MMA業界では異例!「RIZIN vs. Bellator全面対抗戦」への道のり|『RIZIN.40』特集

Daniel Yanofsky

Sporting News Japan Staff

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日本の大晦日恒例の格闘技イベントとなる『RIZIN.40』が迫ってきた。今年の目玉は世界のMMAファンも注目する「RIZIN vs. Bellator MMA全面対抗戦」だ。

それぞれを率いる榊原信行CEOとスコット・コーカー代表の長きにわたる協力関係と、いよいよ実現する全面対抗戦までの道のりを本誌格闘技エキスパートのダニエル・ヤノフスキー(Daniel Yanofsky)記者が解説する。

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チームワークがあれば何かが実現し、夢はかなう……これは格闘技の世界でも同じことが言えるはずだ。ボクシングの場合、プロモーターは互いに協力し合い、最高のマッチアップを実現する。例えば、英大手『Matchroom Boxing』のファイターが、米大手『Toprank』のイベントに出場することもある。

ところがMMA(総合格闘技)業界の場合、そのようなことはあまりないのが実情だ。この業界においては、ある団体のファイターが別の団体と契約しても、ほとんどの場合、そこから何も生まれない。ただ、そのファイターが移籍し、戦う舞台が変わるだけだ。

そんななか、『Bellator MMA(以下Bellator)』代表のスコット・コーカー氏と『RIZIN』のCEOである榊原信行氏は、MMA業界における「禁断の扉」をこじ開けようとしている。

コーカー氏は1980年代半ば、北米で『Strikeforce』を立ち上げ(当初はキックボクシング団体)、のちに『K-1』の米国代表者として日本の格闘技業界とのパイプを持った。『Bellator』の代表就任後は、世界規模のMMAプロモーションとしての地位を築き上げた。榊原氏は、『K-1』のイベント制作および映像制作にTV業界から携わり、のちにMMA団体『PRIDE』運営会社の代表を経て、2015年に旗揚げされた『RIZIN』を率いてきた。

旧知の仲だった両者は、何年も前からコンビを組み、積極的な選手の貸し出し合いを行うなど、互いに協力し合ってきた。そして今回、両者が共同プロモートし、RIZINとBellatorのファイターによるベストカードが実現する。

12月31日の大晦日、さいたまスーパーアリーナで開催される『RIZIN.40』は「RIZIN vs. Bellator対抗戦」が目玉となり、パトリシオ・フレイレ、A.J.マッキー、堀口恭司、クレベル・コイケ、ホベルト・サトシ・ソウザらが出場する。

コーカー氏は「これは、Bellatorオールスターチーム vs. RIZINオールスターチームだ」と専門メディア『MMA Junkie』に語っている。

「これは私が見たかったものであり、彼(榊原氏)が見たかったものだ。榊原にこのイベントのことを聞いたとき、『何をやりたいんだ?』と言ったんだ。そして彼はこう返してきた。『各階級でベストのファイターを連れてきてほしい。ジャーニーマン(その場しのぎのファイター)はいらない。最高のファイターを連れてこい』とね。だから、私もそうしたんだ。どの選手もBellatorの現役チャンピオンか、元チャンピオンだ。12月31日にRIZINのオールスターチームと戦う準備は万端さ」

RIZINは長年にわたり日本のMMAを牽引し、Bellatorは米国と欧州全域に市場を拡大してきた。2大ブランドのコラボレーションはMMA業界にとって大きな一歩だが、コーカー氏と榊原氏にとっては特別なことではない。

スコット・コーカーと榊原信行の交友録

前述通り、ある時期コーカー氏は『Strikeforce』の代表であった。同じ頃、榊原は『PRIDE』のプロモーターだった。2006年、コーカー氏は榊原氏に人材交換の可能性について打診した。同年、カリフォルニアで開催されたStrikeforceのイベントで、榊原氏はアリスター・オーフレイムを送り込み、2005年PRIDEミドル級グランプリ1回戦以来のリマッチとしてビクトー・ベウフォートと戦わせた。オーフレイムがベウフォートを撃破し、2-0で連戦をリードした。

その後も両団体にとって稀有なマッチアップのために、何度もタレントの入れ替えが行われた。例えば、コーカー氏はギルバート・メレンデスをPRIDEに送り込んだ。両者のMMAに対する情熱によって、夢のマッチアップが実現したのである。

榊原氏は少し前に、RIZIN幹部でマッチメイカーでもある柏木真吾氏を通じて『ESPN』にこう語った。「彼(コーカー)はこの競技を愛し、この競技を次のレベルに引き上げ、彼自身が思い描くブランドを築きたいと考えていた。UFCはすでにアメリカでは大きな存在だった。どんなビジネスにも健全な競争が必要……だからこそ、コーカー(とBellator)を助けることは必要だった。お互いの信頼と尊敬があったからこそ(ファイターの貸し借りが)可能だったのです」

