MLBは監督に白旗を掲げる権利を与えるべきなのか。”禁忌を破った”タティスを巡る馬鹿げた議論への提言

Ryan Fagan

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8回、7点差リード、満塁、カウント3-0。その場面で本塁打を放った21歳のライジング・スターを巡る議論がやまない。フェルナンド・タティス・Jr.は敵チームだけではなく、自チームの監督からも批判を浴びた。その一方で、殿堂入りのレジェンドを始めとして、タティスの全力プレイを擁護する意見も多く聞こえている──

レンジャーズのクリス・ウッドワード監督とパドレスのフェルナンド・タティス・Jrを巡る”暗黙のルール”に関する馬鹿げた議論を解決するためには、極めて単純な方法が1つだけある。

参照記事:フェルナンド・タティスの"あるシチュエーション"での満塁弾が野球界の「暗黙のルール」破りに?

MLBは監督たちに白旗を掲げる権利を与えるべきなのだ。少なくともウッドワード監督に対しては。

テキサス・レンジャーズのウッドワード監督は8月17日(日本時間18日)の試合でタティスが8回に放った満塁弾に対して怒っている。そのときサンディエゴ・パドレスが10-3の大差で試合をリードしていたから、という理由だ。ウッドワード監督の考えでは、タティスはストライクゾーンを通った次の球を見逃すべきであって、ワン・ストライクが宣せられるべきだった。

なぜかウッドワード監督が強く信じている野球界の”暗黙のルール”によれば、試合終盤に7点差で勝っていたチームに所属するタティスは全力でプレイをしてはいけなかったのだ。

少し立ち止まって考えてほしい。パドレスが大差でリードしていた試合は、プロ同士の競技だ。両チームの選手たちは高い年収を得ている。ウッドワード監督はそれでも相手チームが全力を出すことをやめるべきだったと考えているのだ。

ウッドワード監督がタティスに全力を尽くすことをやめてほしいと願ったのは、この試合が既に終わっていたと考えたからに他ならない(そうではなかったし、その後でさらに決定的になったわけだが)。もしそれが本当で、チームが逆転する可能性がまったくないとウッドワード監督が考えたのなら、試合を止めてしまうことが許されるべきだったのだろう。

試合を止める手順はこうだ。パドレスがすべての塁を埋め、タティスが打席に入ったとき、ウッドワード監督がダグアウトから出てきて、球審に向かって白旗を振る。そこで試合が終わるべきだったのだ。

「やあ球審。7点差がついた。私たちにはあと6アウトが残っているけど、もう私たちが試合に勝つチャンスはゼロだ。こちらにはプロの打者が並んでいて、パドレスのリリーフ陣は不安定だけどね。なぜなら、私たちの投手がタティスからアウトを取れるとは思えないからだ。そうすると、パドレスはもっと点を取り、私たちにとってはさらに絶望的になる。今日の彼らは私たちよりはるかに素晴らしいから、私たちはここであきらめて、家に帰ることにするよ」……とウッドワード監督は言うべきだった。

馬鹿げているだろうか? 相手チームに全力プレイをやめるように願うよりはマシではないだろうか。やめるのなら負けているチームがやめるべきだ。勝っているチームにそれを望むのではなく。ただでさえ2020年シーズンは短い。ダブルヘッダーは7イニング制で行われるし、延長イニングは「タイブレーク」で無死二塁から始まる。せめて最後まで全力を尽くしたらどうなのだ?

