【UFC】イスラエル・アデサンヤがアレックス・ペレイラをKOし、崩壊しかけた伝説を自ら蘇らせ、新たな地平へ

Andreas Hale

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近年のUFCにおいて、瀬戸際にあったのがイスラエル・アデサンヤだ。『NARUTO』など日本の漫画・アニメ好きとして知られる異色のスター性や、ミドル級においては敵なし状態にありUFCの主役のひとりだったが、2022年11月、6度目の防衛戦でその王座から陥落。その相手はキックボクシング時代に2連敗を喫していたアレックス・ペレイラであり、MMAにおいても敗れ、通算3敗という決定的な汚点を残してしまった。

そんなアデサンヤが崖っぷちから蘇ったストーリーと新たな伝説を次章への展望を、本誌格闘技エキスパートのアンドレアス・ヘイルが解説する。

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イスラエル・アデサンヤ(ニュージーランド)は追い詰められていた。もし『UFC 287』でまたしてもアレックス・ペレイラ(ブラジル)に敗れるようなことがあれば、それは『ザ・ラスト・スタイルベンダー』(アデサンヤの異名)時代の終焉を意味しただろう。元チャンピオンであることは関係ない。ここでまた負ければアデサンヤには総合格闘技とキックボクシング合わせて、同じ相手に0勝4敗したという記録だけが残り、ペレイラの伝説の引き立て役という屈辱を受け入れなくてはならなかったからだ。

しかし、アデサンヤはペレイラの自信が油断にもつながることを知っていた。タイトルを失ったファイターがかえってそのことでプレッシャーから解放され、リマッチでは自分が有利だと口にすることがある。大抵は虚勢を張っているに過ぎない。だが、アデサンヤはそうではなかった。ペレイラが過去の記録を過信するあまり、間違いを冒す可能性があることを知っていた。言うなれば「あとはチップを現金化するだけ」(作戦を実行するだけ)だったのだ。

もちろんそれを言うだけなら簡単だ。しかし、イスラエル・アデサンヤはそれをやってみせた。

4度目の正直を成就、自ら伝説を取り戻したアデサンヤ

イスラエル・アデサンヤのような存在は数少ない。

試合はペレイラ有利で始まった。2ラウンド目に入るとペレイラはノックアウトを狙ってさらに攻勢に出た。しかし、アデサンヤは見事な右カウンターでペレイラを止め、さらに追撃の右ストレートで宿命のライバルをマットに沈めた。この勝利によって、アデサンヤはUFCミドル級チャンピオンに返り咲いた。

失いかけた『アデサンヤ伝説』を完全な形で取り戻したことで、今やアンデウソン・シウバを超えるUFC史上最強のミドル級ファイターへの道が広がっている。

「俺は人間の精神力が無限であることを皆に知らせたかった」と試合後のアデサンヤは言った。どのような苦境に陥っても必ずそこから這い上がってくるアニメのヒーローたちに自らを例えもした。この手強いライバルはアニメ番組から出てきたわけではなかったが、過去の亡霊のようなものであったかもしれない。

ヤン・ブラホヴィッチにライトヘビー級で敗れたことを除けば、アデサンヤにとって最大のピンチは、過去のキックボクシング時代の悪夢の再来。そしてアデサンヤ的な価値観で言う『アニメ番組の悪役』は、昨年11月に自身を総合格闘技キャリア初のノックアウト負けに追い込み、タイトルを奪い取った男だったのだ。

とはいえ、それはアデサンヤ伝説のシリーズ最終回ではなかった。

「戦績は気にしない。決着はついた」と2度目の戴冠をはたしたアデサンヤはペレイラとのライバル関係について述べた。合計で1勝3敗、総合格闘技では1勝1敗である。ただ、戦績以上に『UFC 287』の決着は衝撃的なものだった。『ザ・ラスト・スタイルベンダー』は不利だと思われていた。パワーではペレイラが勝っていると誰もが考えていたからだ。

王権復古を遂げたアデサンヤ伝説の新章は?

アデサンヤとペレイラの対戦が再び組まれるとしたら、それは大きな話題を呼ぶことはまず間違いないだろう。しかし、アデサンヤも、UFCのダナ・ホワイト代表も、UFCでの第3戦の実現にはあまり積極的ではないようだ。ホワイト氏はペレイラがライトヘビー級に階級を上げても不思議ではないとも示唆した。ペレイラの体格はミドル級に留まるには大きすぎるのだ。

未来図はまだはっきりとは見えてこないが、現在のところ、アデサンヤが失いかけた伝説はその衝撃的なパンチによって縫い合わされた。多くの場合、あのような形での敗北を喫した元チャンピオンがかつての姿を取り戻すことは容易ではないのだ。

アンデウソン・シウバはクリス・ワイドマンに敗れた後は二度と元の姿に戻らなかった。同じことはコーディ・ガーブラント、ジュニオール・ドス・サントス、そしてマックス・ホロウェイといったファイターたちにも言える。彼らは一様に、ライバルにドラマチックな形で敗れたあとで復活を遂げることはできなかった。

アデサンヤは自分が取った作戦を「ロープ・ア・ドープ」と呼んだ。モハメド・アリが1974年にジョージ・フォアマンを倒した、あの作戦である。自分を「オポッサム」(捕食者に対して死んだふりをする生態を持つ野生動物)のように弱々しく見せかけて、ペレイラの油断を誘い、近距離からのカウンターを狙ったと言うのだ。自分より大きく、そしてパワーで優る相手には有効な作戦だった。アデサンヤは鋭く的確なパンチによって、かつてペレイラに奪われたタイトルを取り返した。

そしてアリと同じように、アデサンヤは自分の時代に幕を下ろすかもしれなかった試合に勝利したことで、新たな歴史を作る地平に足を踏み入れた。次戦の相手がペレイラとの第3戦になるのか、あるいは次世代のハビブ・ヌルマゴメドフと目されるカムザット・チマエフ(スウェーデン)のようなファイターになるかは、まだ分からないが。

アデサンヤ時代は第2章に入ったばかりだ。これからどのような伝説を築くことになるかはアデサンヤ次第である。

原文:Israel Adesanya rescues legacy with knockout of Alex Pereira and begins the next chapter of his career
翻訳:角谷剛
編集:スポーティングニュース日本版編集部

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Andreas Hale

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Andreas Hale is the senior editor for combat sports at The Sporting News. Formerly at DAZN, Hale has written for various combat sports outlets, including The Ring, Sherdog, Boxing Scene, FIGHT, Champions and others. He has been ringside for many of combat sports’ biggest events, which include Mayweather-Pacquiao, Mayweather-McGregor, Canelo-GGG, De La Hoya-Pacquiao, UFC 229, UFC 202 and UFC 196, among others. He also has spent nearly two decades in entertainment journalism as an editor for BET and HipHopDX while contributing to MTV, Billboard, The Grio, The Root, Revolt, The Source, The Grammys and a host of others. He also produced documentaries on Kendrick Lamar, Gennadiy Golovkin and Paul George for Jay-Z’s website Life+Times.