2023年MLBドラフト会議の前から、各球団のスカウトたちはフロリダ・アトランティック大学でプレイしていたノーラン・シャヌエル一塁手の打撃を称賛していた。バットの芯でボールを捉えるのが上手く、選球眼も良い同選手は早い時期にメジャーへ昇格するだろうと思われていた。
それでも、ロサンゼルス・エンゼルスがここまでシャヌエルの昇格を早めるとは誰も予想できなかったのではないだろうか。8月18日(日本時間19日)、ESPNのジェフ・パッサン記者はエンゼルスが2023年MLBドラフト全体11位のシャヌエルをメジャーに昇格させるとレポートした。ドラフト会議から約1か月しかたっていない。
エンゼルスがドラフト1巡目指名した選手がその年の1巡目指名選手たちのなかでだれよりも速くメジャー昇格することはこれで3回連続になる。チェイス・シルセスは2021年ドラフトで全体11位指名を受け、2022年にメジャーデビューをはたした。2023年は投手陣のなかで安定した存在感を示している。キャンベル大学の遊撃手だったザック・ネトは2022年ドラフトで全体12位指名を受け、2023年4月にメジャーデビューをはたして以来、エンゼルスの正遊撃手として活躍している。
シャヌエルの評価は高いが、それでも今回の昇格スピードはかなり大胆な選択に思える。プロ選手としては、まだマイナーレベルでたったの96打席しか経験がないのだ。地区首位から12.5ゲーム差、ワイルドカード最終枠からは7ゲーム差を追いかけているエンゼルスは、大谷翔平がフリーエージェントになる前にプレーオフに進出するために、ありとあらゆる手段を試していると見るべきだろう。
シャヌエルの昇格は他にもいくつかのチームが傘下マイナー組織からトップ有望株選手をメジャー昇格させるかもしれない日に行われた。メジャー枠に45日以上在籍した選手は新人王投票の対象から外れる。この日はシーズン最終日からちょうど45日前である。つまり、シャヌエルは今シーズン残りでメジャー経験を得た後でも、2024年の新人プレースに加わることができるのだ。
シャヌエルとはどのような選手かを下に紹介する。過去に高速でメジャー昇格した選手たちとも比べてみた。
ノーラン・シャヌエルのスカウティング・レポート
シャヌエルは安打を量産する能力が極めて高い。フロリダ・アトランティック大学時代の最終年では、59試合に出場し、打率.447、出塁率.615、長打率.868という驚異的な成績を残した。四球71個に比して、三振は14個しかない。本塁打も19本打ち、盗塁も14個だ。
パワーとスピードに関する数字からは5ツール・プレイヤーの潜在的な才能を感じさせるが、シャヌエルの真価はそこにはない。メジャーリーグにおいて一塁手や左右の外野手にポジションを限定されるほどのパワーは持ち合わせていないし、常に盗塁を狙えるほどのスピードもない。
しかし、エンゼルスがシャヌエルに信頼を置けるのは、安打を打つ能力だ。マイナーリーグでも四球の数は三振より11個も多かった。プロ入りしたばかりの選手としては目を見張る数字だ。選球眼が良く、安定してバットの芯でボールを捉える能力はメジャーリーグでもレギュラー選手になり得る資質を与えている。
シャヌエルは身長193㎝、体重100㎏の大型選手だ。その体格に見合ったパワーを発揮できるかが最大の課題になりそうだ。シーズン15本以上の本塁打は期待されるはずだ。守備は左右の外野もこなせるが、しばらくは1塁手に固定されるだろう。マイナーリーグでは1塁しか守っていない。
ノーラン・シャヌエルの成績
シャヌエルの2023年大学野球シーズンにおける成績は、打率.447で2位、出塁率.615で1位、長打率.868で2位、そして四球数71個はルイジアナ州立大学のディラン・クルーズと同数で並ぶ1位だった。ただし、シャヌエルの出場試合数はクルーズより12も少ない。
シャヌエルの驚異的な成績はプロ入りしてからも衰えず、今回の高速昇格に繋がった。
訳者注:シャヌエルは8月18日(同19日)のタンパベイ・レイズ戦に1番1塁手で先発出場し、メジャーデビューをはたした。デビュー戦での成績は4打数1安打1四球だった。
シーズン | レベル | 試合数 | 打席数 | 本塁打 | 盗塁 成功ー試行 | 四球率 | 三振率 | 打率/出塁率/長打率 |
2021 | 大学 | 55 | 244 | 11 | 6-8 | 11.5% | 8.6% | .343/.444/.576 |
2022 | 大学 | 58 | 277 | 16 | 11-12 | 14.1% | 7.9% | .369/.477/.658 |
2023 | 大学 | 59 | 289 | 19 | 14-15 | 24.6% | 4.8% | .447/.615/.868 |
2023 | ルーキー/A/AA | 21 | 96 | 1 | 2-2 | 21.9% | 10.4% | .370/.510/.493 |
ドラフト指名後に最速でメジャーデビューをはたした選手たち
シャヌエルのドラフト指名からメジャーまでの昇格はMLBの歴史でも稀に見る速さだった。しかし、最速記録はこれからも破ることは不可能である。
1972年6月6日、サンディエゴ・パドレスはオレゴン大学のデーブ・ロバーツ3塁手(訳者注:沖縄生まれのロサンゼルス・ドジャース監督とは同姓同名の別人)を全体1位でドラフト指名した。翌6月7日、ロバーツはパドレスと契約し、その日のうちにMLBデビューをはたしたのだ。史上唯一、ドラフト指名の翌日にメジャー昇格した選手である。
ベースボール・アメリカ誌のJJクーパー記者によると、ロバーツ以降、シャヌエルより速くメジャー昇格した野手は他に3人しかいない。
選手名 | チーム | シーズン | ドラフトからデビューまでの日数 |
デーブ・ロバーツ | サンディエゴ・パドレス | 1972 | 1 |
ボブ・ホーナー | アトランタ・ブレーブス | 1978 | 10 |
デーブ・ウィンフィールド | サンディエゴ・パドレス | 1973 | 14 |
ブライアン・ミルナー | トロント・ブルージェイズ | 1978 | 17 |
ノーラン・シャヌエル | ロサンゼルス・エンゼルス | 2023 | 40 |
シャヌエル以前の記録はすべて1965年にドラフトが発足してから15年以内に作られた。このリストにある5人はドラフトと同年にメジャーデビューした5人だけの野手でもある。
最後にドラフトと同年にメジャーデビューした選手はシカゴ・ホワイトソックスのギャレット・クロッシェ投手だ。テネシー大学で剛腕を謳われたクロッシェは2020年にドラフト指名され、そしてメジャーデビューをはたした。しかし、それは同年が新型コロナウイルスの影響でマイナーリーグが中止され、かつ大学シーズンも短縮されたことが理由であったようだ。2020年シーズンのクロッシェは6イニングしか登板していない。
原文: Who is Nolan Schanuel? Angels rush 2023 first-round pick to majors one month after draft
翻訳:角谷剛