【書評】『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』:ページをめくるごとに色づくヤニスの肖像(渡辺早織)

渡辺早織 Saori Watanabe

株式会社ダブドリ

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世界最高峰のバスケットボールリーグNBAで2シーズン連続MVPを獲得した、ミルウォーキー・バックスのスーパースター選手であるヤニス・アデトクンボの評伝の日本語訳版『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』(株式会社ダブドリ)が、2022年9月16日に発売された(注:本書での名前表記は「ヤニス・アンテトクンポ」)。

一足早く本書を手にした、NBA好きとして知られる女優の渡辺早織さんによる書評をお届けする。


ヤニスを知るということは、世界の現状を知ること

そこにあるのは暗闇か、それとも色のない世界か……。

最後のページを読み終えたとき、今まで私が勝手に抱いていたヤニスの印象は、すべての色彩がひっくり返ったかのように全くの別物になった。

これが本書の最大の魅力であり、さらに今後のヤニスを見る上で大きな指針となりうるだろう。あなたがヤニスのファンであっても、なくてもだ。

ヤニスと言えば、まず思い浮かぶのはペイントエリアでの圧倒的な支配力だ。あまりに強く、武骨な印象すらあった。無機質な無彩色とでも言えようか。鉛のようにずっしりとして、コンクリートのように硬い。それが、私が抱いた彼の第一印象だ。

そのおかげで、さらに勝手に妄想する。「こんなにも完璧で恵まれた人は、きっと近寄りがたくて、性格も傲慢に違いない」。

しかしこの本を1枚めくったその時から、自分の考えはあまりにも浅はかで、文字通り「すべて」が誤りだったと気付くことになる。

ミルウォーキー・バックスを50年ぶりの優勝に導き、自身もファイナルMVPを受賞したヤニス・アンテトクンポ。

この本は、今や完璧なスーパースターとなったヤニスの裏側にある、壮絶な物語がありのままに描かれており、その数奇なる半生を知ることができる貴重な一冊となっている。

少年時代のヤニスは真っ暗闇の中にいた。

その日食べるものや眠る場所にすら不安を抱えながら生きてきた事。人種差別と闘いながら過ごす日々。一筋の光を求めて、生きることに必死になっていた多くの時間。

この本を通してヤニスを知るということは、世界の現状を知ることも同時に意味し、我々の日常をも思い見ることになるだろう。

さらに注目したいのが、ヤニス自身の人柄だ。

純粋で、家族を心の底から愛し、謙虚でユーモアのあるヤニスに、どんどん惹かれていくことになる。

ページをめくるたびに知らない面が表れて、ないと決めつけていた色彩はみるみる彩度を取り戻していくようだった。

そこには淡い水色やピンクなどの優しい色もあれば、パキッと目を引く真っ赤や濃いブルーの色もある。

ヤニスのファンになるには簡単すぎるほど、その魅力でページはカラフルに埋め尽くされていく。

それもそのはず、本書を読めば、計り知れない取材量、期間を要したことが容易に想像できる。

家族、チームメイトやコーチはもちろん、ファン一人一人やギリシャ時代の旧友まで、さまざまな声を聞くことができ、まるで彼の半生を隣で見ているような錯覚におちいるのだ。

綿密な取材を行った上でテーマに沿って素材を再構成した著者のミリン・フェイダー氏の手腕に敬意を表したい。

ヤニスのファンであれば必読。そうでなくても満足度の高い読書体験になること請け合いだ。

最後に、翻訳を手がけた大西玲央氏と永禮美里氏の美しい日本語は、分厚い本書(600ページ!)を読み進める上でとても大きな手助けとなることを伝えたい。

すっと心に響き、じっくり噛みしめたくなる素晴らしい翻訳だ。

ある人によっては人生の教訓に、また目標に、夢に、そして宝物に。

世界には驚くほど鮮やかな色をした鳥がいる。

読み終わって見たヤニスは誰もが目で追う自由に空を飛び回る美しい野鳥のようにも見えた。

彼は休むことはなく飛び続ける。

今日もその大きな翼を広げて。


『ヤニス 無一文からNBAの頂点へ』

ミリン・フェイダー[著] 大西玲央・永禮美里[訳]
◎定価:本体3400円+税 四六判・600頁
◎発行元:株式会社ダブドリ
◎発売中

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渡辺早織 Saori Watanabe

渡辺早織 Saori Watanabe Photo

東京都出身。2007年にモデルとしてデビュー後、俳優・タレントに転身。ドラマ/映画/CM/テレビと幅広く活躍している。高校までバスケットボール部に在籍しており、その経験を活かしてNBA公式動画配信サービス「NBA Rakuten」の「NBA情報局Daily9」にレギュラーMCとして出演した。その後も試合の生中継を始めとする様々なコンテンツでMCやアシスタントを務め、日本におけるNBAの発信に寄与している。

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