ハビブ・ヌルマゴメドフが引退──総合格闘技史上最強ファイターの称号を証明したのか

Andreas Hale

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UFCライト級王者のハビブ・ヌルマゴメドフ(ロシア)はUFC254でジャスティン・ゲイジー(米国)から2ラウンド目でサブミッションによる1本勝ちを収め、タイトルを防衛した。試合後すぐにマット上で行われた勝利者インタビューにおいて、ヌルマゴメドフは総合格闘技からの引退を涙ながらに発表した。ヌルマゴメドフは長年のトレーナーでもあった父を7月に新型コロナウイルスによる合併症で失っていた。

ヌルマゴメドフがこの言葉を守り、このままグローブを壁に吊るすことになれば、29勝0敗(8ノックアウト、11タップアウト)という完璧な成績のまま、無敵のライト級統一王者として総合格闘技の世界から立ち去ることになる。

このことは「The Eagle」(鷲)の異名を持つこのファイターを総合格闘技史上最強と認めるには十分だろうか?

多分、答えはイエスだ。

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GOAT(Greatest Of All Time, 史上最高選手のこと)を巡るスポーツ界の議論はしばしば決め手に欠けることがある。世代間の違いなど、様々な要素が絡んでくるからだ。総合格闘技は比較的歴史の浅いスポーツであるので、他のスポーツに比べると世代間ギャップが小さい。そのことは総合格闘技が今も進化し続けていることを大いに可能にしている要因でもある。

だが現時点においては、ハビブ・ヌルマゴメドフこそがこの世界の頂点に立っていると言ってよいのではないだろうか。

ヌルマゴメドフ最強説には強い根拠がある。

他にこの議論に名前が挙がる総合格闘技ファイターと言えば、ジョン・ジョーンズ(26勝1敗、1無効試合)、ジョルジュ・サンピエール(26勝2敗)、そしてエメリヤーエンコ・ヒョードル(39勝6敗、1無効試合)の3人だろう。アンデウソン・シウバは残念ながらこの議論には相応しくない。

ヌルマゴメドフについてまず挙げられるべきなのは、ヌルマゴメドフが無敗であるということだ。だがそれだけがヌルマゴメドフをトップに押し上げている理由ではない。このロシア・ダゲスタン共和国出身ファイターはストレート判定勝ち、タップアウト、あるいはノックアウトでしか勝ったことがないのだ。それどころか、ヌルマゴメドフがラウンド判定を落とすことさえ極めて稀であり、多くの強敵ファイターをなぎ倒してきたのだ。

ジョーンズの戦績も圧倒的な印象があるが、最近の戦いではドミニク・レイエスやチアゴ・サントスに苦戦を強いられているし、7年前の初対戦ではアレクサンダー・グスタフソンに瀬戸際まで追い込まれた。これらは壮大な場面の中のマイナーな出来事にすぎないが、それでもGOATを巡る議論においては見逃せない瑕疵となる。

ヒョードルはキャリア晩年にはかつての「ラスト・エンペラー」の異名が色褪せて見えたが、PRIDEで戦っていた頃はこのスポーツの歴史の中でもっとも圧倒的なヘビー級ファイターであったことには疑問の余地はない。

サンピエールは戦った相手のレベル、戦績、そして2階級王者であることから、もっとも偉大な存在であるとする意見がある。だが、2007年にマット・セラから番狂わせのノックアウト負けを喫したことが、GOATを巡る議論では大きな傷となる。

ヌルマゴメドフの最終成績は強い印象を残している。ジョーンズのように元チャンピオンを数多く倒したわけではないが、それでも無敗という事実は他のライバルたちに差をつけている。あえて難点を上げるとすれば、ヌルマゴメドフが王座を守った期間がジョーンズ、サンピエール、ヒョードル、そしてシルバと比べても、はるかに短いことだろう。だが、それでもヌルマゴメドフがキャリアのすべての時期において、つねに圧倒的な強さを示したことには議論の余地はない。

