらせたくないことは分かっているが、希望を持たせてはいけない」。

ティム・ダンカンのそんな言葉通り、圧勝の連続の後でも、スパーズの選手たちに油断や気の緩みは感じられない。

同じく王手をかけて迎えた1年前の第6戦で、残り28秒から5点差を逆転された苦い経験が良薬になっているに違いない。心身が充実した今のスパーズから、死角を捜すのは難しいのが現実である。

一方、後がなくなったヒートのほうも、逆転優勝を狙って対策を講じてくるはずだ。

不振に悩むポイントガードのマリオ・チャルマーズ、守備面で弱点になっているパワーフォワードのラシャード・ルイスに代わり、ノリス・コール、クリス・アンダーセンをそれぞれ先発起用することも考えられる。士気を高める効果を期待して、チーム内で尊敬を集めるユドニス・ハスレムのプレイタイムを増やすのも良い。

ただ、4年連続でファイナルまで進んできた影響か、チーム全体がスタミナ切れを感じさせている現状で、それらのマイナーチェンジにどれだけの効果があるか。

自信を持っていた地元コートで連敗を喫し、心の拠りどころだった“プレイオフでの敗戦後は13連勝”という記録もストップした。筆者が個人的に何より気になるのは、第4戦後のヒート選手たちから、「自分たちはより優れたチームに巡り会ってしまった」という諦観が感じられたことである。

「シリーズはまだ終わっていない。このチームには誇り高き選手たちが集まっているからね。集中しなければいけないのは、“どうやって第3、4戦以上に良いプレイをするか”ということだけだ」。

レブロン・ジェイムスはそう語ってはいたが、今でも同じように信じられている選手が実際にどれだけいるか。結局、ヒートが敵地サンアントニオで勝とうと思えば、レブロンが35得点、10リバウンドと爆発した第2戦と同等か、それ以上のプレイをする必要があるのだろう。

このシリーズでも平均27.5得点(60%)、7.3リバウンドを残してきた大黒柱は、後がない状況で、第5戦では48分をフルにプレイすることも考えられる。加えてドウェイン・ウェイドが少なからず援護できれば、少なくとも過去2戦ほどの大差を付けられることはないはずである。

個人技を最大の武器としているヒートにとって、ここからの3連勝は奇跡に近いかもしれない。しかし、ファイナルで3戦連続で大敗を喫するとなれば、3連覇を狙ったチームとしては屈辱的だし、レブロンの歴史的評価にも影響を及ぼしかねない。すでに祝賀ムードに湧いているであろう敵地で、王者はもう一度プライドを誇示できるか。

過去4年間、ファンを大いに楽しませてくれた王者の誇りをかけて、第5戦ではヒートの“最後の意地”に期待したいところだ。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

※NBAファイナル第5戦は日本時間16日(月)午前9時スタート!


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杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。