StrikeforceとPRIDEはUFCの親会社である『Zuffa, LLC』に買収されたものの、それぞれBellatorとRIZINで何とか立ち直った。そこから両者の関係はさらに深いものとなっていった。

BellatorとRIZINの『兄弟』のような関係性

2015年、RIZINとBellatorとの間で正式な提携が結ばれた。これを受け、RIZINヘビー級グランプリに、キング・モーことモハメド・ラワルがBellator代表として出場。キング・モーは同トーナメントで優勝し、決勝では将来のUFCライトヘビー級王者であるイリー・プロハースカをも倒した。2016年、無差別級グランプリの試合ではミルコ・クロコップに敗れている。

そこからの両団体の可能性は無限大に広がった。

2018年、当時のBellatorバンタム級王者ダリオン・コールドウェルは、日本で毎年恒例の大晦日イベント(RIZIN.14)で堀口恭司と対戦した。この試合では、堀口がコールドウェルをサブミッションで下し、RIZINバンタム級初代王者となった。2019年の再戦(Bellator 222)でも堀口が再び勝利し、コールドウェルからBellatorバンタム級王座を奪取した。

堀口はその後、Bellatorに本格進出し、条件が合えばRIZINの試合に出場する契約に移行。『RIZIN.40』の「RIZIN vs. Bellator対抗戦」では、Bellator代表として扇久保博正と戦う予定だ。

2018年というと、コーカー氏はBellatorとRIZINが協力関係を続けることを望み、今回の対抗戦構想を示唆している。「RIZINとBellatorは来年(2019年)、複数回一緒に仕事をすると思う」とコーカー氏は当時『ESPN』に語っていた。

「来年、日本かこちら(米国)で『RIZIN vs. Bellator』というビッグイベントが開催されるかもしれない。そのようなコラボレーションが見られると思う」

この発言は格闘技ファンに大きな期待を抱かせたが、多くのスポーツイベント同様、世界的な新型コロナウイルスのパンデミックや様々な事情により計画は後ろ倒しとなり、2022年大晦日にようやく実現することになった。対抗戦の実現には時間がかかったが、この3年の間、両団体は協力関係を続けていた。

ロシアのMMAレジェンド、『皇帝』エメリヤーエンコ・ヒョードルは、日本の格闘技団体『RINGS』と『PRIDE』でキャリアをスタートさせた。Strikeforce時代、コーカー氏と仕事をしていた元PRIDEヘビー級王者は、2017年にBellatorに参戦した。現在も引退ツアー中のヒョードルは、2019年、コーカー氏とRIZINの協力により、さいたまスーパーアリーナで日本ラストマッチ興行を実施。ヒョードルはクイントン・ジャクソンをTKOで下した。コロナ禍の影響もあって長期に及んでいる引退ツアーだが、2023年2月、因縁深いライアン・ベイダーとの再戦が正真正銘のファイナルマッチになる予定だ。

また、RIZINのRENAとBellatorのリンジー・ヴァンザントは、それぞれの団体の興行に交互に出場するクロスプロモーションの2試合を行った。ヴァンザントは2019年、BellatorのイベントでRENAをサブミッションで下し、世界に衝撃を与えた。RENAは同年の『RIZIN.20』での再戦でTKO勝ちし、リベンジを果たした。

大晦日対抗戦に出場するパトリシオ・フレイレの実兄パトリッキー・フレイレも、2019年にRIZINに登場している。RIZINライト級グランプリに出場したパトリッキーは決勝戦まで進んだものの、トフィック・ムサエフに敗れた。

ベラトールとRIZINの未来はどうなっていく?

コーカー氏と榊原氏はお互いに今回の「RIZIN vs. Bellator対抗戦」が今後の拡大につながることを望んでいる。両団体は過去に何度も対戦してきたことから、どんなカードでも実現可能なのではないかという証左もある。両者の(この競技への)熱意を考えれば、「絶対にないとは言えない(Never Say Never)」だろう。

「MMAの歴史のなかで、2つのプロモーションがそれぞれのベストメンバーで全面対決するのは初めてのことだと思う」と榊原氏は、『MMA Junkie』に語っている。「このイベントを一過性のものにしたくはない。このイベントを一過性のものにするのではなく、連続したものにしたいし、年に一度、あるいは2年に一度のものにしたい」

原文:Bellator MMA vs. RIZIN timeline: History, matchups between MMA promotions heading into New Year's Eve event
翻訳・編集:スポーティングニュース日本版編集部


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日本を拠点に国内外の様々なスポーツの最新ニュースや役に立つ情報を発信しているスポーティングニュース日本版のスタッフアカウント。本家であるスポーティングニュース米国版の姉妹版のひとつとして2017年8月に創刊された日本版の編集部員が取材・執筆しています。