現実にMLBの監督たちが試合を途中でやめる権限が持っていたら、一体どうなるだろう? 何人の監督が実際に試合をやめるだろうか。相手チームに全力プレイをやめることを望むのなら、自分からやめてしまえばいいのだ。言葉より行動で示すべきなのだ。

もちろん、そんなことは起こらない。起こるべきではない。野球は最後まで全力でプレイするべきなのだ。負けたくないのなら、良いプレイをすればいいのだ。

殿堂入りした2人のレジェンドもこの感情的な意見に同意している。

レッズで活躍したジョニー・ベンチ氏のツイート:
ボールを待ったとする。カウントは3-1だ。投手が次に良い球を投げてきたらどうする。カウントは3-2になる。そうなると、ゴロを打ってダブルプレイなんてこともありえる。誰もが3-0からでも打ちにいくべきだ。満塁ホームランは素晴らしい記録だ。

強打者として知られたレジー・ジャクソン氏のツイート:
フェルナンド・タティス、その調子で素晴らしい全力プレイを続けてほしい。君のプレイを見ていることは楽しい。君の個人成績もパドレスのチーム成績も上がっている。その調子だ。ホームランを打つことは容易なことではない。いつでも試合に全力を尽くすことをやめないでほしい。我々に必要なのは君のような選手だ。オールスターに相応しい。

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こうした擁護の声で浮き彫りにされる、この恥じるべき出来事をもう少し掘り下げてみよう。ウッドワード監督はカウント3-0でタティスがバットを振ったから怒っているのか、だ。

だが、タティスはただで3-0カウントを手に入れたわけではない。最初から3ボール、0ストライクの状況で打席に入ったわけではないのだ。レンジャーズはタティスが危険な打者であることを知っていた。この試合でも既にホームランを1本打っていた。シーズン10本目だ。最初の3球がストライクゾーンから大きく外れたのはそのためだろう。タティスにはストライクゾーンに入ってくる可能性が高い球を狙う権利があったはずだ。

実際、どこまでが許容範囲だったと言うのだろう? もしタティスがカウント2-0から満塁ホームランを打ったら、それは良いのか? カウント3-1ならどうなる? どちらも打者有利のカウントだ。なぜカウント3-0だけが特別なのだろうか。突然、監督が慈悲の精神を期待してしまうほどに。

伝統的に、3-0カウントからの球を見逃す打者は多い。だが、それは彼らが投手たちを思いやっているからではない。既に3球続けてボールを投げたということは、投手がコントロールを失ったとみて、次の球もボールになって、四球で出塁できる確率が高いと思われるから、あえてバットを振らないのだ。それは慈悲ではなく、戦略なのだ。

別の観点もある。パドレスは7点差でリードしていた。リトルリーグであっても、コールドゲームになるのは10点差がついたときだ。この試合は7点差しかついていなかった。

今シーズンは開幕してから3週間半しか経っていないが、1試合に7点以上の得点があった試合がどれだけあったか知っているだろうか? 150試合である。シーズン開幕後の25日間で、一日に平均して6チームが最低でも7点以上得点しているのである。

さらに言えば、今シーズンここまでに、8回と9回の2イニングで3点以上の得点があった試合も32回ある。8回裏にレンジャーズが3点か4点でも得点したら、試合の行方は完全にわからなくなっていただろう。特にパドレスのリリーフ陣の現状を考えるとそうである。

これも特筆すべき事実であるが、パトレスのリリーフ陣は今シーズンここまでの防御率が6.19だ。今シーズンはずっと良くない成績であったし、最近は特にひどい。前日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦では、リリーフ陣が3点を失って、5-4で敗れている。その前の試合では、同じく6点を失い、7-6で敗れている。

つまり、ウッドワード監督がこのリリーフ陣を相手に7点差を逆転することが不可能だと考えたのだとしたら、この打者有利の現代においては、自らのチームを侮辱したに等しい。

もう1点だけ言わせてもらおう。パドレスのジェイス・ティンラー監督が試合後に自分の選手を擁護しなかったのは恥ずべきことだ。同じことがパドレスのエリック・ホズマー一塁手にも言える。ホズマーは試合中、タティスに”暗黙のルール”を説明し、それを破ることがどれだけ悪いことかを言い聞かせていた。これも恥ずべき行為だ。

(翻訳:角谷剛)

Ryan Fagan

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Ryan Fagan, the national MLB writer for The Sporting News, has been a Baseball Hall of Fame voter since 2016. He also dabbles in college hoops and other sports. And, yeah, he has way too many junk wax baseball cards.