これは懺悔である。我々がかつて大谷翔平について語ったことが誤っていたかもしれない。米国版スポーティングニュースを代表して、心からお詫びする。大谷のせいにしたいところだが、やはり我々が責を負うべきかもしれない。彼が歴史を作り続けることを止めないのだ。
2年前の2021年、我々は「スポーツ史に残る選手個人の最高のシーズン50選」をランク付けするというビッグ・プロジェクトを敢行した。そしてそのNo.1は大谷の歴史的な2021年シーズンであると結論で述べた。そのときはその答えで間違いなかったはずなのだ。しかし、我々はすぐにこれを訂正せざる得ないだろう。忌々しいことに、大谷があのときよりレベルアップしているのだ。
昨シーズンの大谷(9.6 bWAR)はすでに2021年シーズンを上回っていたではないかとあなたは言うかもしれないが、2023年シーズン後半戦が始まる7月14日(日本時間15日)を前にして、大谷の今シーズン成績はまたさらにその上を行くであろうことが明白に見えてきているのだ。
打者としての大谷はここまでメジャーリーグ全体でトップの本塁打(32本)、三塁打(6本)、長打率(.663)、OPS (1.055)、そして合計塁数(226)を挙げている。投手としての大谷は奪三振数(132個)でアメリカン・リーグの3位であり、9イニング平均奪三振数(11.8個)で同リーグ2位だ。エリートという称号をさらに特筆大書しなくてはならない。さらに付け加えると、大谷はメジャーリーグで最もヒットを打ちにくい投手だ。9イニング平均被安打数はわずかに6本であり、対打者打率は.189で、これらの数字もメジャーリーグでトップなのである。
したがって、大谷がすでにアメリカン・リーグ最優秀選手賞(MVP)の最有力候補であることには疑いの余地はない。大谷を抜く可能性がある選手などひとりもいないのだ。
しかしMVPレースの行方などは大谷の2023年シーズンが持つ歴史的な価値に比べると些少な物事に過ぎない。
大谷の投打合計のbWARは他を寄せ付けない6.5である。仮にシーズン後半戦で少し調子を落としたにしても、シーズン全体の数値は10かそれ以上になるだろう。我々がスポーツ史上最高のシーズンだと評価した2021年の大谷は、その数値が9だったのだ。
WARだけではない。大谷はここまでシーズン57本のペースで本塁打を量産している。自己ベストである2021年の46本を抜くかもしれないし、あるいはアーロン・ジャッジが昨シーズンに樹立したアメリカン・リーグ記録の62本を脅かすかもしれないのだ。
大谷がジャッジの記録を脅かすか、あるいは単に現在の打撃好調を維持すれば(繰り返すが、大谷のOPSは1.050である)、そしてエリート級の投手であり続ければ(繰り返すが、大谷は9イニング平均で約12個の三振を奪い、6本しか安打を打たれない)、2023年シーズンは単に自己ベスト更新のレベルには留まらず、スポーツ史における新たな最高の個人シーズンとなるだろう。
大谷の2021年シーズン成績と2023年のペースを比較すると以下のようになる。
2021: 打率.257、本塁打46 本、 100 打点、 .965 OPS; 9勝2敗、防御率3.18、奪三振156個、9イニング平均奪三振数 10.8個; 9 bWAR
2023: 打率.302、本塁打57 本、126 打点、 1.055 OPS; 12勝7敗、防御率 3.32、奪三振 235個、 9イニング平均奪三振数 11.8個; 13 bWAR
まさにG.O.A.T.(Greatest Of All Time)― 史上最高である。
もちろん、先はまだ長い。「ペース」は必ずしも「現実」ではない。それに大谷もやはり人間であることを垣間見せているのだ。オールスター戦前の最後の先発登板では、指にマメができたという理由で途中降板し、オールスター戦での登板を回避した。マメは短期的な問題かもしれないが、スポーツにおいてはシーズンを通した長期的な健康はけっして保証されるものではない。投手であれば尚更だ。大谷がさらに歴史的な活躍を続けるかどうかは、そこにかかっている。
もうひとつやっかいな問題がある。ロサンゼルス・エンゼルスがトレード期限までに大谷をトレードする可能性だ。ここのところエンゼルスは調子を落としており、またしてもプレーオフ進出が危なくなっている。新しいチームへの移籍に伴うストレスは大きくなることは予想できるし、それも別のリーグになるかもしれないのだ。さすがの大谷も歴史的ペースを続けることは難しくなるかもしれない。もっとも、そのことで大谷がかえって発奮して、さらに信じがたいレベルにまで成績を上げる可能性もあるわけだが。
いずれにしても、大谷がシーズン後半戦も前半戦と同じような成績を残せば、「スポーツ史に残る選手個人の最高のシーズン50選」は訂正されることになるだろう。スポーティングニュースは心からお詫びする。しかし嬉しい悲鳴でもある。
※記事内の成績は7月14日(日本時間15日)時点。
原文: Forget MVP, Shohei Ohtani is on pace for another greatest season in sports history
翻訳:角谷剛