【解説】大谷翔平も使う『ピッチコム』とは? ピッチクロック導入の影響は?

Edward Sutelan

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MLBでは近年、投手と捕手のサイン交換のために『PitchCom』(ピッチコム)という電子機器が使用されている。ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手が使っていることでも話題となっているこの機器について、本誌『スポーティングニュース』のEdward Sutelan記者が詳しく解説する。

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ピッチクロックの導入により脚光を浴びるピッチコム

大谷翔平が万能であることはすでに証明済みである。そして今シーズンの開幕戦で大谷はさらに進化した。

MLBの2023年シーズンが始まった日、ロサンゼルス・エンゼルスの開幕投手を務めた大谷はオークランド・アスレチックスの打線と相対した。マスクを被ったのは新人捕手のローガン・オハピーだったが、大谷は次の球種を自らが決め、サインを伝達したのだ。

スポーツ専門局『ESPN』が報じたところによると、エンゼルスのフィル・ネビン監督は大谷の球種が多いために捕手が大谷も合意する球種のサインを出すまでに時間がかかることがその理由だと説明した。2022年にはバッテリ―が合意に至る前に大谷が捕手からのサインに何回も首を振るシーンがしばしば見られた。

ピッチクロックが導入された2023年では、そのサイン交換に費やす時間的余裕がなくなったのだ。

「翔平(大谷)は投げられる球の種類がとても多い。だから何回もサインに首を振らなくてはいけないときもある。それだと制限時間に間に合わなくなるからね」とネビン監督は言った。

関連記事:ピッチクロックで試合時間は短縮されたのか? 2023年のMLB開幕戦のデータを前年と比較

PitchCom(以下、ピッチコム)はけっして新しいものではない。この電子機器がメジャーリーグに初めて提案されたのは2020年のことであり、MLB選手組合が使用を承認したのは2022年である。しかし、2023年からは新たなピッチコムの使用方法が注目されるようになった。投手たちが自らサインを決めるようになったのだ。

ピッチコムはこれからも定着するだろう。バッテリー間のコミュニケーションを円滑にし、そして相手チームからサインを盗まれにくくするという大きな利点があるからだ。

ピッチコムとは何か

2022年、MLB各チームは春季トレーニングキャンプでピッチコムと呼ばれる電子機器を使い始めた。その年の公式シーズンが開幕する際に、この機器の使用が承認された。

ピッチコムは投手、捕手、そして最大3人までの野手が着用し、次の投球に関する情報を共有することができる。1人の選手(通常は捕手だが、ときには投手のときもある)が球種とコースをこの電子機器から送信し、それ以外の選手たちは音声でその情報を受け取る。

技術系ウェブサイト『TechCrunch』の記事によると、この電子機器はピッチコムの共同創始者であるクレイグ・フィリセッティ氏が開発した。もともとはマジックショーで他のステージ共演者たちに合図を伝えるための手首に着用する機器がそもそもの始まりだった。フィリセッティ氏はこのショー用のオリジナル機器は60か国以上で1000件を越える使用実績があると述べている。

しかし、ヒューストン・アストロズのビデオ機器を用いたサイン盗みスキャンダルが話題になったことを受け、ピッチコム共同創始者のジョン・ハンキンス氏は野球のサイン盗みを防ぐためのサイン伝達システムに転用できるのではないかと考えた。

「野球界は長年この問題に取り組んできました。サイン盗みを防ぐための方法として数多くのアイデアが提案されました。ブザー音でサインを伝達することもそのひとつです。しかし9個ものブザーを数えることには時間がかかります。とくに誰かがサインに首を振ったときは」とハンキンス氏はTechCrunchに述べている。

ピッチコムのシステムはマイナーリーグ1Aと2022年の春季トレーニングキャンプで試された。そしてレギュラーシーズンから使用が承認された。

以前は捕手がサインを送信していた。手のサインで球種を、そしてミットでコースを投手に示していたのだ。投手はそのサインに首を振って次のサインを要求するか、あるいはサインに合意してから投球動作に移った。

この伝統的なバッテリー間のコミュニケーション方法がなくなるわけではない。エンゼルスの開幕戦ではオハピーがピッチコムの音声を聞き取れないトラブルが初回に発生し、そのイニングは伝統的な方法でサインを伝達した。イニング間にベンチでその問題が解決してからは、前述したように大谷がピッチコムからサインを送信した。

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ピッチコムはどのように作動するか

ピッチコムはひとりの送信者がサイン交換を始める。捕手か投手が9つのボタンで球種やコースを送信するための送信機器を着用する。それ以外の選手(バッテリーの相手と3人の野手)は受信用機器を着用する。

送信役の選手はボタンのコンビネーションによって特定の球種とそしてコースを入力する。すると受信役の選手は母国語の音声で球種とコースを聞く。

ピッチコムに不慣れな選手のために、送信機器を装着するリストバンドにサインとボタンの関係を説明するメモがついている。しかし、この機器に慣れていくうちに自分が必要とするボタンのコンビネーションを暗記してしまう選手も出てくるだろう。

捕手が送信役を務めることが多いが、最近では投手がそれを行うケースもいくつか出てきた。開幕戦の大谷がその最も新しい例だ。ほかにカンザスシティ・ロイヤルズのベテラン投手であるザック・グリンキーも自分自身がマウンド上からサインを送信する。

しかし、ESPNによると、大谷はこの機器を使うときにもユニークな方法を取る。ピッチコムを肩の近く、ジャージーの下に隠しているのだ。つまり大谷はこの機器を目で見ることはできないはずだ。ボタンのコンビネーションと球種の関係を暗記し、服の中に隠れたボタンの場所を手探りで正確に見つけ出していることになる。

バッテリー以外の受信者は内野の二遊間と中堅手になることが多い。次の球を知ることで、野手は打球の方向を予想することができる。たとえば、速球なら打者は振り遅れ、逆方向に打球が飛ぶかもしれない。あるいはスピードを落とした変化球なら、引っ張る打球が多くなる。

ピッチコムの形状

ピッチコムの送信機器は9つのボタンを持つ。テレビのリモートコントローラーのような見た目で、リストバンドに装着することができる。テレビアニメ『スペースレンジャー バズ・ライトイヤー』を連想してもらってもよい。

受信機器は小さなバンド状で、選手の耳のすぐ上に、帽子のつばに装着することができる。

ピッチコムの音声

ピッチコムがメジャーリーグで受け入れられた理由のひとつに、その音声がロボット合成音のように単一のものとは異なる点が挙げられる。ユーザーはその音声をカスタマイズできるのだ。ハンキンス氏がTechCrunchに述べた言葉によると、「自分のおばあちゃんにすることもできる」とのことだ。

発信役の選手は音声に自分の声を使うこともできるし、あるいは他の馴染みがある人物の声を選ぶこともできる。受信する選手たちは同じ言語というだけではなく、馴染みのあるアクセントでサインを聞き、間違いを防ぐことができるのだ。

原文: What is PitchCom in baseball? Explaining the device used by Shohei Ohtani, other MLB pitchers & how it works
翻訳:角谷剛

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Edward Sutelan

Edward Sutelan Photo

Edward Sutelan joined The Sporting News in 2021 after covering high school sports for PennLive. Edward graduated from The Ohio State University in 2019, where he gained experience covering the baseball, football and basketball teams. Edward also spent time working for The Columbus Dispatch and Cape Cod Times.