[ファイナル第3戦プレビュー]ホームに戻ったヒートのカギを握るC・ボッシュ

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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「彼(クリス・ボッシュ)こそが私たちにとって最も重要な選手かもしれない」。NBAファイナル第2戦後、、マイアミ・ヒートのエリック・スポールストラHCが発した言葉は、シリーズ初勝利後の興奮ゆえに導き出された少々オーバーなものだったに違いない。

ヒートで最も重要なプレイヤーがレブロン・ジェイムスであることは、バスケットボールを始めたばかりの子供でも知っている。

現地8日の第2戦でも、レブロンは35得点、10リバウンドをマークし、勝利の立役者になった。レブロンが左足に痙攣を起こして敗れた第1戦の“エアコンゲーム”直後の試合で、ヒートが完璧な形でリベンジを果たしたのは、まさしく“キング”の復調あってのものだった。

ただ、今まさにピークに達した感のあるレブロンをもってしても、スキのないスパーズのようなチームに一人で勝つことはできない。エースにマークが集中する終盤の時間帯には、他の選手の的確な貢献が必要になる。

そんな役目を担うのが、ビッグ3の一角を成すボッシュだ。

第2戦では、1点を追う残り1分17秒に逆転3ポイントシュートを決め、レブロンをしっかりとサポートした。

「好調の日でもそうじゃない日でも、彼はいつでも重要なショットを放つガッツを持っているんだ」。

ドウェイン・ウェイドのそんな言葉通り、ボッシュはビッグショットを放つ強い精神力を備えている。

もちろん、ボッシュが終盤にそういったショットを決めたのはこれが初めてではない。

今季のレギュラーシーズン中、残り時間5分以下、5点以内のリードを許した場面でのボッシュのフィールドゴール成功率は53.7%だった。特に3Pは25本中14本成功(56%)と、驚異的なまでの勝負強さを誇ってきた。

プレイオフに入っても、イースタン・カンファレンス・セミファイナルのブルックリン・ネッツ戦では、全5試合で二桁得点をあげ、続くインディアナ・ペイサーズとのカンファレンス・ファイナル第4~6戦でも、すべて20得点以上をマークした。

クラッチタイムのロングジャンパーで何度もチームを救ってきた今季、ボッシュはヒートにとってこれまで以上に欠かせない存在になったのだ。

そんな働きをサイドラインで見続けてきたのだから、スポールストラが大げさに絶賛したのも当然だったのかもしれない。

現地10日の第3戦から、ファイナルはマイアミに舞台を移す。

敵地サンアントニオでの勝利により、王者ヒートが1勝1敗で並んだ直後だけに、続くゲームはシリーズの流れを左右しかねない、とりわけ重要な意味を持つ。

ホームコート・アドバンテージを奪い返したいスパーズとしては、第2戦で止めようがなかったレブロンにある程度やられるのは仕方がないところだろう。問題は、レブロン以外の選手にも活躍を許すことだ。

そういった意味で、最初の2戦でFG成功率59%と好調な“背番号1”は、今後もシリーズのカギを握る存在になるに違いない。

レブロンやウェイドに比べるとスター性に乏しく、「“ビッグ3”ではなく“ビッグ2 1/2”」などと揶揄されることもあったボッシュ。ビッグマンとしてはパワーと激しさに欠けるため、批判にさらされることも少なくなかった。

しかし、チームからの信頼は揺らぐことはなく、本人も雑音を気に留めていない。

「批判されても気にしないよ。自分のためにならないことには耳を貸さない。誰でも批判されることはあるけど、それは自分を人間的に強くしてくれる。僕は自身の力を信じている。大事なのはハードにプレーすることなんだ」。

ペイサーズとのシリーズ第5戦で、ボッシュは決まれば逆転となる3Pをゲーム終了間際に失敗。再び批判にさらされた。だが、それでもレブロンはボッシュを信頼してパスを送り続け、ファイナル第2戦では見事に奏功した。

第3戦以降も、再び同じようなシーンが訪れたとしても不思議ではない。

今ファイナルは、第6~7戦にもつれ込む長期戦になることが濃厚と見られている。しかし、今プレーオフでホーム8戦全勝と絶対の自信を持つヒートは、地元マイアミで戦う第3~4戦に連勝し、一気に有利な状況に立ちたいと考えているはずだ。

そんな、王者ヒートの理想のシナリオを現実のものとするためにも、批判を恐れない“第3の男”の活躍は不可欠だ。

第3戦当日のマイアミは雨も降るが、午後には晴れ間ものぞくという。

その夜のゲームの勝負所で、ボッシュが再びクラッチショットという名の“虹”を架ければ、マイアミアンが心待ちにする夢の3連覇がうっすらと見えてくる。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura


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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。