このスポーツの頂点に君臨していたコナー・マクレガーを破ったことがヌルマゴメドフをスポットライトに押し上げたが、そこに至るまでの道のりも同じように印象的だ。エジソン・バルボーザやハファエル・ドス・アンジョスといった有名選手たちを一方的に破り、マイケル・ジョンソンを血祭りにあげて、世界ライト級のトップ選手に名乗りでた。残念なことに、相次ぐ故障によって戴冠が遅れ、期待が大きかったトニー・ファーガソンとの対戦はついに実現しなかった。

その代わり、ヌルマゴメドフはマクレガー、ダスティン・ポイエーを連破し、そして12連勝中だったファーガソンを破ったジャスティン・ゲイジーまでも撃破し、タイトルを防衛した。繰り返しになるが、相手が誰であったということよりも、いかにヌルマゴメドフが相手を圧倒したかが問題なのだ。これらの試合は接戦ですらなかった。ヌルマゴメドフがその世界最高峰レベルのグラッピングとレスリングに持ち込むと、それに対抗できたファイターは世界中に存在しない。

これらの勝利をさらに際立させる事実は、ヌルマゴメドフはしばしば因縁となった対戦を相手の土俵で制したことである。マクレガーとゲイジーとの対戦では、打撃戦を展開して見せた。2018年のメガファイトでは、ストライカーとして知られるアイルランドのマクレガーをノックダウンさせたし、UFC 254では1ラウンド目の大部分をゲイジーと立ち技で応酬した。ヌルマゴメドフはしばらく打撃戦につきあった後で、最終的には締め技で勝利している。

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「The Eagle」(鷲)の異名を持つ32歳のヌルマゴメドフがキャリア最盛期に引退することは、GOATの座をさらに強固とするであろう。ヒョードルとシルバは長く戦い過ぎたために、残念ながらキャリアの後半では色褪せる結果となった。サンピエールは既に引退したので、その評価はあと何年か後に定まるだろう。だが、2回の敗戦と最初の引退前にジョニー・ヘンドリックスに苦戦したことが、サンピエールの経歴に傷をつけると思われる。

現役のジョーンズにはまだ自身のGOATの呼び名をさらに高くする可能性がある。もしジョーンズがヘビー級に階級を上げ、そこでも王者になるようなことがあれば、ジョーンズが頂点にいることを否定するのは難しくなる。だが、否定論者たちはジョーンズが禁止薬物検査で失敗したこととオクタゴンの外での愚かな行動の数々を問題にするであろうし、それらをジョーンズがヌルマゴメドフに劣る理由として挙げるだろう。

ヌルマゴメドフに匹敵するほどの圧倒的な強さを持ったファイターはいなかった。ライト級王座を統一したことで、ヌルマゴメドフにはもはや証明するべきものは何もない。もしヌルマゴメドフがウェルター級に転向して、もう1つの世界タイトルに挑んでいたら、どうなっていただろうと想像する人はいるかもしれない。だが、ヌルマゴメドフが最大の理解者であり、トレーナーでもあった父を失い、これ以上戦わないという約束を母と交わした以上、引退への決意は固いと考えるしかない。

あらゆるアスリートにとって、もっとも難しいことはトップの座にあるうちに引退することだ。もしそれができる者があれば、それはヌルマゴメドフだ。そして、この引退が維持されれば、ヌルマゴメドフは自らをこの地球上でもっとも偉大な総合格闘技家であると宣言できる経歴を築いたことになるだろう。

(翻訳:角谷剛)

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Andreas Hale

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Andreas Hale is the senior editor for combat sports at The Sporting News. Formerly at DAZN, Hale has written for various combat sports outlets, including The Ring, Sherdog, Boxing Scene, FIGHT, Champions and others. He has been ringside for many of combat sports’ biggest events, which include Mayweather-Pacquiao, Mayweather-McGregor, Canelo-GGG, De La Hoya-Pacquiao, UFC 229, UFC 202 and UFC 196, among others. He also has spent nearly two decades in entertainment journalism as an editor for BET and HipHopDX while contributing to MTV, Billboard, The Grio, The Root, Revolt, The Source, The Grammys and a host of others. He also produced documentaries on Kendrick Lamar, Gennadiy Golovkin and Paul George for Jay-Z’s website Life+Times.